「神経系統の障害に関する医学的意見」とは?書き方と作成時の注意点
「神経系統の障害に関する医学的意見」とは?書き方と作成時の注意点
高次脳機能障害の等級審査では、「頭部外傷後の意識障害についての所見」、「神経系統の障害に関する医学的意見」及び「日常生活状況報告」という3種類の定型書式を中心に審査が進められます。
いずれの書式とも、高次脳機能障害の多岐にわたる病態を説明するため、非常に複雑な構成がなされています。
本記事では、3種類の中で、医師の立場から高次脳機能障害の内容に深く踏み込むという点で非常に重要度が高い「神経系統の障害に関する医学的意見」について、内容や注意点について解説します。
神経系統の障害に関する医学的意見とは
「神経系統の障害に関する医学的意見」は、自賠責保険における高次脳機能障害の等級審査において必須とされている定型書式の一つです。
性質としては診断書の一種ですので、作成は医師に依頼することになります。同じく必須の書類である後遺障害診断書が全ての障害の審査で作成されるのに対して、「神経系統の障害に関する医学的意見」は高次脳機能障害の病状の証明に特化した書類です。
したがって、高次脳機能障害の等級審査ではこの書類が中心となるといっても過言ではありません。そのため、その重要性を十分理解し、しっかりとした準備の上、医師に依頼する必要があります。
以下では、「神経系統の障害に関する医学的意見」の具体的な内容及び注意点を説明いたします。
神経系統の障害に関する医学的意見に記入される内容
「神経系統の障害に関する医学的意見」では、以下の8つの項目で構成されます。
1. 画像(脳MRI、脳CTなど)および脳波
脳外傷の所見やその他異常所見を記載してもらいます。ポイントは「交通事故に起因した脳の器質的損傷が認められるか」と「その後、脳萎縮・脳室拡大が認められるか」です。
前者では特に事故受傷直後の画像所見が、また、後者では受傷後3か月程度を目途に、事故受傷直後と比べた場合の脳委縮・脳室拡大の進行の程度が、それぞれ特に重要となります。
また、脳波については「5. てんかん発作の有無」との関係で重要となるため、脳波検査の結果を記載してもらいます。
2. 神経心理学検査
知能検査や記憶検査、前頭葉機能検査、その他患者の病態に合わせて実施された神経心理学検査について、検査日、検査名及び検査結果の概要を記載してもらいます。詳細を記載するには欄が小さいので、検査結果は別紙でも添付してもらいます。
3. 運動機能
左右の上下肢及び体幹について、麻痺の程度と筋力を記載してもらいます。
高次脳機能障害では、上位等級として別表第一の等級が用意されています。かかる等級は要介護の障害を想定しているため、運動機能の低下を立証することは非常に重要です。
4. 身の回り動作能力
食事動作や更衣動作等、日常生活を送る上で必要な10の動作について、「自立」、「ときどき介助・見守り・声かけ」、「ほとんどできない/大部分介助」、「全面的に介助」の4段階で評価します。
5. てんかん発作の有無
てんかんは、大脳の神経細胞が過剰興奮することで痙攣等の発作を繰り返す病気です。そのため、実際に発作がある場合は、その頻度や発作の形を記載してもらいます。
また、発作がなくても、脳波検査でスパイクが確認される場合は、抗てんかん薬を継続的に服用しますので、その種類と量も重要事項です。
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6. 認知・情緒・行動障害
記憶障害や言語障害、社会的行動障害等で想定される代表的な21の事項について、「なし」、「軽度/稀に」、「中等度/ときどき」、「重度/頻回」の4段階で評価します。
7. 上記6.の症状が社会生活・日常生活に与える影響
例えば、6.の2「新しいことを覚えられない」にて「軽度/稀に」以上に該当する場合、それにより想定される具体的な支障や実際に生じている支障等を記載してもらいます(買い物で買うべき物を記憶できない、仕事で新しい業務を覚えられない 等)。
8. 全般的活動および適応状況
例えば、別表第二第7級4号は「一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの」を対象としています。
このように、自賠責保険における高次脳機能障害の等級審査では、脳機能の低下の程度を踏まえ、被害者がどの程度の就労や一般動作等が可能かを判断し、等級を認定します。
そのため、本項目では神経心理学検査の結果やてんかん発作の有無、脳機能の低下に起因する具体的支障を踏まえ、就労や日常生活における適用状況を記載してもらいます。
作成時の注意点
以上のとおり、「神経系統の障害に関する医学的意見」には高次脳機能障害の等級審査における重要事項を数多く盛り込まなければなりません。
その上で、被害者やご家族が意識しておかなければならないことは、かかる書面における多くの事項につき、医師が知り得ないことが聞かれているということです。
医師が患者と対面するのは診察室での数分の時間のみです。そのため、日常生活における物忘れや遂行機能の低下等を医師が把握するのは困難です。
また、不適切な大声、易怒性等の社会的行動障害が顕著であったとしても、診察室という緊張感のある場では露顕し難いものです。したがって、被害者のご家族から医師に対して、具体的なエピソードを伝えることが非常に重要です。
そのために、日頃から医師とのコミュニケーションを良好に保っておく必要があります。医師への病態説明や「日常生活状況報告」の作成等、高次脳機能障害の等級申請に係る様々な場面で、弁護士は被害者のお力になることができます。