脊髄損傷について
交通事故により脊髄損傷を負ってしまうと、重度の麻痺や知覚の異常など、重い後遺症が残ることになります。ただし、中心性脊髄損傷のような不完全損傷の場合は、症状から単にむちうちと診断され、見落とす可能性もあります。
被害者が無事に社会復帰するためにも、被害者のご家族は適正な後遺障害等級を獲得するための正しい知識を把握しておく必要があります。
この記事では、脊髄損傷の症状と適正な後遺障害等級を獲得するためのポイントについて詳しく解説していきます。
脊髄損傷とは
脊髄とは、脳の最下部である延髄から下に向かって伸びている円柱状の神経線維の集合で、脳と全身の運動神経や感覚神経などを結ぶ役割を担っている中枢神経です。
脊髄損傷の原因の多くは、交通事故で脊柱に強い外力が加わり、脊柱が脱臼や骨折等により損壊し、脊髄が圧迫されることで起こります(外傷性脊髄損傷)。
ただし、脱臼や骨折がなくても脊髄損傷が生じる場合があります。これを「非骨傷性脊髄損傷」と言います。また、脊髄中心部の損傷を「中心性脊髄損傷」と言い、中心性脊髄損傷の発症例の多くは非骨傷性脊髄損傷が原因とするものす。
脊髄損傷の症状
脊髄損傷を負うと、髄節(脊髄の31分節)の損傷部位とそれより下の神経が機能不全に陥り、運動・知能の障害が出ます。
脊髄の損傷レベルにより運動麻痺や感覚障害の分布は異なりますが、典型的な症状として、体が動かず感覚が失われる「完全損傷(完全麻痺:頚椎では四肢が全く動かない四肢麻痺)」と、体は少し動くが感覚が残るため痺れが生じる「不完全損傷(不全麻痺)」があります。
また、不完全損傷では、脊髄の半側が障害された場合の運動麻痺や感覚麻痺の症状のことを脊髄半側症候群(ブラウン・セカール症候群)と言います。
末梢神経とは違い、脊髄損傷により中枢神経を損傷してしまうと二度と再生されることはありません。ただし、近年では、頚椎脱臼による完全麻痺に対して6時間以内の迅速な整復(骨折やはずれた関節などを、もとの正常状態になおすこと)により、麻痺が劇的に改善することもあります。頚椎の骨折や非骨傷性頚髄損傷の場合でも、初期の段階で減圧術を行うことで麻痺が改善する可能性があります。
また、成人とは異なり成長途上にある15歳以下の小児の場合は、頸椎の骨化が完了していないため、神経の機能不全が一時的なものにとどまり、比較的早く回復することもあります。ただし、小児の場合でも手足に痛みや痺れを残すケースがあります。
「脊髄損傷で発生する主な症状」
運動麻痺・感覚障害・反射障害・循環器障害・呼吸障害・排尿障害・消化器障害・体温調節の異常、拘縮、痙縮等
脊髄と脊椎の違い
脊髄は、脳との神経細胞の集合体で、脳から脊髄へ命令を出し、体中の筋肉を制御している中枢神経です。対して、脊柱は、頸椎(けいつい)、胸椎(きょうつい)、腰椎(ようつい)、仙髄(せんずい)で構成されていて体を支える中軸の骨組みです。
脊髄と脊柱の違いを簡単に説明すると、神経(脊髄)と骨(脊柱)の違いです。脊髄損傷を負った人のほとんどは脊柱にも損傷を負っていますが、後遺障害認定基準では、脊髄と脊柱の障害は明確に区別されています。
脊髄損傷の後遺障害等級と認定基準
脊髄損傷の後遺障害等級と認定基準は下記のようになります。
後遺障害等級 | 認定要件 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
1級1号(別表第1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,600万円 | 2,800万円 |
2級1号(別表第1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1,163万円 | 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 829万円 | 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 599万円 | 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 409万円 | 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 245万円 | 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 93万円 | 290万円 |
脊髄損傷の後遺障害等級を獲得するポイント
脊髄損傷の後遺障害等級認定では、MRIやCT等の画像所見だけではなく症状に応じた適切な検査で神経所見を得る必要があります。
ただし、脊髄のいかなる部分に損傷を生じたことによる障害なのかによって確認のテストは異なりますので、後遺障害等級認定を獲得するためには、どのような中枢神経障害の検査が必要かを見極める必要があります。
誘発テスト
誘発テストは、神経を圧迫したり牽引することで上肢や下肢に異常があるかを確認するためのテストです。以下の2つのテストで確認します。
-
- ・スパーリングテスト
患者の頭部を症状がある側に後側屈(後ろに傾け)させ、険者が上から圧迫し軸圧を加えることで確認します。
-
- ・ジャクソンテスト
頭部を後に曲げ、軸圧を加えて圧迫することで確認します。
深部腱反射
深部腱反射(しんぶけんはんしゃ)は、腱の防御性の収縮を測るためのテストです。腱の先端をゴムハンマーで叩き、筋肉の伸縮を判定スケールによって測定します。
徒手筋力テスト
徒手筋力テストは、それぞれの筋又は筋群(筋に協働して動く筋の群れ)に対して一定の順番に徒手抵抗を加えることで筋の伸縮保持能力を測るテストです。筋肉の筋力を判定スケールによって測定します。
病的反射
病的反射の検査では、心臓や脳に近い中枢側にある上位運動ニューロン(神経細胞)に障害があるかを確認するためのテストで、上肢の錐体路徴候を診ます。障害が生じている場合、健常者にはないような反射が出現します。
-
- ・ホフマン反射
ホフマン反射は、弱い刺激を与えて指が屈折反射するかを確認するテストです。検査内容は、患者の中指上から下にをはじいて確認します。脊髄損傷がある場合は、患者の親指が内側に屈折します。
-
- ・トレムナー反射
トレムナー反射は、中指を伸展させた状態で指先の腹掌側を弾くことで確認します。脊髄損傷がある場合は、患者の親指が内側に屈折します。
-
- ・ワルテンベルク徴候
ワルテンベルク徴候は、検者の患者の人差し指から小指を屈曲させ、検者の同じ指と引っ張り合いをさせて反射を確認するもので、脊髄損傷がある場合は、患者の親指が内側に屈曲します。
筋萎縮検査
筋萎縮検査(きんいしゅくけんさ)は、脊髄障害に伴う運動量減少による筋肉の羸痩(痩せ)を測るためのテストです。大腿部と下腿部の筋肉の厚みを左右で比較して測定します。
適切な後遺障害等級認定のためには弁護士のサポートが必要
被害者のご家族は、被害者が社会復帰するための準備として、家屋や車の改造などあらゆる生活環境の整備が必要になってきます。経済的にも精神的にも大きな負担がかかることは言うまでもありません。
交通事故の後遺障害は認定される等級によって賠償額に大きな差がでます。そのため、適正な等級を獲得するにはご家族が積極的に行動をとる必要があります。ただし、一般の方だけで適切な脊髄損傷の慰謝料を獲得するのは非常に困難です。
脊髄損傷の後遺障害を認定してもらうためにも、被害者の社会復帰のために適切な治療を受けるためにも、脊髄損傷の医学的知識を有し、治療や検査の適切なアドバイスができる交通事故の専門家である弁護士のサポートが必要不可欠です。
また、弁護士が介入することで、高額な賠償基準が設定されている弁護士基準を用いて慰謝料を算定することが可能になります。それにより、保険会社が提示する慰謝料と比べて3倍以上の差がつくことも珍しくありません。
現在では医療の発展により脊髄損傷のリハビリ医療システムも大幅に変化しています。適切なリハビリを続けることで、障害を軽減し家庭復帰や職場復帰、復学など、無事に社会復帰できるケースが増えています。被害者の方は治療に専念して、加害者(保険会社)との交渉は弁護士に任せることが適切な対応といえます。
まとめ
今回は、脊髄損傷の症状と適正な後遺障害等級認定を受けるるためのポイントについて解説しました。大切なご家族の社会復帰に向けて一歩前進するためには、保険会社から適正な慰謝料を獲得しなければいけません。
脊髄損傷の損害賠償請求では、後遺障害慰謝料以外にも逸失利益や将来介護費、家屋・車両改造費など、様々な慰謝料が請求できます。
ただし、交通事故の損害賠償における立証責任は被害者にあります。また、自らで任意保険会社と交渉しても正当な慰謝料が提示されることはまずありません。まずは無料相談を利用して、交通事故の専門家である弁護士から適切なサポートを受けるようにしましょう。
弁護士法人オールイズワンは、脊髄損傷の被害者サポートに多くの経験と実績を持ちます。お気軽にご相談ください。