交通事故の外傷性くも膜下出血の症状と後遺障害等級認定の知識

交通事故の外傷性くも膜下出血の症状と後遺障害等級認定の知識

交通事故で頭を強く打ち、脳に損傷を受けると「外傷性くも膜下出血」と診断されることがあります。外傷性くも膜下出血は脳損傷を伴うため、重度の後遺障害が残るケースも多く、被害者本人だけではなくご家族の方にも大きな負担がかかることになります。

被害者とご家族には十分な補償がなされるべきですが、そのためには交通事故の損害賠償請求の正しい知識を理解しておく必要があります。この記事では、交通事故の外傷性くも膜下出血の症状と後遺障害等級認定の知識について詳しく解説していきます。

交通事故が原因の外傷性くも膜下出血とは

外傷性くも膜下出血とは、交通事故等により頭部に強い外力を受け、頭蓋骨と脳の間に存在する髄膜(ずいまく)の層の中で、脳脊髄を包む硬膜(こうまく)の内側にある薄い層の「くも膜」と脳の間に出血が起こることを言います。

一般的に、くも膜下出血は、脳動脈瘤の破裂が原因でくも膜下に出血したものを指し、交通事故など怪我(外傷)が原因の場合は「外傷性くも膜下出血」といいます。また、外傷性くも膜下出血をはじめ、交通事故で頭に外力が加わり頭の皮膚や頭蓋骨、脳に損傷を来たすことを「頭部外傷」と言います。

外傷性くも膜下出血は、出血により脳内に血腫が貯留するため、血種を除去するには穿頭血腫除去術等の外科的治療を行い腫ますが、治療後に再度血腫が貯留することもあります。

ただし、手術を行うのは合併する疾患による手術が必要な場合のみで、外傷性くも膜下出血のみでは手術は行わず、薬による治療や出血が自然に吸収されるのを待つことが基本です。

外傷性くも膜下出血の症状

外傷性くも膜下出血の症状は、損傷部位や血腫の大きさによって異なりますが、主な症状として、事故直後から激しい頭痛や嘔吐、意識障害等が現れます。

また、脳挫傷などを合併している場合は、局所的な症状として、半身麻痺(片麻痺)、感覚障害、言語障害、痙攣発作等が現れることもあります。

外傷性くも膜下出血は他の疾患を合併することが多い

頭蓋骨骨折

頭蓋骨骨折は、脳を取り囲む骨にヒビが入ったり、欠けたり、陥没したり、折れたりすることです。頭蓋骨骨折は骨折する部位により大きく分けて「頭蓋円蓋部骨折(とうがいえんがいぶこっせつ)」と「頭蓋底骨折(とうがいていこっせつ)」の2つがあります。

また、頭蓋円蓋部骨折は線状骨折、陥没骨折、粉砕骨折などに分けられます。頭蓋骨骨折には痛みや腫れ、脳損傷による症状が伴うことがありますが、時間的経過とともに意識障害や頭痛・嘔吐等が発生する場合もあります。

また、脳損傷を伴う場合は高次脳機能障害や麻痺などの後遺障害が残ることがあります。

交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺障害と慰謝料・等級認定について

脳挫傷

脳挫傷とは、外力により脳が圧迫され、脳内の組織が挫滅することで、脳組織に異常な水分(出血等)が溜まった状態(浮腫・脳浮腫)を言います。脳挫傷は、頭蓋骨骨折を伴うことや出血が塊になり血腫となる(頭部外傷性血腫)こともありますが、外傷部位とは反対側に生じることもあります。

なお、外傷部位の直下に脳損傷をきたすものを「直撃損傷」、反対側に脳損傷をきたすものを「対側損傷」と言います。事故直後より激しい頭痛や嘔吐、意識障害等が現れます。

主な症状として、半身麻痺(片麻痺)、感覚障害、言語障害、痙攣発作が現れ、血腫がひどい場合は脳ヘルニアに至ることもあります。

交通事故の脳挫傷の症状と慰謝料・後遺障害等級認定の知識

急性硬膜下血腫

急性硬膜下血腫とは、頭蓋骨の内にある硬膜の内側で脳の表面に出血が起こることです。急性硬膜下血腫が起こると、短時間のうちに硬膜の直下に血液が溜まることになり、血腫によって脳が圧迫されます。

急性硬膜下血腫は大脳の表面に発生することが一般的ですが、ごく稀に大脳半球の間や小脳の表面(後頭蓋窩:こうとうがいか)に発生することもあります。

急性硬膜下血腫は強い外力で生じることが多いため、通常は受傷直後から意識障害が現れることになりますが、脳損傷ではなく血管の損傷が原因の場合は、受傷直後はしっかりしていて後になって徐々に意識障害が現れることもあります。

びまん性軸索損傷

びまん性軸索損傷とは、強い外力により脳に回転力が生じ、脳がねじれることで脳全体の軸索が損傷した状態を指します。びまん性軸索損傷は受傷直後から意識障害が現れますが、頭部CTやMRIで明らかな血腫や脳挫傷を認めない病態とされています。

びまん性軸索損傷に効果的な治療法は存在せず、たとえ回復したとしても意識障害や高次脳機能障害、麻痺などの後遺障害が残ることが多いと言えます。

外傷性くも膜下出血の後遺症と後遺障害等級

交通事故により外傷性くも膜下出血を発症すると、感情や思考、生命維持など多くの神経活動の中心となる脳を損傷する恐れがあります。

脳は一度損傷を受けると再生することはありません。そのため、外傷性くも膜下出血と診断された場合は症状固定後も後遺障害が残るケースがあります。外傷性くも膜下出血を発症した後に残る主な後遺症と後遺障害等級は以下のとおりです。

遷延性意識障害

遷延性意識障害とは、重度のこん睡状態を指す症状で、植物状態や持続的意識障害、持続的植物状態とも言われています。遷延性意識障害は、外傷後に様々な治療を施したにもかかわらず、自力移動不能、自力摂食不能、糞便失禁状態、発語不能、意思疎通不能、認識不能が3ヶか月以上継続する場合に認定されます。

遷延性意識障害は、被害者本人の障害の問題だけではなく、ご家族も介護に従事する必要が出てくるため、後遺障害等級表の中でも別表第1の要介護等級が認定されます。

等級(別表第1) 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1,600万円 2,800万円

高次脳機能障害

高次脳機能とは、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能のことで、交通事故で頭部に外傷を受けることによりこの高次脳機能に障害が起こります。高次脳機能障害の症状には、失語障害や失行障害が多く見られますが、脳全体に損傷が及んでいる場合は、認知障害や人格変化を引き起こします。

高次脳機能障害は身体的な障害が重いことも多く、社会生活に支障をきたすことや酷い場合は自立しての生活は困難な場合もあり、その場合は介護が必要になります。

高次脳機能障害の症状は重度のものから軽度なものまで様々ですので、後遺障害等級も障害の重さにより幅広く設定されています。

等級(別紙第2) 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1,100万円 2,800万円
第2級 958万円 2,370万円
第3級 829万円 1,990万円
第5級 599万円 1,400万円
第7級 409万円 1,000万円
第9級 245万円 690万円

麻痺

脳損傷を伴う外傷性くも膜下出血では、中枢神経や末梢神経が損傷し、皮膚の感覚障害や両手足(四肢)の麻痺が残ることがあります。

軽度な症状の場合は、神経伝達機能の一部を失う不全麻痺となりますが、神経伝達機能が完全に断たれる完全麻痺の場合は、骨格筋の運動機能を完全に失うことになり、同時に知覚機能も喪失することもあります。

麻痺の後遺障害等級は、基本的に神経症状に関する等級が認定対象となります。

等級(別表第1) 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1,600万円 2,800万円
第2級 1,163万円 2,370万円
等級(別表第2) 自賠責基準 弁護士基準
第3級 829万円 1,990万円
第5級 599万円 1,400万円
第7級 409万円 1,000万円
第9級 245万円 690万円
第12級 93万円 290万円

視力障害

外傷性くも膜下出血は、脳損傷や頭部外傷を伴うため眼球や視神経を損傷し、目に後遺障害が残ることがあります。目の後遺障害には、視力・調整機能・運動機能(眼球、まぶた)・視野・瞼の欠損・運動機能に関する6つの障害があります。

眼球そのものの外傷か視神経の障害か、さらには脳の損傷によるものかにより症状が異なりますが、失明の有無や視力レベルの低下具合によって後遺障害等級が分けられています。

等級(別表第2) 自賠責基準 弁護士基準
第1級 1,100万円 2,800万円
第2級 958万円 2,370万円
第3級 829万円 1,990万円
第4級 712万円 1,670万円
第5級 599万円 1,400万円
第6級 498万円 1,180万円
第7級 409万円 1,000万円
第8級 324万円 830万円
第9級 245万円 690万円
第10級 187万円 550万円
第13級 57万円 180万円

外傷性てんかん

てんかん(癲癇)とは、発作を繰り返す脳の疾患で、交通事故により頭部外傷を負ったことを原因として起きるてんかんを外傷性てんかんといいます。

外傷性てんかんの症状は、意識障害や記憶障害、痙攣などを引き起こし、発作により突然意識を失ったり、口から泡を吹くこともあります。外傷性てんかんは後遺障害を残す可能性が非常に高く、回復が難しいとされています。外傷性てんかんの後遺障害等級は下記のようになります。

等級(別表第2) 自賠責基準 弁護士基準
第5級 599万円 1,400万円
第7級 409万円 1,000万円
第9級 245万円 690万円
第12級 93万円 290万円

交通事故によりてんかんを発症した場合の後遺障害と慰謝料を解説

まとめ

今回は、交通事故の外傷性くも膜下出血の症状と後遺障害等級認定の知識について解説しました。大切なご家族が外傷性くも膜下出血と診断されてしまうと、ご家族は被害者に代わって損害賠償請求を行うという重要な役割を果たす必要があります。

交通事故で外傷性くも膜下出血と診断された場合、回復後も後遺障害が残ることが多く、自賠責保険や任意保険会社の基準に基づく支払いでは被害者救済には甚だ不十分と言わざるを得ません。大切なご家族の将来を守るためには、必ず弁護士に相談して適切な賠償金を獲得する必要があります。

弁護士法人オールイズワンには、外傷性くも膜下出血と診断された被害者の方のサポート実績が多数あります。どうぞお気軽にご相談下さい。