交通事故の下半身麻痺の後遺障害等級と慰謝料

下半身麻酔
下半身麻酔

交通事故の下半身麻痺の後遺障害等級と慰謝料

歩行は人間生活を送る上で最も重要な動作の一つです。下半身麻痺が残存してしまった場合、多くは歩行障害をきたすため、その後の生活に大きな支障を及ぼします。

 

また、膀胱直腸障害等その他の障害も相まって、従前どおりの生活を送ることは難しくなります。交通事故により下半身麻痺を負ってしまった場合、今後の生活のためにしっかりとした賠償金を保険会社に請求しなければなりません。

 

そこで、本記事では下半身麻痺の概要や請求可能費目等について説明いたします。

下半身麻痺と症状

麻痺とは、中枢神経、末梢神経又は筋肉組織の損傷等により、運動機能や温痛感覚を喪失し又はこれらが低下した状態を指します。医学的には、特に運動機能の障害を示す言葉として用いられます。

 

下半身麻痺が生じてしまった場合、軽度の場合は階段昇降や走ることに支障が生じ、重度になると歩行不能、起立不能といった深刻な状態に至ります。また、膀胱直腸障害による排尿・排便の不自由も日常生活に大きく影響します。

交通事故の下半身麻痺の要因とは

人間の運動は、脳から発せられる命令が中枢神経である脊髄を経由して、全身に届けられることにより可能となっています。歩行等下半身の運動も同様であり、この伝達回路が阻害されることで下半身麻痺を生じます。

 

交通事故においても、生じ得る障害として下半身麻痺が想定されており、「脊髄損傷」や「脳外傷」といった医学的原因がある場合に認定されることを想定して後遺障害等級が定められています。

脊髄損傷

「脊髄」は、脳の底部から腰の下部まで伸びる太い紐状の神経で、背骨の中を通る脊柱管というトンネルの中で保護されるような形で存在しています。脳と同じく中枢神経としての性質を有し、全身に指令を送る神経系統の中心としての役割を担っています。

 

脊髄損傷は、脊髄が何らかの外力により損傷してしまうことです。神経系統の中心である脊髄が損傷してしまうことで、全身への指示出し機能に障害をきたし、結果として運動機能や温痛感覚の障害を生じさせます。

 

脊髄を損傷した場合、脳からの発せられた命令が損傷位置(高位)以下に伝達されないことになるため、結果として損傷位置(高位)以下が司る四肢等の部位に麻痺等が生じることになります。この様なメカニズムから、脊髄損傷の場合には、片麻痺よりも対麻痺の方が多い傾向にあります。

脳外傷

下半身への運動指示のスタート地点となるのは脳であるため、頭蓋骨骨折等により脳内出血をきたした場合にも下半身麻痺を生じ得ます。特に、被殻や視床での出血では麻痺を生じる可能性が高まります。

 

また、くも膜下出血等の脳表面部における出血でも麻痺が生じることがあります。なお、いずれの脳外傷においても、麻痺は片麻痺の形で生じることが多い傾向にあります。これは、脳を損傷した場合、損傷部と逆側に症状を呈するためです。

等級認定のために必要な検査と診断書作成

下半身麻痺について等級認定を得るためには、その原因を各検査で立証すること、そして、それらを踏まえ専用の書式を医師に作成してもらうことが必須となります。

 

検査としては、レントゲン、CT、MRIの各画像検査が最重要です。一目でわかるような明確な損傷所見がない場合には、特に急性期におけるMRIのT2強調画像が肝になります。

 

また、神経学的検査の結果も大切な情報です。深部腱反射検査における亢進の所見、及びホフマン・トレムナー・ワルテンベルグの各検査における病的反射が受傷初期から一貫して確認できることが重要です。

 

以上の各検査の結果は、「脊髄症状判定用」と「神経学的所見の推移について」という麻痺の審査における専用書式に起こす必要があります。作成経験がない医師もいるため、患者側からも積極的にアプローチしていけると良いでしょう。

下半身麻痺の被害者が請求できる項目

下半身麻痺を抱えて生活するためには、それを可能とする環境を整える必要があります。交通事故においては主に以下の費目につき請求できる場合があります。

 

  1. ①将来介護費
  2. 職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8,000円が目安となります。

     

  3. ②将来雑費
  4. 膀胱直腸障害のためのおむつ代等の実費が想定されます。

     

  5. ③装具、器具等の購入費
  6. 杖や車椅子、特殊ベッド等の購入費用、交換費用が想定されます。

     

  7. ④家屋、自動車等の改造費
  8. 浴室、トイレ、出入口等の家屋のリフォームや自動車の改造費用等が想定されます。

下半身麻痺の後遺障害等級と慰謝料

下半身麻痺に関する後遺障害等級は、麻痺の範囲(四肢麻痺、対麻痺、単麻痺)や程度(高度、中等度、軽度)によって、次のとおり定められています。

 

等級 内容
別表第一第1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの
⇒脊髄症状のため,生命維持に必要な身のまわり処理の動作について,常に他人の介護を要するもの
⇒①高度の四肢麻痺が認められるもの、②高度の対麻痺が認められるもの、③中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの、④中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの。
別表第一第2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの
⇒脊髄症状のため,生命維持に必要な身の回り処理の動作について,随意介護を要するもの
⇒①中等度の四肢麻痺が認められるもの、②軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの、③中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの。
別表第二第3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの
⇒生命維持に必要な身の回り処理の動作は可能であるが,脊髄症状のため,労務に服することができないもの
⇒①軽度の四肢麻痺が認められるもの(別表第一第2級に該当するものを除く)、②中等度の対麻痺が認められるもの(別表第一第1級又は別表第一第2級に該当するものを除く)。
別表第二第5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
⇒脊髄症状のため,きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
⇒①軽度の対麻痺が認められるもの、②1下肢の高度の単麻痺が認められるもの。
別表第二第7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの
⇒脊髄症状のため,軽易な労務以外には服することができないもの
⇒1下肢の中等度の単麻痺が認められるもの。
別表第二第9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
⇒通常の労務に服することはできるが,脊髄症状のため,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
⇒1下肢の軽度の単麻痺が認められるもの。
別表第二第12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
⇒通常の労務に服することはできるが,脊髄症状のため,多少の障害を残すもの
⇒①運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの、②運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの。

 

また、各等級における後遺障害慰謝料及び労働能力喪失率は次のとおりです。

 

等級 後遺障害慰謝料(自賠責基準) 後遺障害慰謝料(裁判基準) 労働能力喪失率
別表第一第1級1号 1650万円 2800万円 100%
別表第一第2級1号 1203万円 2370万円 100%
別表第二第3級3号 861万円 1990万円 100%
別表第二第5級2号 618万円 1400万円 79%
別表第二第7級4号 419万円 1000万円 56%
別表第二第9級10号 249万円 690万円 35%
別表第二第12級13号 94万円 290万円 14%

下半身麻痺の被害者に弁護士ができること

以上、下半身麻痺に関して説明いたしました。今後の生活において少しでも不自由さを軽減できるよう、症状固定までに可能な限りのリハビリを受けること、適切な後遺障害等級を得ること、そして、必要器具の購入費等を保険会社に認めてもらうことがとても重要になります。

 

そのため、各手続は保険会社任せにせず、自身のために自ら行うべきです。必要な検査や専用書式等に関し、詳細な知識を要しますので、専門家である弁護士を介入させるのも一つの手段です。弁護士法人オールイズワンでは、下半身麻痺を負った被害者の方を数多くサポートしてまいりました。

 

その経験から、検査やリハビリについて詳細にアドバイスを差し上げることが可能です。また、等級申請やその後の保険会社との交渉等、総合的にサポートいたします。下半身麻痺に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。