交通事故で脊椎圧迫骨折を負った場合の後遺障害について
圧迫骨折は主に脊椎(いわゆる背骨)に生じる骨折の一つです。脊椎は姿勢維持の中心を担う骨のため、圧迫骨折を負ってしまった場合、重労働だけでなく、日常生活上のあらゆる動作に支障をきたします。そのため、万全の補償でそれを補う必要があります。
本記事では、圧迫骨折について後遺障害の等級認定を受ける必要が生じてしまった際に備え、知っておくべき知識を解説します。
圧迫骨折とは
圧迫骨折は、その多くが骨粗鬆症(骨が脆く壊れやすい状態)を原因として生じるといわれています。そのため、非外傷性圧迫骨折の多くは高齢者で確認されています。しかし、健康な骨でも、強い外力、特に縦方向の衝撃によっても生じ得ます。
交通事故においては、バイク事故や自転車事故等で臀部から地面に落下した場合に多く見られます。このような受傷態様から、交通事故における圧迫骨折は脊椎、特に胸腰椎に多く生じます。
脊椎を構成する椎骨の構造は、胸椎では、前方に三角形の椎体、後方に突起型の骨を有し、中央部に脊髄が通る形となっています。また、腰椎では、前方の椎体が楕円形となっています。
圧迫骨折は、椎体が前方に向けて楔状(三角形のような形)に潰れるように骨折してしまった状態を指します。なお、椎体の骨折が後方に進行し脊髄側に飛び出す形で変形したものを破裂骨折と呼びます。
脊椎圧迫骨折の症状
交通事故における脊椎圧迫骨折の主な症状は、「成人男性をして涙が出るほど痛い」といわれるほどの激しい疼痛です。また、楔状変形が進行してしまった場合、徐々に背中が丸まり身長が低くなってしまうことがあります。この変形が重度の場合、歩行や立位保持、呼吸機能等に支障をきたします。
さらに、骨折が脊髄の圧迫を生じた場合は、四肢の麻痺等、重篤な症状を呈する可能性があります。
圧迫骨折は後遺障害を見逃されるケースが多い
圧迫骨折の主な症状を激しい疼痛と説明しましたが、当初の骨折としては軽度であった場合、初期症状が軽い、又は痛みを伴わないことがあり得ます。しかし、その後に変形が進行してしまい、最終的には重度の楔状変形を呈する圧迫骨折に至ってしまうケースも存在します。
初期症状が軽度の場合で、受傷直後に患部の画像撮影を受けなかった場合、後に重篤化しても交通事故との相当因果関係の立証が困難となります。
圧迫骨折の診断の注意点
脊柱の圧迫骨折を負ったケースで、後に保険会社と争いになる可能性が最も高いのは、交通事故との相当因果関係についてです。圧迫骨折は骨粗鬆症等の素因を有する方であれば、日常生活の軽い尻もちや、場合によっては特別な契機がなくとも生じ得るため、保険会社にそれらの要素を主張される場合があります。
このような争いを防ぐため、受傷直後に画像撮影を受けておくことはとても重要です。X-P画像では骨折や変形を確認できるため、その後に撮影したX-P画像と比較し変形の進行が認められれば、新鮮骨折である根拠となり得ます。
また、MRI画像では骨挫傷や出血の有無を確認することができるため、陳旧性のものではなく事故で生じたものであることを主張し易くなります。受傷態様が臀部から落下するようなものである場合は勿論のこと、背中や臀部に痛みを感じた場合は、可能な限り受傷直後に画像撮影を受けることをお勧めします。
圧迫骨折による脊椎の後遺障害の種類と等級
脊椎の圧迫骨折に係る後遺障害は、認定基準上、「変形障害」、「運動障害」、「荷重障害」の3つに分類されます。いずれの認定基準とも、数ある後遺障害の中でも特にその要件が明確に定められていますが、明確な分、非常に複雑であり、かつ、専門用語が多く含まれています。
以下、後遺障害の審査機関である損害保険料率算出機構発行の『自賠責保険(共済)における後遺障害とは 診断書作成にあたってのお願い』(平成24年2月発行)に記載された、脊柱の圧迫骨折に係る各認定基準の詳細を抜粋します。
変形障害の後遺障害等級と認定基準
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (自賠責基準) | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|---|
第6級5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの | 512万円 | 1180万円 |
第8級相当 | 脊柱に中程度の変形を残すもの | 331万円 | 830万円 |
第11級7級 | 脊柱に変形を残すもの | 136万円 | 420万円 |
変形障害
【a.脊柱に著しい変形を残すもの】
X-P、CT又はMRI(以下、「X-Pなど」といいます。)により、脊柱圧迫骨折などを確認することができる場合であって、次のいずれかに該当するものをいいます。
ア.脊椎圧迫骨折などにより2個以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後彎が生じているもの。この場合、「前方椎体高が著しく減少」したとは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ以上であるものをいいます。
イ.脊椎圧迫骨折などにより1個以上の椎体の前方椎体高が減少し、後彎が生ずるとともに、コブ法による側彎度が50度以上になっているもの。この場合、「前方椎体高が減少」したとは、減少したすべての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上であるものをいいます。
【b.脊柱に中程度の変形を残すもの】
X-Pなどにより、脊椎圧迫骨折などを確認することができる場合であって、次のいずれかに該当するものをいいます。
ア. 上記aのイに該当する後彎が生じているもの
イ. コブ法による側彎度が50度以上であるもの
ウ. 環椎又は軸椎の変形・固定(環椎と軸椎との固定術が行われた場合を含みます。)により、次のいずれかに該当するもの。このうち(ア)及び(イ)については、軸椎以下の脊柱を可動させずに回旋位、屈曲・伸展位の角度を測定する。
(ア) 60度以上の回旋位となっているもの
(イ) 50度以上の屈曲位又は60度以上の伸展位になっているもの
(ウ) 側屈位となっており、X-Pなどにより、矯正位の頭蓋底部の両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30度以上の斜位となっていることが確認できるもの
【c.脊柱に変形を残すもの】
次のいずれかに該当するものをいいます。
ア. 脊椎圧迫骨折などを残しており、そのことがX-Pなどにより確認できるもの
イ. 脊椎固定術が行われたもの(移植した骨がいずれかの脊椎に吸収されたものを除きます。)
ウ. 3個以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの(ここでいう「椎弓形成術」には、椎弓の一部を切離する脊柱管拡大術も含まれます。)
※「コブ法」
X-Pにより、脊柱のカーブの頭側及び尾側で最も傾いている脊椎を求め、頭側で最も傾いている脊椎(頭側脊椎)の椎体上縁の延長線と尾側で最も傾いている脊椎(尾側脊椎)の下縁の延長線に対して垂直な線が交わる角度(側彎度)を求める測定法です。
運動障害の後遺障害等級と認定基準
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (自賠責基準) | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|---|
第6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの | 512万円 | 1180万円 |
第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの | 331万円 | 830万円 |
運動障害
【a.脊柱に著しい運動障害を残すもの】
次のいずれかにより頸部及び胸腰部が(両方とも)強直したものをいいます。
ア. 頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折などが存しており、そのことがX-Pなどにより確認できるもの
イ. 頸椎及び胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
ウ. 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
ここでいう「強直」とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいいます。
【b.脊柱に運動障害を残すもの】
次のいずれかにより、頸部又は胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたものをいいます。
ア. 頸椎又は胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折などを残しており、そのことがX-Pなどにより確認できるもの
イ. 頸椎又は胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
ウ. 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
頸部にあっては、複数の主要運動がありますが、いずれかの運動の可動域が1/2以下に制限されていれば、「脊柱に運動障害を残すもの」として取り扱うことができます。参考運動については、主要運動の可動域が1/2をわずかに上回る場合に評価の対象とされます。
荷重障害の後遺障害等級と認定基準
荷重障害とは、脊柱のみで体幹を支えることができなくなった状態をいいます。後遺障害としては運動障害に準じた取り扱いがなされます。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 後遺障害慰謝料 (自賠責基準) | 後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
---|---|---|---|
第6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの | 512万円 | 1180万円 |
第8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの | 331万円 | 830万円 |
荷重障害
ア. 脊椎圧迫骨折・脱臼、脊柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が存し、それらがX-Pなどにより確認できる場合で、そのために頸部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするものは、別表第二第6級5号として取り扱います。
イ. 脊椎圧迫骨折・脱臼、脊柱を支える筋肉の麻痺又は項背腰部軟部組織の明らかな器質的変化が存し、それらがX-Pなどにより確認できる場合で、そのために頸部又は腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするものは、別表第二第8級2号として取り扱います。
交通事故で圧迫骨折になった場合に弁護士に依頼するメリット
以上のとおり、脊椎の圧迫骨折に係る審査基準はとても細かく、かつ、複雑に定められています。後遺障害の申請時には、この基準をしっかりと理解したうえで、画像だけでなく、審査項目を漏れなく記した医学的書面を用意する必要があります。
また、適切な等級が認められた後は、保険会社との交渉を行うことになります。特に慰謝料については、弁護士が介入しない場合、保険会社が用いる低い基準に基づいた金額を主張されるケースが一般的です。さらに、逸失利益については、労働能力喪失率や労働能力喪失期間の部分で、保険会社に有利な条件で言いくるめられてしまう可能性があります。
交通事故を専門とする弁護士は、圧迫骨折の複雑な要件を書面化する術を熟知しています。また、その後の保険会社との交渉でも、弁護士が介入することで保険会社と対等な立場での交渉が可能となります。適切な後遺障害等級や金額を主張するため、弁護士に相談することをお勧めします。
まとめ
今回は、交通事故における脊椎の圧迫骨折について等級認定のポイントを解説しました。脊柱が本来の支持性を発揮できなければ、歩行は勿論のこと、座位を保つこともままなりません。
移動の少ないデスクワークがメインであっても、労働能力の低下は相当のものとなってしまいます。そのような状態でも生活を維持するためには、しっかりとした賠償を受けなければなりません。
弁護士法人オールイズワンは、交通事故により脊椎の圧迫骨折を負ってしまった被害者を数多くサポートしてまいりました。後遺障害に強い当事務所までお気軽にご相談ください。