遷延性意識障害被害者の障害年金申請と注意点

障害年金
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遷延性意識障害被害者の障害年金申請と注意点

遷延性意識障害については複数の定義が存在しますが、概ね次の事項が要件となります(以下は日本脳神経外科学会による定義(1976年)です。)。

 

  1. 1.自力移動不能
  2. 2.自力摂食不能
  3. 3.糞便失禁状態
  4. 4.意味のある発語不能
  5. 5.簡単な従命以上の意思疎通不能
  6. 6.追視あるいは認識不能

 

以上6項目が治療にもかかわらず3か月以上続く場合、遷延性意識障害と診断されます。

 

このような重度の昏睡状態により、患者本人は自発的な生活ができませんので、介護費用や介護者の休業損害等、将来にわたり多額の出費を強いられます。

 

そのため、それらに備えた準備を、ご家族等の近親者の方が行わなければなりません。そこで、本記事では、遷延性意識障害を負った方の手助けとなる制度の一つとして、「障害年金」の制度についてご説明します。

遷延性意識障害と障害年金

交通事故により遷延性意識障害を負った場合、自賠責における後遺障害としては別表第一第1級が想定されます。かかる等級認定により支払われる賠償金は、将来発生する損害を含め一括で支払われる「一時金」の性質を有するものです。一時金は、大きな金額を早々に取得できるメリットがあります。

 

一方で、本来は将来のある時点まで得られないはずの金銭を先に得てしまうので、その金額については本来の受領時点までの利息分だけ利益を得るとの考え方のもと、かかる利息部分を控除する運用がなされています。

 

このように、先払いと引換えに損をする形となります。遷延性意識障害を負った方の補償としては、賠償金だけでは万全と言えないのが実情です。

 

そこで、一つの救済策として「障害年金」の制度が考えられます。日本は国民皆年金を採用していますので、障害の程度に応じて平等に給付を受けることができます。ただし、給付を受けるためには患者本人(又は代理人)からの申請を要します。

 

また、申請の内容として、障害の程度の立証が必要となります。そのため、適切な給付を受けるためには、正しい知識を持って資料準備を行わなければなりません。

 

障害年金とは

障害年金は、公的年金制度のうちの一つです。一般的には老齢年金の印象が強いですが、これとは別に、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、「現役世代の方」も含めて受け取ることができる年金です。

 

障害年金の特徴は「定期的な継続給付」である点です。この継続給付は、障害認定日以降、対象の疾病・外傷が認定等級の程度に該当しなくなるか、又は給付対象者が亡くなるまで続きます。

 

障害年金は、交通事故における自賠責保険と任意保険のように、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の二階建ての構造になっています。そのため、国民年金に加入している方は障害基礎年金のみ、厚生年金に加入している方は障害基礎年金に加えて、更に障害厚生年金の給付も受けられることになります。

 

どちらの障害年金の対象になるかは、「初診日」がいずれの加入期間の範囲にあるかで決まります。なお、障害者手帳の制度はこれと異なりますので、別途申請が可能です。

 

また、賠償金との関係では、一部の費目(休業損害、逸失利益等)については、加害者(又は保険会社)と国の双方から二重に受領することはできません。この場合、国の年金支給が一部免除されます。就労中の事故に起因している場合でも受給可能ですが、労災保険との間で一定の調整がなされます。

遷延性意識障害の障害年金の支給要件

障害年金の支給要件は次のとおりです。

  1. ①初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付又は免除されていること。
  2.  

  3. ②(①を満たさない場合でも、)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと。
  4. * 20歳未満の場合は年金の納付義務がないため、上記給付要件の対象外となります。ただし、世帯の所得に応じた制限があります。

 

上記を満たす方には、「障害認定日」における障害の程度に応じて支給の有無及び支給額が決定されます。
また、障害認定日については、次の要件を満たさなければなりません。

  1. ①初診日から1年6か月を経過した日(その間に治った場合は治った日)、又は20歳に達した日に障害の状態にあること。
  2.  

  3. ②65歳に達する日までの間に障害の状態になること。

 

「治った日」とは、治癒した日を意味するものではなく、「その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待し得ない状態に至った場合」を指します。

遷延性意識障害の認定は1級のみ

障害年金の支給額は「等級」ごとに異なります。1階部分にあたる障害基礎年金には第1級及び第2級が用意されており、2階部分にあたる厚生障害年金には第1・2級に加え、更に第3級と障害手当金が用意されています。

 

等級は数字が小さいほど重度の障害を対象とするため、第1級が最も重篤な方の等級です。等級は、「国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表」及び「厚生年金保険法施行令(昭和29年政令第110号)別表第1及び第2」の定めに従い、障害の程度によって審査・認定されます。

 

遷延性意識障害は第1級の対象となりますが、それは次の基準によるものです。

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。
例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものである。

 

遷延性意識障害を負った方は自発的な活動が困難であるため、上記基準に照らし、これに一致する病態であることを立証していきます。

 

なお、第1級又は第2級の障害基礎年金を受給している方は、届出により、国民年金の保険料が免除されます(法定免除)。

遷延性意識障害の障害年金支給のタイミングと請求の注意点

障害がいずれかの等級に認定された場合、障害認定日の翌月から支給が開始されます。障害認定日は初診日から1年6か月が経過した日を原則とするため、この初診日がいつなのかが重要となります。

 

遷延性意識障害の場合、「遷延」が「長引くこと、のびのびになること」を意味するとおり、受傷直後に付される傷病名ではありません。例えば、受傷直後は脳挫傷等の傷病名が付され、後に遷延性意識障害と診断されることになります。

 

このように受傷直後と異なる傷病名が付されている場合、原因と思われる傷病名と後の傷病名との間に相当因果関係が認められれば、当初の傷病名で受診した日を初診日として期間を計上することができます。

 

なお、障害認定日の時点で障害年金の請求をしなかったときでも、5年前までの分は遡及的に請求が可能な場合があります。また、障害認定日における病態が後に悪化し障害等級に該当する程度となったときには、「事後重症」による請求が可能です。この場合は、請求日の翌月から支給が開始されます。

障害年金の計算方法

第1級の障害年金は、次の計算方法により障害基礎年金と厚生障害年金を合算して算定されます。

 

① 障害基礎年金
【781,700円×1.25+子の加算】
 * 「子の加算」は次のとおり計上します。
    第1子及び第2子:各224,900円
    第3子以降:各75,000円
 * 「子」は次のいずれかに該当することが要件です。
    18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
    20歳未満で障害等級第1級又は第2級に該当する子

 

② 障害厚生年金
【報酬比例の年金額×1.25+配偶者の加給年金額224,900円】
 * 「報酬比例の年金額」は、次の計算方法による金額を計上します。
    平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者期間の月数
   +平均標準報酬額×5.481/1000×平成15年4月以後の被保険者期間の月数
 * 「被保険者期間」が300月未満の場合は300月とみなして計算されます。

障害年金の申請方法と必要な書類など

障害年金の申請場所は、障害基礎年金か障害厚生年金かによって異なります。前者の場合は住所地の市区町村の役所、後者の場合は年金事務所又は年金相談センターです。

 

申請人としては、本人は勿論のこと、委任状があればご家族等の近親者や弁護士等も認められます。申請書類についてはケースバイケースで必要なものが多くありますので、事案ごとにしっかりとした確認が必要です。以下に主なものを抜粋します。

 

  1. 1.年金請求書
  2. 2.基礎年金番号の確認書類(年金手帳、基礎年金番号通知書 等)
  3. 3.振込先の確認書類(預金通帳、キャッシュカード 等)
  4. 4.戸籍謄本(6か月以内のもの)
  5. 5.診断書
  6. * 遡及請求を行う場合(障害認定日から年金請求日が1年以上離れている場合)は障害認定日当時のものに加え、直近3か月以内の診断書も必要となります。

  7. 6.受診状況等証明書(一次診が異なる場合に必要となる「初診日」の証明資料)
  8. 又は受診状況等証明書が添付できない申立書

  9. 7.病歴・就労状況等申立書
  10. 8.住民票等(子、配偶者の加算に関する参考資料)
  11. 9.子の診断書(子の加算に関する参考資料)
  12. 10.配偶者の所得証明書(配偶者の加算に関する参考資料)
  13. 11.障害者手帳(等級審査における参考資料)
  14. 12.障害給付、請求事由確認書(障害認定日による請求で受給権が発生しない場合、事後重症請求の審査となることの同意書類)
  15. 13.年金裁定請求の遅延に関する申立書(障害認定日から5年以上が経過した時点で遡及請求を行う場合に要する。)
  16. 14.委任状(代理人申請の場合に要する。)

障害年金の申請を弁護士に依頼するメリット

以上のとおり、障害年金の制度は非常に複雑であり、また、必要書類を過不足なく整えるためには正確な知識を要します。申請用の医証を作成する医師としても、必要な書類やその内容について完全に把握しているわけではないため、患者側に知識がないと手続きが停滞してしまいます。

 

障害年金の申請を業として行えるのは弁護士か社会保険労務士です。しかしながら、全ての弁護士等が手続きに精通しているわけではありません。そのため、患者のご家族は、障害年金の手続きについて経験値のある専門家を選択しなければなりません。

 

弁護士法人オールイズワンでは、遷延性意識障害を負った被害者を数多くサポートしてまいりました。その経験から、ケースごとに必要な書類を細かくアドバイス又は作成することができます。

 

また、医師に対しては、必要な医証の種類や記載すべき内容をご説明させていただきます。遷延性意識障害に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。