交通事故による骨盤骨折の後遺障害等級と慰謝料について解説
交通事故による骨盤骨折は、バイクや自転車での走行中や、歩行中などの衝突で、腰やお尻を強打したときに生じるケースが多いです。
事故直後は激しい痛みが生じ、歩行が困難になることも多く、後遺症が残ることもあります。
後遺障害に認定されると高額の慰謝料を請求できますが、認定される後遺障害等級によって慰謝料額は大きく異なります。そのため、適正な後遺障害等級の認定を受けることが大切です。
この記事では、骨盤骨折の知識や慰謝料請求、後遺障害等級の認定を受けるためのポイントについて詳しく解説します。弁護士に依頼するメリットについてもご説明しますので、参考になさってください。
交通事故による骨盤骨折とは
交通事故で腰や臀部(お尻)に強い衝撃を受けると、骨盤骨折が生じることがあります。
特に、バイクや事故や自転車事故、歩行中の事故で腰や臀部を強打したり、転倒して尻餅をついたりしたときに骨盤骨折が生じるケースが多く見受けられます。
また、高齢者の方は自動車に乗車中の事故によって骨盤骨折になるケースが多いです。
骨盤は上半身と下半身をつなぐ重要な部分であり、骨盤骨折は治療期間が長引きやすく、後遺症も残りやすい傾向があります。
まずは、骨盤骨折とはどのような骨折であるのかについて詳しくご説明します。
骨盤とは
骨盤とは、腰の部分にある骨の集合体のことであり、寛骨、仙骨、尾骨で構成されています。上半身と下半身をつないで体重を支えるとともに、内臓を保護する重要な役割を果たしています。
骨盤骨折の症状
骨盤輪骨折
骨盤そのものを骨折することを「骨盤輪骨折」といい、この場合には骨折した部位に激しい痛みが生じます。重度の場合は歩行が困難になったり、自力で体を動かせないほどの激痛が生じることも少なくありません。
また、骨盤の内部や周囲の内臓や血管を傷つけることにより、大量出血を伴うこともあります。
寛骨臼骨折
その他にも、交通事故では「寛骨臼骨折」が生じるケースも多いです。寛骨臼骨折とは、骨盤と大腿骨をつなぐ股関節において、骨盤側に骨折が生じることを指します。
寛骨臼骨折が生じた場合には鼠径部に激しい痛みが生じます。重度の場合は、やはり歩行が困難になり、日常生活に大きな支障をきたしてしまいます。
骨盤輪骨折の場合も寛骨臼骨折の場合も、周囲の神経を損傷することにより、腰や足の痛みやしびれが生じることもあります。
坐骨神経麻痺
骨盤骨折によって神経が損傷することで、坐骨神経麻痺が生じ、膝関節・足関節(足首)に機能障害が生じるケースもあります。
完全麻痺により、下腿から足の指まで通る神経が障害を受けると、つま先を上に持ち上げられない下垂足となり歩行が困難になります。
骨盤骨折の治療方法
骨のズレがない場合は、ギプスで骨盤を固定したり、安静にしたりという保存療法によって自然治癒を待ちます。
骨にズレが生じている場合には、下肢を牽引する(足を引っ張ること)などして修復が図られますが、ズレが大きい場合には手術が行われます。
手術療法では、骨のズレを修復した上で、プレート(金属板)やスクリュー(ねじ)などを用いて患部を固定します。
容態が安定すると、松葉杖などを用いた歩行訓練(リハビリ)が行われます。骨盤には全身の負荷がかかるため、リハビリは慎重に、かつ、根気よく行う必要があります。
骨盤骨折の後遺障害の種類と後遺障害等級
骨盤骨折で後遺症が残った場合、適正な賠償金を受け取るためには、後遺障害の認定を受けることが重要です。
ここでは、骨盤骨折で認定される可能性がある後遺障害の種類と、後遺障害等級を症状別にご紹介します。
変形障害
骨盤骨折による変形障害とは、折れた骨がズレたまま癒合してしまい、骨盤が変形してしまうという障害のことです。
変形の程度が一定の基準を超えると、後遺障害に認定されます。
変形障害の後遺障害等級と認定基準
骨盤骨折による変形障害では、12級5号の後遺障害に該当する可能性があります。12級5号の認定基準は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
ここでいう「著しい変形」とは、裸体になったときに目で見て明らかに分かる程度に変形していることを指します。外見では分からない程度の変形は、後遺障害に該当しません。
機能障害
骨盤骨折による機能障害とは、骨折そのものが治っても股関節を動かしにくくなり(可動域が狭くなり)、そのままの状態が続いてしまうという障害のことです。
機能障害に該当するのは、動かせる範囲(可動域)の制限が一定の基準以上となった場合です。
機能障害の後遺障害等級と認定基準
骨盤骨折による機能障害では、可動域の制限の程度に応じて、8級7号、10級11号、12級7号のどれかに該当する可能性があります。それぞれの等級の認定基準は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
8級7号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
8級7号の「用を廃した」とは、股関節をまったく動かせないか、骨折していない側の股関節と比べて10%以下しか動かせない状態のことです。
10級11号の「著しい障害」とは、股関節の可動域が骨折していない側の股関節と比べて2分の1以下になった状態のことです。
12級7号の「障害」とは、股関節の可動域が骨折していない側の股関節と比べて4分の3以下になった状態のことです。
神経症状
骨盤骨折による神経症状とは、骨折そのものが治っても、神経の損傷や圧迫により痛みやしびれが残る障害のことです。
後遺障害としての神経症状に該当するのは、痛みやしびれの程度が一定の基準以上となった場合です。
神経症状の後遺障害等級と認定基準
骨盤骨折による神経症状では、痛みやしびれの程度に応じて、12級13号、14級9号のどちらかに該当する可能性があります。それぞれの等級の認定基準は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
痛みやしびれが「頑固」であれば12級13号に、そうでなければ14級9号の対象となります。
実務上は、痛みやしびれの原因が画像所見などで医学的に証明できる場合は12級13号に、証明できないけれど医学的に説明可能な場合は14級9号に認定されます。
事故が原因で痛みやしびれが残ったことを医学的に説明できない場合は、後遺障害等級に非該当となります。
坐骨神経損傷
坐骨神経損傷によって、下垂足になることで、膝関節と足関節の用を廃したものとして6級獲得の可能性があります。
これに加え、足の指全てが動かない場合、それ自体、9級にあたり、形式的ルールによれば上記の6級と併せて5級となるところです。
もっとも、一下肢を足関節以上で失った場合の5級には及ばないというバランス論から、6級が認定されることになっています。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
6級7号 | 膝関節と足関節の用を廃したもの |
9級15号 | 足趾の全ての用廃 |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
これらの立証のためには、筋電図、神経伝達速度検査等が有用ですが、骨折の状態から坐骨神経損傷が明らかな場合には、そのような検査を俟たずして、画像所見から神経損傷を立証できる場合もあり得ます。
下肢の短縮障害
骨盤骨折による下肢の短縮障害とは、骨折は治ったものの、骨盤が歪むなどして片方の足の長さが変わってしまう障害のことです。
短縮障害として認められるのは、短縮した側の足と正常な側の足の長さを比べて、一定の基準以上の差が生じた場合です。長さの差に応じて、以下の3つの後遺障害等級に分けられます。
下肢の短縮障害の後遺障害等級と認定基準
骨盤骨折による下肢の短縮障害では、8級5号、10級8号、13級8号のどれかに該当する可能性があります。それぞれの後遺障害等級の認定基準は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
8級5号 | 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
13級8号 | 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
左右の上前腸骨棘(腰骨の突出した部分)から下腿内果(内くるぶし)までの長さをそれぞれ測り、左右差が1㎝以上であれば13級8号に、3㎝以上であれば10級8号に、5㎝以上であれば8級5号に認定されます。
正常分娩困難
骨盤骨折による正常分娩困難とは、骨盤骨折の影響で、正常な分娩方法では子どもを産むことが難しくなるという障害のことです。
正常分娩困難として認められるのは、骨盤の骨折により生殖器に著しい障害が残ったり、骨盤が変形して産道が狭くなったりして、そのために正常な分娩が困難となった場合です。
正常分娩の後遺障害等級と認定基準
骨盤骨折による正常分娩困難では、9級7号または11級10号に該当する可能性があります。それぞれの認定基準は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 認定基準 |
---|---|
9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
【参考】:国土交通省『後遺障害等級表』
後遺障害としての認定を受けるためには、産婦人科で診察を受けて、生殖器や産道の障害が原因で正常な分娩が困難であることを証明してもらう必要があります。
骨盤骨折の後遺障害による慰謝料
骨盤骨折で後遺障害等級の認定を受けると、治療期間に応じて支払われる入通院慰謝料とは別に、後遺障害慰謝料と逸失利益を加害者側へ請求できます。
後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級ごとに定められています。ただし、慰謝料には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3種類の基準があり、どの基準を用いるかによっても金額が異なってきます。
後遺障害慰謝料については、自賠責基準と任意保険基準では同等の金額となることがほとんどなので、ここでは、自賠責基準および弁護士基準による金額を障害別にご紹介します。
逸失利益は、被害者の年収や労働能力喪失率、年齢に応じたライプニッツ係数を用いて、所定の計算式で算出されます。このうち、労働能力喪失率は後遺障害等級ごとに定められているので、以下では労働能力喪失率も併せてご紹介します。
変形障害の慰謝料
変形障害で認められる後遺障害等級は、12級5号です。基準別の慰謝料額は、以下のとおりです。
後遺障害等級 | 慰謝料(自賠責基準) | 慰謝料(弁護士基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
12級5号 | 94万円 | 290万円 | 14% |
機能障害の慰謝料
機能障害で認められる後遺障害等級は、8級7号、10級11号、12級7号のどれかです。それぞれ、基準別の慰謝料額は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 慰謝料(自賠責基準) | 慰謝料(弁護士基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
8級7号 | 331万円 | 830万円 | 45% |
10級11号 | 190万円 | 550万円 | 27% |
12級7号 | 94万円 | 290万円 | 14% |
神経症状の慰謝料
神経症状で認められる後遺障害等級は、12級13号または14級9号です。それぞれ、基準別の慰謝料額は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 慰謝料(自賠責基準) | 慰謝料(弁護士基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 | 14% |
14級9号 | 32万円 | 110万円 | 5% |
下肢の短縮障害の慰謝料
下肢の短縮障害で認められる後遺障害等級は、8級5号、10級8号、13級8号のどれかです。それぞれ、基準別の慰謝料額は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 慰謝料(自賠責基準) | 慰謝料(弁護士基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
8級5号 | 331万円 | 830万円 | 45% |
10級8号 | 190万円 | 550万円 | 27% |
13級8号 | 57万円 | 180万円 | 9% |
正常分娩困難の慰謝料
正常分娩困難で認められる後遺障害等級は、9級7号または11級10号です。それぞれ、基準別の慰謝料額は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 慰謝料(自賠責基準) | 慰謝料(弁護士基準) | 労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
9級7号 | 249万円 | 690万円 | 35% |
11級10号 | 136万円 | 420万円 | 20% |
骨盤骨折で後遺障害認定を受けるためのポイント
骨盤骨折で後遺症が残った場合、後遺障害に認定されるかどうか、認定されたとしても何級となるかで受け取れる賠償金の額に大きな違いが生じます。
後遺障害等級の認定を適正に受けるために注意すべきポイントは、以下のとおりです。
医師に症状を正確に伝える
後遺症として残った症状が事故によって生じたことを証明するためには、当初から医師に自覚症状を正確に伝えることが重要です。被害者自身が自覚症状を訴えなければ、必要な検査が行われないこともあるので注意しましょう。
特に、神経症状について画像所見などで原因を証明できない場合には、事故直後から症状固定まで、一貫した自覚症状が継続的に現れているかどうか重要となります。
そのため、診察の都度、そのとき感じている症状を正確に説明し、診断書やカルテに書いてもらうことが必要です。
詳しい検査を受ける
後遺障害等級の認定は、専門の機関で審査によって行われます。審査は原則として書類のみで行われるため、障害の内容や程度を正確に証明できるように、詳しい検査を受けておくべきです。
骨盤は非常に複雑な形をしているため、骨折の箇所や程度を正確に証明するためには、レントゲンだけでなくCT撮影が必要なケースが多いです。
神経症状の原因となる神経の損傷を証明するためには、MRI撮影が必要となります。
機能障害や下肢の短縮障害の場合は、股関節の可動域や足の長さを正確に計測してもらい、診断書やカルテなどに記載してもらう必要があります。
医師は必ずしも、後遺障害等級の認定のためにどのような検査が必要なのかを知っているとは限りません。そのため、場合によっては被害者の方から詳しい検査を申し出るべきです。
後遺障害診断書の内容を確認する
症状固定を迎えて治療を終了すると、後遺障害診断書が発行されます。後遺障害診断書には、最終的に残った症状や検査結果などが記載されます。
そして、後遺障害等級の認定審査では、後遺障害診断書に記載された症状のみが対象となります。そのため、後遺障害診断書の記載内容は非常に重要な意味を持つものです。
しかし、医師は後遺障害等級の認定申請のプロではないので、後遺障害診断書の記載内容が不十分であったり、適切でなかったりするケースも少なくありません。
ただ、後遺障害診断書の記載内容が適切かどうかを判断するためには、専門的な知識を要します。そのため、保険会社へ後遺障害診断書を提出する前に、弁護士に相談して記載内容を確認してもらった方がよいでしょう。
もし、記載内容が十分でない場合は、弁護士を通じて医師に修正や再発行を依頼することをおすすめします。
被害者請求で申請する
後遺障害等級の認定申請は専門の機関に対して行いますが、その具体的な方法として「事前認定」と「被害者請求」とがあります。
事前認定は、加害者側の保険会社に申請手続きを一任する方法です。もう一方の被害者請求は、被害者自身が必要書類を揃えて申請手続きを行う方法です。
事前認定によれば手間はかかりませんが、保険会社の担当者は必要最低限の書類しか収集してくれません。
その点、被害者請求によれば、有効な審査書類を自由に集めて提出できるので、ケースによっては適正な後遺障害等級に認定される可能性を高めることができます。
ただし、被害者請求の手続きは複雑で、多大な労力と専門的な知識を要するので、弁護士に依頼して代行してもらうのがおすすめです。
納得できない場合は異議申し立てをする
後遺障害等級の認定結果に納得できない場合は、異議申し立てを検討しましょう。異議申し立てをすれば再審査が行われるため、認定結果が変更される可能性があります。
ただし、いったん認定された結果を覆すためには、新たな医学的資料を補充することが重要です。そのためには、被害者請求で申請する場合と同様の専門的な知識や、多大な労力が要求されます。
したがって、異議申し立てを検討する際は弁護士に相談した方がよいでしょう。
骨盤骨折の後遺障害等級認定は弁護士に相談を
交通事故による骨盤骨折で後遺症が残ったら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。早めに弁護士のサポートを受けることで得られるメリットは、以下のとおりです。
- 医師への症状の伝え方や、受けておくべき検査についてアドバイスが受けられる
- 医師への事前要請により、適切な後遺障害診断書を作成してもらえる
- 作成された後遺障害診断書をチェックしてもらい、必要に応じて修正や再発行を医師に依頼してもらえる
- 後遺障害等級の認定申請の手続きで、必要に応じて被害者請求の手続きを代行してもらえる
- 後遺障害等級の認定結果に納得できない場合は、異議申し立ての手続きを代行してもらえる
- 加害者側との示談交渉も代行してもらえる
- 弁護士基準で慰謝料請求してもらえるので、高額の賠償金が期待できる
ご自身で対応する場合には、大変な手間がかかるだけでなく、後遺障害等級の認定結果が不利となるおそれがあります。その上に、保険会社から不利な示談案を押しつけられ、泣き寝入りすることにもなりかねません。
それに対して、後遺障害等級の認定申請から加害者側との示談交渉までを弁護士に一任すれば、大きなメリットが得られます。
まとめ
骨盤骨折をすると、日常生活全般に大きな支障が生じ、苦しまれている方も多いでしょう。このような重傷被害に遭いながらも、対応次第では十分な賠償金を受け取れないケースがあります。
骨盤骨折のような被害を受けたら、交通事故に強い弁護士に依頼して適正な後遺障害等級認定を獲得し、高額の賠償金を受け取ることを目指しましょう。
弁護士法人オールイズワンは交通事故に専門特化した法律事務所です。
重大事故の賠償問題を数多く解決に導いてきた経験豊富な弁護士が、診断書作成のサポートから加害者との交渉まで対応いたします。後遺障害等級認定から賠償金請求の手続きまで、当事務所にお任せください。