基礎知識

交通事故の治療に健康保険を使う際の注意点について

交通事故の治療に健康保険を使う際の注意点について
交通事故の治療に健康保険を使う際の注意点について

交通事故の被害者になってしまった場合、負傷の状態によっては長い通院生活を強いられます。この際、加害者や保険会社から治療費の支払を受けられれば問題ありませんが、過失割合や加害者の任意保険不加入等の事情により、それが叶わないケースも珍しくありません。

そのようなとき、自己負担による通院の助けとなるのが健康保険です。ただし、健康保険を使用する方法やメリット・デメリットはよく理解しておく必要があります。

そこで、本記事では交通事故に係る治療で健康保険を使用する際に考えるべきことについて解説いたします。

交通事故の治療に健康保険は使える?

健康保険は、業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行う医療保険制度です。日本では国民皆保険制度により、国民は何かしらの公的な医療保険に加入することになっており、疾病等で医療機関を受診する際には、基本的に医療保険を使用することができます。

交通事故の被害者となり通院を余儀なくされた場合、多くの場合は加害者側保険会社が一括対応により治療費の支払を行ってくれます。そのため、意識する機会は少ないかも知れませんが、実は交通事故に係る治療でも健康保険を使用することは可能です。

ただし、実際に健康保険を使用する場合には「第三者の行為による被害届」(以下「第三者行為届」)という書類を提出する必要があります。

第三者行為届は、加害者の情報や過失割合、保険会社情報、示談の状況等を記載する書式です。このような情報を届け出る必要があるのは、健康保険が被害者に対して求償請求するためです。交通事故に係る治療費は本来、加害者が支払うべきものであるため、健康保険としては甘んじて負担するわけにはいかないのです。

健康保険を使ったほうが良いケースとは

健康保険を使用するメリットは、医療機関の窓口で支払う金額を低く抑えることができることです。医療費は「1点〇円」という計算方法により算定されます。そして、この単価は健康保険を使用する場合としない場合とで異なり、健康保険の1点単価は10円とされています。

一方、健康保険を使用しない、いわゆる自由診療の場合、1点単価は20円以上となるのが通常です。そのため、健康保険を使用することで、自由診療の際の半額以下に医療費を下げることができます。さらに、現在の健康保険制度では、6~69歳の場合、医療費の本人負担は3割とされています(6歳未満及び70歳以上の場合、本人負担は更に小さくなります。)。

つまり、例えば1点単価20円の自由診療で20,000円となる医療費であった場合、健康保険を使用することで10,000円となり、そのうち本人負担額は3,000円ということになります。

このように本人負担額を抑えることができますが、追突事故等で100%被害者となり、加害者側保険会社が一括対応してくれている限りは、特に気にする必要はありません。しかしながら、次のケースでは健康保険の使用を検討する必要が生じます。

被害者にも過失がある

まずは、被害者にも過失がある場合です。追突事故や信号無視、センターラインオーバー等以外の事故態様では、当事者双方に過失があるものと判断されるのが通常です。

そして、このような場合、治療費を含む損害賠償額の全体から過失割合分が減額された金額が、最終的な示談金額となります。そのため、過失割合が大きくなる場合には、過失相殺される金額を小さくするため、治療については健康保険の使用を検討することになります。

保険会社に治療費の支払いを打ち切られた

保険会社が一括対応している場合でも、早期に治療費の打切りが言い渡された際には健康保険の使用を検討します。まだまだ治療が必要ということであれば、健康保険を使用し、納得のいく時期まで治療を継続するべきです。

加害者が任意保険に加入していない

加害者が任意保険に加入していない場合には、基本的に健康保険を使用すべきです。自動車同士の事故の場合、基本的には自賠責保険の加入は想定されますが、自賠責保険における傷害部分の上限額は120万円です。そのため、治療費についてはできる限り圧縮しておく必要があります。

加害者が自賠責保険に加入していない(無保険)

自転車との事故や、自賠責保険不加入の自動車との事故では、被害者は自己負担での治療を余儀なくされます。勿論、最終的に加害者自身への請求は可能ですが、加害者に資力がない場合には被害者の泣き寝入りとなってしまうケースも珍しくありません。そのため、最悪の事態に備え治療費は抑えておくに越したことありません。

加害者を特定できない・連絡が取れない

ひき逃げ等で加害者が特定できない場合には、最終的に全額自己負担となってしまう可能性があります。このような場合には、健康保険を使用して少しでも自己負担を少なくする必要があります。なお、このようなケースでは政府保障事業制度の使用を検討すべきです。

また、特定はできていても連絡が取れないときは、当面の費用は自身で立て替え、最終的には調停や訴訟を検討することとなります。この場合も、長期戦になることを想定し、健康保険を使用し治療費を圧縮しておくべきでしょう。

健康保険を使う必要がないケースとは

次のようなケースでは健康保険を使用する必要はありません。

加害者側の保険会社が治療費を支払う

被害者に過失が全くなく、加害者が任意保険に加入していれば一括対応により医療機関に直接、治療費を支払ってくれます。この場合は、わざわざ第三者行為届の提出等、煩わしい手続きをとって健康保険を使用する必要はありません。

仕事中の交通事故で労災保険を使う

労災保険の対象となる場合も健康保険を使用する必要はありません。労災保険は、業務としての運転中は勿論のこと、条件を満たせば通勤時における交通事故でも適用対象となります。

労災保険では、治療費を負担してもらえるほか、休業損害でメリットを得ることができます。すなわち、労災保険の休業補償では、被害者の方の平均賃金の6割分にあたる保障のほか、2割分の特別支給金を受け取ることができます。

この特別支給金分は、最終的な損害賠償額から控除する必要がないとされており、実質120%の休業損害を受け取ることができることになります。

健康保険を使用する際の注意点

交通事故に係る治療で健康保険を使用できるという話をしてきましたが、次のケースでは注意が必要です。

病院によっては拒否されることがある

医療機関によっては、健康保険の使用に難色を示すことがあります。

というのも、医療費は点数制をとっているため、医療機関としては健康保険を使用されてしまうと同じ治療をしても収益が半分以下となってしまいます。そのため、最悪の場合、治療を受けられないということがあり得ます。

診療内容によっては使えないことがある

交通事故に係る治療でも、その全てに健康保険を使用できるわけではありません。

治療方法の中には大学病院等で研究中の、いわゆる先進医療というものがあります。健康保険の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)では「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」は給付の対象に含まないとされています。そのため、治療内容によっては、予期せぬ高額請求を受ける可能性がありますので注意が必要です。

自由診療からの切り替え

事故直後に加害者との話がまとまらず、一旦自由診療で治療を開始したものの、その後も話がまとまらず自己負担を強いられた場合等では、高額な治療費に困惑してしまうことがあります。

このような場合、医療機関によっては過日分についても健康保険単価に差し替えてくれるところがあります。万一、このようなケースに陥ってしまった場合は、医療機関に掛け合ってみるべきでしょう。

健康保険の使用は交通事故に強い弁護士に相談する

健康保険制度は一朝一夕に理解できるものではありません。そのため、弁護士に相談するのも選択肢の一つです。

交通事故に強い弁護士であれば、治療を受けるための最善の方法をアドバイスすることができます。また、健康保険を使用する場合には、第三者行為届等の書式の準備や、健康保険の使用を渋る医療機関との交渉等も行うことができます。

まとめ

以上、交通事故の治療における健康保険の使用に関して解説しました。交通事故では、加害者の場合、保険会社が大抵のことを代理してくれますが、被害者の場合はそうはいきません。治療を受けるだけでも、煩雑な手続きが必要になり、また、判断に迷う事態が多く想定されます。そのため、独力での解決は思いのほか難しいものです。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故事件の解決を主業務として長年取り組んでまいりました。その経験から、健康保険に関することや医療機関とのコミュニケーション等、総合的にアドバイスを差し上げることが可能です。健康保険治療に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。