後遺症・症状の種類

交通事故で下肢(足)を切断した場合の後遺障害等級と慰謝料について

交通事故における後遺障害には、足の切断についての等級が用意されています。例えば、バイク事故や歩行時の事故等、生身で交通事故の衝撃を受けた場合には、時として足が切断されてしまう場合があります。

また、自動車に乗車中でも自動車自体が潰れてしまうような激しい事故では、足を挟まれて壊死してしまった結果、治療として切断を強いられる場合があり得ます。

本記事では、足の切断について後遺障害の等級認定を受ける必要が生じてしまった際に備え、知っておくべき知識を解説します。

足の切断(欠損)とはどのような状態か

後遺障害の認定実務上、いわゆる足については「下肢の障害」として要件が定められています。その中で、足を切断してしまった場合は、下肢の「欠損障害」に分類されます。

下肢には、股関節、膝関節、足関節の三大関節が存在し、更に足指の関節も含め、それぞれが独自に運動、又は機能性を発揮することで、歩行等の動きを可能としています。

以下では、各関節の構造とそれぞれが有する機能、そして、それらが失われてしまうことによる支障を解説いたします。

膝関節以上で切断した場合

膝関節は、一般的には太ももといわれる大腿部と、ふくらはぎやすね等の下腿部との間に存在する関節です。骨の構造としては、大腿部は大腿骨一本で支えられ、下腿部は内側に存在する太い脛骨と、外側の腓骨が構成しています。

脛骨の膝関節よりの骨端は横から見ると平らな形状となっており、その上を大腿骨の丸みを帯びた骨端が滑ることで膝の運動を可能としています。

骨のみを見ると、膝関節は大腿骨と脛骨が直列しているだけの不安定な構造に見えます。しかし、実際には靭帯や半月板等の軟部組織が補強し、運動の補助をしています。

膝関節は、歩行のほか、階段の上り下りやしゃがむ動作等において必須な関節です。そのため、交通事故で膝関節以上の位置で下肢を切断してしまった場合、義足を用いたとしても歩行その他の運動において多大な支障を生じてしまいます。

足関節以上で切断した場合

足関節は、下腿部の脛骨・腓骨と、くるぶし以下の足部に存在する距骨で構成されています。距骨は、踵骨と併せて足関節以上の全ての体重の負荷を受け、人体を支えています。

足関節は、屈曲・伸展(曲げ伸ばし)を主要運動とし、更に僅かながら内返し・外返しの運動も交えて、歩行時における繊細な動きを可能としています。

足関節以上の位置で下肢を切断してしまった場合、義足を用いて短縮してしまった長さを補う必要があります。しかしながら、足関節が有していた可動性を補うことは困難であるため、歩行その他の運動に支障を生じてしまいます。

リスフラン関節以上で切断した場合

 
リスフラン関節(中根中足関節)は、足部内において足指の骨の付け根に位置する関節です。骨学的には、立方骨、外側楔状骨・中間楔状骨・内側楔状骨と5つの中足骨から構成されています。

関節としては、可動性が非常に小さいのが特徴です。そのため、役割としては足部にかかる負荷の調整の方に重きが置かれています。リスフラン関節は、同じく足部内に存在するショパール関節と併せて、足部にアーチ状の構造を形成しています。

一般的に土踏まずといわれる地面と接しない部分が存在することで、歩行時の衝撃を吸収し緩和することができます。リスフラン関節以上の位置で下肢を切断してしまった場合、足指による踏ん張りの機能を失ってしまうこと、また、アーチ構造を失ってしまうことで衝撃の吸収に影響を生じ、膝関節や足関節にも過分の負荷がかかってしまいます。

足の切断(下肢欠損)の後遺障害等級はどのようにして決まるのか

  

後遺障害の等級審査においては、膝関節、足関節及びリスフラン関節が基準の関節とされており、これら各関節を含め、どの位置以上で切断されてしまったかによって等級が決定します。

また、切断が両足なのか、又は片足なのかも要件となっています。以下、各等級の認定要件と後遺障害慰謝料を説明します。

足の欠損障害の後遺障害等級とは?

 

後遺障害等級 後遺障害の内容 後遺障害慰謝料 (自賠責基準) 後遺障害慰謝料 (弁護士基準)
1級5号 両下肢をひざ関節以上で失ったもの 1150万円 2800万円
2級4号 両下肢を足関節以上で失ったもの 998万円 2370万円
4級5号 1下肢をひざ関節以上で失ったもの 737万円 1670万円
4級7号 両足をリスフラン関節以上で失ったもの
5級5号 1下肢を足関節以上で失ったもの 618万円 1400万円
7級8号 1足をリスフラン関節以上で失ったもの 419万円 1000万円

足の切断の損害賠償請求でよくある注意点

 
足の切断についての後遺障害の等級認定においては、目に見える障害であるという性質上、不適切な等級が認定されるケースは比較的少ない印象です。

しかし、その後の損害賠償請求においては、相手方保険会社とトラブルになるケースが多々見受けられます。

以下、それぞれについての注意点を解説します。

後遺障害逸失利益

 
後遺障害逸失利益は、被害者の方の交通事故受傷前における基礎収入をベースに、後遺障害を負ったことでどれだけ労働能力が落ちたか(労働能力喪失率)、及び今後何年間に亘り労働能力が低下した状態が続くか(労働能力喪失期間)を掛け合わせることで算出されます。

足の切断における後遺障害においては、切断してしまった足を再生させることは現代医学では困難であるため、労働能力喪失期間が争われることは通常ありません。

そのため、争点になり得るのは、以下の2つです。

①基礎収入
給与所得者であれば源泉徴収票等により収入の立証が比較的易しいですが、個人事業主や求職中の方の場合は、保険会社から小さな金額を主張される可能性があります。

②労働能力喪失率
労働能力喪失率は、基本的に等級ごとに定められています。しかしながら、デスクワークが主な職種等で実際には収入減が生じていない場合、その点を根拠に労働能力喪失率を下げる交渉を持ち掛けられることがあります。

また、例えば7級の「1足をリスフラン関節以上で失ったもの」の場合、基本の労働能力喪失率は56%ですが、「はじめの10年は56%、その後67歳までは14%」等、細かい減額交渉を持ちかけられるケースもあり得ます。

義足費用

 
足の切断位置によっては、義足を用いることにより独歩が可能となる場合があります。そのため、損害賠償額に義足費用を計上しておくことは重要です。その際に、保険会社と争いになり易いため注意が必要なのは「将来における義足の再製作費用」です。

義足を用いる場合、歩行や立位の原動力は自身の力です。そのため、体重の掛け方によってその形状を決定します。しかしながら、筋力は年齢等によって変化する可能性があり、変化が生じた際にはそれに適した義足に調整する必要があります。

また、義足はあくまで人工物であるため、必ず耐用年数があります。そのため、数年ごとに再製作は必須です。一方で、保険会社の立場としては、義足の再製作が必要だとしても、それが将来的に何度必要か、又はどの程度の金額を要するか、示談時点で予測することは困難です。そのため、保険会社はそれらを認めることには否定的です。

これらを踏まえ、将来に亘って義足の調整・再製作を行えるよう、根拠立てて請求を行っていく必要があります。

車椅子と家屋改造費用

 
義足を用いた歩行が困難な場合、車椅子が必要となります。そして、車椅子にも耐用年数があり、将来的には交換が必要となります。また、示談時は義足での歩行が可能であったとしても、その後に車椅子に切り替える必要が生じる場合もあり得ます。

そのため、車椅子の購入費用は将来的に要する部分も含め、損害賠償金にしっかりと計上しなければなりません。保険会社としては、義足費用と同様の理由により、特に将来的な部分には否定的です。

また、家屋改造費用も重要です。例えば、義足や車椅子なしでの移動を補助するための手すり、玄関のリフト、バリアフリー浴室・トイレ、更にエレベーター設置や駐車場の改造等、様々な改造の必要性が考えられます。

しかしながら、いずれも費用が高額になり易いため、保険会社としては、その必要性を可能な限り否定したいと考えます。いずれもの費用とも、請求を認めさせるためには明確な根拠に基づき理論的な説明を準備する必要があります。

介護費用

 
足の切断に関する下肢欠損の後遺障害は、等級上、いずれも要介護とはされていません。そのため、保険会社は介護費用に否定的です。

しかしながら、実際に足の切断という障害を負ってしまった場合は、屋外での移動補助は勿論のこと、住居内においても階段昇降、入浴、更には自動車への車椅子の積み降ろし等、介護を要するシチュエーションは多々あります。

判例上では介護費用が認められているケースも存在するため、それらを踏まえ、必要性をしっかりと主張する必要があります。

足切断という大事故を弁護士に相談した方が良い理由

  
交通事故で足を切断してしまった場合、その状態を医学的に回復させることが困難であることを踏まえ、将来的に必要となる費用をあらかじめ予測し、十分な賠償金額の請求を行う必要があります。

また、足の切断を生じさせる交通事故の場合、頭部へのダメージによる高次脳機能障害やその他部位の後遺障害が残存してしまう可能性も考慮しなければなりません。

交通事故を専門とする弁護士は、将来的に必要となり得る不確定な費用を判例や経験則から算出することが可能です。また、受傷態様や診断書、カルテ等から、複合的な後遺障害についても備えることができます。そのため、保険会社との交渉に備え、弁護士に相談することをお勧めします。

まとめ

  
今回は、交通事故における足の切断について等級認定や損害賠償請求のポイントを解説しました。歩行や立位は、人間生活の根幹に関わる行動であり、それらが制限されてしまった場合、日常生活は激変してしまいます。労働能力の低下や日常生活の支障に備えるため、しっかりとした賠償を受けなければなりません。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故により足の切断を負ってしまった被害者を数多くサポートしてまいりました。後遺障害に強い当事務所までお気軽にご相談ください。