医療への関心と知識
交通事故被害者の方に関する情報は、全て弁護士のもとに集まってきます。
交通事故後、最初の通院先はたいてい現場近くの病院になり、2回目からは自宅から便利な病院に転院するのが通常です。治療に納得がいかなかったり、医師が話を聞いてくれないことや、整形外科医が接骨院への並行通院を認めてくれないといった事情で再度転院することも少なくありません。
その後に弁護士の紹介で再々度転院すれば、これだけで4院目となります。
MRIの撮影は通常の病院ではできませんから、さらにもう一院加わります。
損害賠償においては、まず、事故当初の診断内容が、後遺障害等級認定にとって十分なものであることがいち早く確認されなければなりません。当初右肩打撲と診断されていたものが、MRI撮影により右肩腱板損傷であることが発覚した場合には、事故当初の診断内容について再診断が必要となります。
また、前通院先との診断内容の整合性が図られていなければなりません。転院の前後で異なる傷病名の診断がなされてしまうと、転院後の傷病と交通事故との因果関係に疑義があるとか、転院前の傷病の存在自体が疑わしいとかという理由を付けられ、後遺障害等級非該当の認定を受けかねません。
転院先の医師が、自発的に前通院先でのカルテを見ることは、全くと言ってよいほどありません。
これに対し、弁護士はそれが可能です。
当弁護士法人では、通院がすでに終了している病院に対しては、受任後早々にレセプト、カルテの開示請求を行い、従前の通院状況や、画像の撮影状況を把握します。
これにより、当初診断の内容に、後遺障害等級認定との関係で問題があったり、その後の通院先での診断内容との間に齟齬があった場合には、MRI撮影魅了であれば直ちに撮影していただいた上で、各医師に再診断等を働きかけます。
後遺障害等級申請前にこの手続きをしておくか否かで、等級認定を取得できる確率は格段に違います。
例えば、交通事故で首と腰を痛めた被害者の方について、初回診断において頸椎椎間板症という傷病名が付されました。
しかし、頸椎椎間板症は、通常外傷性のものではなく、このような診断は、後遺障害等級認定との関係では、事故起因の負傷ではないと宣言しているようなものと言っても過言ではないと思います。
カルテを見た私は早速連携医に問い合わせたところ、やはり問題は大きく、頸椎椎間板症であれば、まず後遺障害等級は付かないであろうこと、傷病名としては、基本的には頸椎捻挫、外傷性頸部神経根症、外傷性頸部症候群等となり、よほど明らかに突出があり、上肢の知覚・運動の障害が強い場合であれば、外傷性頸部椎間板ヘルニアとなること、ご依頼者の症状と通院状況からしてその可能性は十分あることなどの意見が得られました。
そこで、直ちに初回診断を行った整形外科に通院し、再診断を依頼しました。当該医師は、当初、その後他院に通院していることから再診断も他院で行うべきであるといったご意見でしたが、何度か話すうちご理解いただき、再診断に応じて下さることになりました。
私が、交通事故に興味を持ったきっかけは、医療に関する興味からでした。
私は、14歳の多感な時期に、祖父を医療過誤で亡くした経験があります。本来AB型のRh-であるはずの祖父に、RH+の血液が輸血され、祖父の容態は見る見るうちに急変しました。
祖父は数日で亡くなりましたが、家族が医師や看護師を責めることはありませんでした。
しかし私には、医療への強い関心と医療も人間が執り行う以上、ミスは付き物であるという感覚が残りました。
私が日々、六法全書に見入っている同僚の弁護士を尻目に、ご依頼者の方のカルテと睨めっこしているのも、医療への関心が高く、興味がそちらへ行ってしまうからでしょう。
また、医師に対する姿勢としても、診断を過信することなく、かと言ってミスを責めるのではなく、その時点における当該診断の合理性と、その診断の経緯をよく理解した上で、画像を新たに取得することなどにより、当該診断時点の頸椎椎間板症が、実は椎間板ヘルニアであったとの再診断を頂けるよう、医師と話し合っていきます。
等級認定基準が厳しくなっている今日では、できるだけ早く弁護士に相談して医療記録を収集し、後遺障害等級認定の確立を上げていかなければ、交通事故で被った被害と苦痛に相応しい賠償金を手にすることができないのが現状です。