高次脳機能障害SOS

自賠責で高次脳機能障害が認定されるための確認事項

自賠責で高次脳機能障害が認定されるための確認事項

交通事故における重篤な後遺障害の一つとして、高次脳機能障害は広く知られるようになりました。この障害は脳の知的機能低下により、日常生活を送る上で多大な支障をきたします。症状の程度によってはご家族等周囲の方のサポートなしには日常生活を送ることは困難となってしまう場合があります。

本記事では、高次脳機能障害で後遺障害認定を受ける必要が生じてしまった際に備え、被害者の方やそのご家族が知っておくべき知識を解説します。

自賠責保険とは

自賠責保険とは、自動車損害賠償責任保険(通称、自賠責保険)のことで、別名、強制保険とも呼ばれます。日本では自動車を保有する全ての人に加入が義務付けられています。

自賠責保険の補償範囲は人身事故のみです。交通事故では、自分や相手の自動車は勿論のこと、衣類やその他事故時に身に着けていたものが破損してしまうことは珍しくありませんが、そういったいわゆる物損は、自賠責保険の補償対象外になります。

一方、補償対象となる人身損害は、大きく3つに分類され、それぞれ限度額が設定されています。

  1. ①「傷害」による損害:限度額120万円(治療費、休業損害、入通院慰謝料等)
  2. ②「後遺障害」による損害:限度額4000万円(ただし、認定等級による/逸失利益、後遺障害慰謝料)
  3. ③「死亡」による損害:限度額3000万円(逸失利益、慰謝料、葬儀関係費等)

自賠責保険は、画一的かつ最低限の補償を目的としているため、多額の損失が算出されるケースでも上記以上の補償がなされることはありません。そのため、多くの自動車保有者は自賠責保険で賄い切れない損害を担保するため、その上乗せとして任意保険に加入し、もしもの事態に備えています。

高次脳機能障害の認定における自賠責の役割と手続き

自賠責保険においては、平成12年より高次脳機能障害について後遺障害として認定するためのシステムを確立し、平成13年より実施、運営されています。

自賠責保険の中では、高次脳機能障害は「特定事案」と位置付けられ、専門医等で構成される高次脳機能障害専門部会が損害保険料率算出機構内に設置され、後遺障害認定の審査が行われます。

そこでは、提出された資料をもとに認定手続きがおこなわれますが、診断書が不十分であったり書類の不備により、重篤な症状を呈していながら認定から漏れてしまっている方は多数存在します。

万一、交通事故により高次脳機能障害を発症してしまい、回復が叶わない際は、後遺障害としての認定要件をしっかりと理解しておくことがとても重要になります。

自賠責で高次脳機能障害に認定されるための要件

今日における高次脳機能障害の認定は、実務上、次の3つの要件を中心に後遺障害認定の審査が行われます。

  1. ① 交通事故受傷直後の意識障害の程度
  2. ② CT、MRI等画像所見に基づく医師の診断(後遺障害診断書)
  3. ③ 人格変化、知的機能低下の程度

以上の要件につき、具体的な根拠資料を用意する必要があります。

高次脳機能障害は、患者ご本人が病態を理解できないことも多々ありますので、その場合はご家族等がご本人に代わって準備していくことになります。以下、それぞれの要件について説明します。

初診時の意識障害

高次脳機能障害は初診時に意識障害が認められるかが重要です。その受傷直後における意識障害の程度や継続時間を明らかにするため、具体的には「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書面を提出することになります。

この書面は、「JCS(正式名称:Japan Coma Scale)」又は「GCS(正式名称:Glasgow Coma Scale)」という基準に基づいて作成されます。前者は日本で開発された意識障害分類、後者は英国のグラスゴー大学により発表された分類です。後者の方が世界的に広く使用されています。

JCSは短時間で簡易に判定が可能である一方、基準となる「覚醒」の判断に際して評価者によってバラつきが出てしまう欠点があります。

GCSは「開眼」「発語」「運動機能」の三つを判断基準にするため、それぞれ独立した評価を下すことができますが、判断がやや複雑で三つのうち一つでも評価ができないと全体として意味をなさないという欠点があります。

実務では、二つの検査を併用しているケースが多々見られます。

医師の診断結果(後遺障害診断書)

高次脳機能障害の認定では、受傷直後の医療画像に基づく脳挫傷等医師の診断に加え、「後遺障害診断書」の中での診断が重要になります。後遺障害の種類は多岐にわたりますが、等級審査用に作成される医学的書面の組合せは、基本的に「後遺障害診断書」と「各傷病における専用書式」です。後者の説明は次項以降に譲り、ここでは後遺障害診断書に触れていきます。

後遺障害診断書は、残存症状、症状固定日、裏付けとなる検査結果、予後所見等を記載する診断書のことです。この診断書に記載された残存症状のみ、等級審査の対象となります。

そのため、医師が書いた「後遺障害診断書」に高次脳機能障害と診断されるような内容が書かれてなければ認定は難しくなります。

また、高次脳機能障害を生じさせるほどの事故態様の場合、脳機能の低下のほか、四肢の機能低下、視覚力・嗅覚等の感覚障害、頭部以外の骨折等、残存症状が多数となる場合も少なくありません。

高次脳機能障害自体の等級判断のほか、他部位の障害が認められれば併合による等級繰上げがあり得るため、残存症状の記載漏れに注意を払う必要があります。患者側から医師に対してしっかりと確認することも重要です。

認知障害、行動障害、人格変化が認められる

高次脳機能障害は,記憶・記銘力障害,集中力障害,遂行機能障害,判断力低下等の認知障害と,感情易変,不機嫌,攻撃性,暴言・暴力,幼稚,羞恥心の低下,多弁(饒舌),自発性・活動性の低下,病的嫉妬,被害妄想等の人格変化を典型的な症状とする病変です。

これらの症状は、会話の相手や状況等で捉えられ方が大きく変わることがあります。例えば、中高生の高次脳機能障害における感情易変や自発性・活動性の低下は、「思春期だから」で片付けられてしまうことがあります。

このように、高次脳機能障害は「見過ごされやすい」病変という性質を有しているため、ご家族や周囲の方々が被害者の変化に気付いてあげられることが何よりも重要となります。

自賠責における高次脳機能障害の認定のための判断材料

高次脳機能障害の程度を外見上から判断することは困難です。そのため、自賠責で高次脳機能障害の認定を得るためには「医師の報告書」や「家族の報告書」により、等級の審査機関に対して病状を詳細に説明することや、「画像検査資料」や「神経心理学検査」によりその裏付けを行うことが重要となります。

以下に、各報告書や検査資料についての要点を説明いたします。

画像検査資料(CT、MRI)

高次脳機能障害の後遺障害審査において、画像所見つまり画像検査資料は最も重要な資料の一つです。

審査において必要な情報は、脳外傷が「外傷性」であることを示す所見、及び受傷直後の画像とその後に撮影された画像とを比較して、「脳萎縮」や「脳室拡大」が進行していることを示す所見です。

現在の認定システムでは、例えばびまん性軸索損傷等の画像に写りにくい病変に起因する高次脳機能障害の場合、等級認定を得るのは難しいのが実情です。

この点、自賠責保険の拠り所である労災保険に対する厚生労働省通達や、損害保険料率算出機構に対する国土交通省の要請により、認定システムの改善が検討されていますが、現状は今の審査要件に則り画像所見を準備する必要があります。

医師の報告書(神経系統の障害に関する医学的意見)

前述の「頭部外傷後の意識障害についての所見」のほか、神経系統の障害に関する医学的意見という書面が医学的根拠書類の中心となります。

この書面では、前項の画像所見のほか、「神経心理学検査の結果」、「運動機能」、「身の回り動作能力」、「てんかんの有無」、「認知・情緒・行動障害」について、更にそれらが「社会生活・日常生活に与える影響」、「全般的活動状況及び適応状況」について説明されます。

この書面を完成させるためには、脳神経外科を中心として他の診療科やご家族の協力が必要となります。例えば「運動機能」に関してはリハビリ科の協力が必要です。

また、「身の回り動作」以降の項目については、医師の目が届かない日常生活状況も必要情報となるため、ご家族等が医師としっかりコミュニケーションを図ることが重要となります。

家族の報告書(日常生活状況報告)

高次脳機能障害の患者は、自身の病態についてしっかりと認識できないのが通常です。そのため、ご家族や周囲の親しい人が「日常生活状況報告」を作成し、審査機関に対して被害者の人格変化や知的機能低下を伝えていくことになります。

この書式では「日常活動」「問題行動」「適応状況」「具体的エピソード」「就労・就学状況」「身の回り動作」「声かけ・見守り・介助の必要な理由、内容、頻度」「生活状況」を記載します。

ポイントは、「事故前後それぞれの状態をしっかりと伝えること」、「具体的なエピソードにより、審査機関に対して被害者の変化の深刻さを伝えていくこと」です。

後遺障害の審査は、醜状障害を除き、原則書面で行われます。そのため、この書面で被害者の実情を伝えていくことは非常に重要となります。

高次脳機能障害の日常生活状況報告書の書き方と注意点

神経心理学検査

脳機能の低下は、人の目で見ることはできません。しかしながら、後遺障害の審査においては何かしらの基準が必要となります。そこで、高次脳機能障害の審査においては、脳機能の低下を検査によって数値化することで可視化し、審査基準として用いています。

例えば、知能検査には、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)、MMSE(ミニメンタルステート検査)、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)等があり、被害者の機能低下の状況は勿論のこと、検査ごとの所要時間と被害者の体調等も勘案し検査を選択します。

さらに、知能以外にも記憶力、言語能力、注意力、遂行機能、更には意欲等の観点も踏まえ、被害者の実態を伝え得る適切な検査の組み合わせを検討していきます。

高次脳機能障害の神経心理学検査とは?検査の種類とタイミングについて

自賠責の高次脳機能障害の等級認定の基準

自賠責の高次脳機能障害の等級認定の基準は以下のようになります。

等級 内容 後遺障害慰謝料(自賠責基準) 後遺障害慰謝料(裁判基準)
別表第一第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
⇒高次脳機能障害のため,生命維持に必要な身のまわり処理の動作について,常に他人の介護を要するもの
1600万円 2800万円
別表第一第2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの
⇒高次脳機能障害のため,生命維持に必要な身の回り処理の動作について,随意介護を要するもの
1163万円 2370万円
別表第二第3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
⇒生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが,高次脳機能障害のため,労務に服することができないもの
829万円 1990万円
別表第二第5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
⇒高次脳機能障害のため,きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
599万円 1400万円
別表第二第7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの⇒高次脳機能障害のため,軽易な労務にしか服することができないもの 409万円 1000万円
別表第二第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
⇒通常の労務に服することはできるが,高次脳機能障害のため,社会通念上,その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
245万円 690万円
別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
⇒通常の労務に服することはできるが,高次脳機能障害のため,多少の障害を残すもの
93万円 290万円
別表第二第14級9号 局部に神経症状を残すもの
⇒通常の労務に服することはできるが,高次脳機能障害のため,軽微な障害を残すもの
32万円 110万円

自賠責への請求手続き方法

後遺障害の等級申請の方法には、手続きを加害者側(任意保険会社)に任せる「事前認定」と被害者側で手続きを行う「被害者請求」の二種類があります。

前者は、任意保険会社が自賠責の負担分も含めて一括して治療費等の支払いを行う「一括対応」(原則的な仕組みでは、被害者はまず自賠責に対して治療費等を請求し、自賠責における傷害部分の限度額である120万円を超えた段階で、任意保険会社への請求に切り替えることになります。)の過程で行われます。一方、後者は名称どおり被害者自身で等級申請の手続きを行う方法です。

事前認定のメリットは、煩雑な手続きの一切を相手方任意保険会社が引き受けてくれることです。一方、被害者請求では、手続きの負担を抱えることになりますが、その分書面や資料について納得のいく準備が可能です。

まとめ

今回は、交通事故における高次脳機能障害について、自賠責で等級認定を受けるためのポイントを解説しました。

高次脳機能障害を負った被害者の方は、今後の生活のためしっかりとした賠償を受けなければなりません。また、被害者のご家族も介護費等、将来的に必要となる費用に備える必要があります。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故における高次脳機能障害の被害者を数多くサポートしてまいりました。後遺障害に強い当事務所までお気軽にご相談ください。