基礎知識

自賠責保険の被害者請求とは?請求方法からメリットまでを解説

自賠責保険の被害者請求
住友麻優子

【監修】 弁護士 青木芳之
/弁護士法人オールイズワン浦和総合法律事務所

交通事故の損害賠償に注力する弁護士です。特に重大事故(高次脳機能障害、遷延性意識障害、脊髄損傷、死亡事故など)は実績豊富です。最大限効果がある解決策をご提案します。

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交通事故の被害者となってしまったら、多くの場合、治療費や休業損害、後遺障害に関する損害等は、いずれも加害者が加入する任意保険会社に支払を求めることになります。しかしながら、中には加害者が任意保険に未加入であったり、又は任意保険会社に手続きを委ねるのが適切でない場合があります。

そこで、本記事では被害者請求のいろはについて解説いたします。

自賠責保険とは

自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法(通称:自賠法)によって、自動車を運行の用に供する際に必ず加入しなければならないとされている保険です。この保険は、交通事故による人身損害について、最低限の保障を目的として、その内容を定めています。

なお、自動車の保険としては、多くの人が自賠責保険のほか、各々で任意保険に加入しているのが一般的です。自賠責保険の保障の枠を超えてしまった損害がある場合、任意保険が超過分を補填する二階建ての構造により、もしもの事態に備える形をとっています。

交通事故における自賠責保険への2つの請求方法

交通事故の被害者になってしまった場合、被害者の過失割合が大きくない限り、相手方の任意保険会社は一括対応により、治療費の支払等につき窓口となって進めてくれます。一方、自賠責保険は、加害者の代わりとなって窓口役を担ってくれることはありません。そのため、被害者は自己負担が発生した際には、都度、請求手続を行う必要があります。

自賠責保険への請求方法としては、次の2つの方法が用意されています。

被害者請求

被害者請求とは、自賠法第16条を根拠として、被害者が直接、加害者が加入する自賠責保険会社に請求を行う方法です。

治療費や休業損害、慰謝料等の傷害部分の請求や後遺障害が残存してしまった際の等級認定を求める請求等、それぞれについて被害者自身が資料を準備し請求することになります。資料準備の手間がかかることや、そのための知識を要することはデメリットですが、その分、自分が納得のいく請求を行えることがメリットです。

加害者請求

加害者請求は、加害者又は加害者が加入する任意保険会社が自賠責保険に請求を行う方法で、自賠法第15条をその根拠とします。

一括対応により被害者に支払を行った任意保険会社は、この方法により、本来は自賠責保険が負担すべき一階部分の損害金を求償しています。

また、後遺障害部分についても一括対応時には同様の流れがとられることが多いですが、この場合、任意保険会社が支払うべき額を算定する目安を得るために「事前認定」の手続きが認められています。事前認定の場合、任意保険会社が後遺障害診断書ほか等級申請に必要な資料を用意し、損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所に対して、あらかじめ等級のお伺いを立てることになります。

被害者請求と比べ、必要書類を任意保険会社が準備してくれることで手間を省けることがメリットとなりますが、その分、申請内容が不透明・不十分となってしまう可能性があることがデメリットです。

被害者請求したほうがいいケースとは

被害者請求・加害者請求ともに一長一短がありますが、次のケースでは、被害者請求を行うことで大きなメリットを得ることができます。

加害者が任意保険に加入していない

加害者が任意保険に加入しておらず、資力も乏しい場合、被害者は多額の自己負担を強いられる可能性があります。この場合、自賠責保険に対して被害者請求を行うことで、傷害部分については上限120万円を、後遺障害の等級が認められた際には等級ごとに定められた金額を、それぞれ回収することができます。

示談交渉が長引きそうなとき

加害者又は加害者側任意保険会社との示談交渉が長引いてしまった場合、被害者は当座の自己負担により逼迫してしまうことがあります。そのような場合、自賠責保険には、加害者や任意保険会社とのやり取りとは独立して請求が可能ですので、自賠責保険の限度額内であれば自己負担額を回収することができます。

被害者の過失割合が大きいとき

被害者の過失割合が大きい場合、加害者側の任意保険会社が一括対応を拒否することがあります。その場合には、示談完了時まで任意保険会社からの支払は期待できませんので、適宜、被害者請求で当面の負担を軽くする必要があります。

後遺障害等級の申請を行うとき

後遺障害等級の申請を行う際は、任意保険会社が一括対応をしているか否かにかかわらず、被害者請求をすべきです。任意保険会社は、あくまで加害者の利益を求める立場ですので、事前認定において、積極的に被害者の後遺障害を立証するために試行錯誤する立場にはないためです。後遺障害分の損害額は、賠償金全体の中でも特に大きな部分を占めるため、被害者請求により万全の準備を整えた上、申請すべきです。

被害者請求できる項目

自賠法第1条では「人の生命又は身体」の損害賠償を目的として謳っています。そのため、被害者請求により自賠責に請求可能な費目は人身損害に関するものに限られ、具体的には以下のものが対象となります。

  1. ① 治療関係費(診察料、通院費、看護料等)
  2. ② 文書料(交通事故証明書、印鑑証明書等)
  3. ③ 休業損害
  4. ④ 入通院慰謝料
  5. ⑤ 後遺障害による損害(逸失利益、後遺障害慰謝料)
  6. ⑥ 死亡による損害(葬儀費、逸失利益、慰謝料等)

被害者請求の流れ

被害者請求を行う場合、以下の流れが基本となります。

  1. ① 自賠責保険会社に請求を行う。
  2. 被害者は、交通事故証明書により加害者側の自賠責保険会社を確認の上、その保険会社に請求を行います。必要書類については、請求先の自賠責保険会社に問い合わせれば、一式を入手することができます。 なお、請求のタイミングは、傷害部分については適宜、後遺障害部分については症状固定の診断を受けて以降です。
  3. ② 自賠責保険会社から審査機関に書類が渡る。
  4. 自賠責保険会社は独自に審査を行うわけではありません。実際に審査を担当するのは損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所という公正中立の機関です。
  5. ③ 審査完了後、自賠責保険会社に結果が報告される。
  6. 審査が完了した際は、その結果内容が自賠責保険会社に報告されます。被害者に対して直接、損害保険料率算出機構から結果が知らされることはありません。
  7. ④ 自賠責保険会社から被害者に対して結果が通知される。
  8. 自賠責保険会社から被害者に対して審査結果が通知されます。損害保険料率算出機構からの別紙がある場合には合わせて通知されることになります。
  9. ⑤ 支払うべき保険金がある場合、自賠責保険から支払が行われる。
  10. 支払先となる銀行等の口座は、被害者請求の際に提出する支払請求書兼支払指図書にて指定します。

自賠責保険に提出する被害者請求の必要書類

書類の種類 入手方法
支払請求書兼支払指図書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、必要事項を被害者が記入する。
事故発生状況報告書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、被害者が図解及び説明文を作成する。
委任状 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、必要事項を被害者が記入する。
通院交通費明細書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、必要事項を被害者が記入する。必要に応じて領収書等を添付する。
休業損害証明書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、就労先に作成を依頼する。
交通事故証明書 安全運転センターに請求する。 (任意保険会社からコピーを取得できる場合あり。)
印鑑登録証明書 住民登録をしている地を管轄する役所に請求する。
戸籍事項証明書(謄本・抄本) 本籍地を管轄している役所に請求する。
(経過)診断書・診療報酬明細書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、入通院先の病院に作成を依頼する。 (一括対応時には、任意保険会社からコピーを取得する。)
後遺障害診断書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、主治医に作成を依頼する。
死体検案書・死亡診断書 死亡の診断を行った病院に請求する。
X-P、CT、MRI等画像 画像撮影を行った医療機関に請求する。
施術証明書・施術費明細書 請求先となる自賠責保険会社から書式を入手し、通院先の整骨院、接骨院、鍼灸治療院等に作成を依頼する。 (一括対応時には、任意保険会社からコピーを取得する。)

被害者請求の2つの方法

被害者から自賠責保険に請求する方法としては、次の2つが定められています。

仮渡金請求

自賠法第16条に基づき被害者請求を行う場合、審査に要する期間があるため、直ちに支払を受けられるわけではないことに注意しなければなりません。請求費目によっては支払が1~2か月以上先になる可能性もあるため、当座の費用工面については別の方法を検討する必要があります。

そこで、選択肢の一つとなるのが仮渡金の制度です。仮渡金は自賠法第17条に根拠が定められており、賠償金額が未確定の状態でも請求することができます。

なお、具体的な金額は自賠法施行令第5条により次のとおり定められています。

条件 金額
死亡した者 290万円
次の傷害を受けた者
イ 脊柱の骨折で脊髄を損傷したと認められる症状を有するもの
ロ 上腕又は前腕の骨折で合併症を有するもの
ハ 大腿又は下腿の骨折
ニ 内臓の破裂で腹膜炎を併発したもの
ホ 14日以上病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
40万円
次の傷害を受けた者
イ 脊柱の骨折
ロ 上腕又は前腕の骨折
ハ 内臓の破裂
ニ 病院に入院することを要する傷害で、医師の治療を要する期間が30日以上のもの
ホ 14日以上病院に入院することを要する傷害
20万円
11日以上医師の治療を要する傷害(上記に掲げる傷害を除く。)を受けた者 5万円

本請求

本請求は、自賠法第16条請求を指します。各費目につき、根拠資料を用意した上で請求することになります。資料の準備にはどうしても時間を要しますので、必要に応じて仮渡金請求を先行させることを検討することになります。

被害者請求の請求期限(時効)は3年

自賠法第19条では、請求を行うことができる期間について「損害及び保有者を知った時から3年」と定められています。

これにより、具体的には各費目の請求期限は次のようになります。

  • 傷害部分 : 事故日の翌日から起算して3年
  • 後遺障害部分 : 症状固定日の翌日から起算して3年
  • 死亡に関する保険金 : 死亡日の翌日から起算して3年

なお、平成22年3月31日以前に発生した交通事故の場合は、各費目とも「2年」となるので注意が必要です。

被害者請求を弁護士に依頼するメリット

被害者請求は、主張内容を漏れなく損害保険料率算出機構に提出できる一方、そのための準備で多くの手間をかける必要があります。また、せっかくの主張の機会も、しっかりとした知識を持っていなければ、ただ手間を増やすだけの手続きとなってしまいます。そのため、弁護士に相談するのも選択肢の一つです。

交通事故に強い弁護士であれば、被害者請求に要する資料の準備を全て任せることができます。また、しっかりとした資料提出により、後遺障害等級の認定可能性に期待を持つことができます。

まとめ

以上、交通事故における被害者請求に関して解説しました。交通事故の被害者は、多くのことを考え、必要な手続きを行い、将来に備えた解決を図らなければなりません。しかしながら、実際には身体の不調を抱えながらの動きとなってしまうため、想像以上に大きな負担を伴うことになります。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故事件の解決を主業務として長年取り組んでまいりました。その経験から、万全の準備を経た被害者請求を行うことが可能です。被害者請求に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。