高次脳機能障害の神経心理学検査とは?検査の種類とタイミングについて

神経心理学検査とは

神経心理学検査は、記憶、思考、判断等の高次脳機能を定量化するための検査です。

高次脳機能障害の程度は外見上から判断することはできません。しかしながら、後遺障害として等級判断を行うためには、共通の物差しが必要となります。そのため、神経心理学検査により障害の程度を数値化、客観化することは非常に重要となります。

ただし、神経心理学検査では、被検者の体調や疲労度合い等によって結果に差が生じることがあります。また、多くの場合、被検者の従前の能力はわからないため、一般的な標準値との比較により判断するしかありません。したがって、神経心理学検査の結果は、後遺障害の審査において絶対的な指標ではないことを理解しておく必要があります。

神経心理学検査は、脳神経外科等を擁する病院で受検の相談ができます。ただし、非常に多くの種類があり、病院ごとに保持している検査キッドは異なりますので、事前に受けたい検査を特定したうえ、受検の相談をする必要があります。

検査を行うタイミング

後遺障害の等級審査においては、症状経過は「受傷直後が最も重篤で、その後緩解していき、どこかの時点で一進一退となり症状固定に至る」と考えるのが原則です。

高次脳機能障害についても基本的な考え方は同様です。したがって、等級申請において立証資料とする神経心理学検査は、病態が一進一退となって以降に実施されたものを用います。

検査の種類と内容

神経心理学検査には非常に多くの検査が存在するため、どの脳機能が低下しているかによって、必要な検査を選択する必要があります。

各検査は、「口頭で質問に答える」、「絵や図形を描く」、「物の並び替え等、作業を行う」等の動作を被検者に行わせる方法で行われます。また、各検査の所要時間は、数十分のものから二時間を超えるものまで様々です。

被検者によっては長時間の検査が負担となる場合もあるため、検査の選択においては、検査結果の精密さだけでなく、負担の大小等も考慮する必要があります。

以下、代表的な神経心理学検査について説明します。

知能検査

【WAIS】
WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)は、ウェクスラー式知能検査の一つで、最も多く用いられる知能(IQ)検査です。

言語理解指標(言葉の理解、発言等の能力)、知覚統合指標(情報を関連付け、全体として意味のあるものにまとめる能力)、作動記憶指標(聴覚的な短期記憶能力)、処理速度指標(視覚的な情報の処理能力)、及び全検査IQを、10種の基本下位検査と5種の補助下位検査によって算定します。

なお、最新版のWAISは適用年齢が16歳~90歳となっています。16歳以下に対しては、WISC(5歳~16歳)又はWPPSI(2歳6か月~7歳)を選択することになります。

【レーヴン色彩マトリックス検査】
法則性のある図形について、一部の欠落した部分の図柄を選択肢から選ぶという検査方法を用います。言語を介さないため、また、ベッドサイドで実施可能な簡易な検査であるため、言語的な問題、又は運動障害によりWAISの実施が困難な場合でも知能を算定できます。

記憶検査

【WMS】
WMS(Wechsler Memory Scale)は、最も多く用いられる記憶検査です。言語を使った問題と図形を使った問題で構成されます。13種の下位検査により、「言語性記憶」、「視覚性記憶」、「注意/集中力」、「遅延再生」の各指標を算定します。

【ベントン視覚記銘検査】
視覚性記憶の検査です。被検者に単純な幾何学的図形を見せ記憶させ、それを隠した後に記憶を基に描かせる方法を用います。

【三宅式記銘力検査】
ベッドサイドでも実施可能な聴覚性言語性の記憶検査です。

【RBMT】
RBMT(リバーミード行動記憶検査)は、他と比べて、より日常生活をシミュレートした記憶検査です。

言語機能検査

【標準失語症検査(SLTA)】
代表的な失語症の検査です。「聴く」、「話す」、「読む」、「書く」、「計算」に係る26種の下位検査で構成され、失語症の有無、重症度、失語タイプの鑑別が行えます。

【WAB失語症検査】
ブローカ失語(運動性失語)、ウェルニッケ失語(感覚性失語)、全失語等の分類が可能な失語症検査です。

注意力検査

【CAT】
CAT(標準注意検査法)は、注意機能障害を定量化するための検査です。「Span」、「抹消・検出課題」、「SDMT」、「記憶更新検査」、「PASAT」、「上中下検査」、「CPT」の7種の下位検査で構成されます。長時間を要する検査のため、日を分けて実施されることもあります。

【TMT】
TMT(トレイルメイキングテスト)は、遂行機能検査を兼ねた注意機能検査です。Part-AとPart-Bで構成され、前者では1~25の数字を順に結び、後者では13個の数字と12個の平仮名を交互に結びます。

前頭葉機能の検査

【WCST】
WCST(Wisconsin Card Sorting Test)は、カードを色・形・数の分類基準により、適切に分類できるかを検査するものです。「セットの転換(一度持った考えから他の新しい考えに移行する能力)」を評価します。

【BADS】
BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)は、日常生活上の遂行機能に関する問題点を6種の下位検査により検出する検査です。

その他

【CAS】
CAS(標準意欲評価法)は、「意欲」を定量化するための検査です。「面接による意欲評価スケール」、「質問紙法による意欲評価スケール」、「日常生活行動の意欲評価スケール」、「自由時間の日常行動観察」、「臨床的総合評価」の5種の下位検査で構成され、複数の検者が協力・分担のうえ、数日かけて実施します。