遷延性意識障害の症状固定の注意点について
遷延性意識障害の症状固定の注意点について
遷延性意識障害は、被害者本人は勿論のこと、介護にあたるご家族等の生活も激変させてしまう非常に重篤な傷病です。回復症例はあるものの、その可能性や時期については医師でも想定することは困難であり、本人のご家族は先を見通せない介護生活を強いられます。
そのため、その原因が交通事故であれば、しっかりと賠償金の支払を受け、将来に備える必要があります。そこで今回は、賠償金の算定における勘所となる「症状固定」について解説していきます。
遷延性意識障害の症状固定とは
症状固定とは、「治療を行ってもそれ以上の症状緩解が見込めない状態」、「一進一退の状態」を指す言葉です。ただし、医学的には症状固定を断言することは簡単なことではありません。
例えば、手足の欠損については現代医学では治療が困難ですが、痛みやしびれ等は時間はかかっても治癒に至る可能性が残ります。しかしながら、保険会社としては、治療終了時期が未定のまま、延々と保険金支払を継続することは避けたいと思っています。
そこで、症状固定という考え方を持ち出し、賠償関係を終了する制度を採用しています。つまり、症状固定は、賠償実務的な側面が強い考え方ということになります。
遷延性意識障害における症状固定についても、同様の考え方に基づき判断することになります。被害者のご家族としては納得し難いであろう運用ですが、このような理論で賠償関係の解決が図られているのが実情です。
そのため、症状固定日は、被害者にとっても保険会社にとっても非常に重要な意味を持つことになります。
症状固定の注意点について
症状固定日は「保険会社による傷害部分の各支払の終了日」となります。つまり、遷延性意識障害を負った被害者のご家族としては、以降の治療費、介護費その他必要となるあらゆる費用を負担しなければならなくなります。
また、症状固定日から実際に賠償金を受け取れるまで、実は短くない期間を要することになります。しかしながら、保険会社からの傷害部分の支払はあくまで症状固定日までですので、この間に要する費用は被害者側で工面しなければなりません。そのため、症状固定日は慎重に決定しなければなりません。
症状固定のタイミング
自賠責における後遺障害は、症状固定日において残存する症状をその対象とします。そして、認定実務上は、手足の欠損等を除き、事故受傷後6か月以上経過していることを、認定における前提条件としています。
遷延性意識障害の場合、脳神経外科学会の定義等では3か月以上の継続を要件としているため、原則的には6か月が経過した後であれば後遺障害の認定の対象となります。しかし、実務上においては、1年以上の経過観察を経た上で症状固定と判断されるケースが多い印象です。
一方、保険会社としては早期に症状固定日を定められることで、各種の支払額を抑えることができます。そのため、「一般的には6か月が症状固定の目安となります」、「今後のための費用は後遺障害部分としてしっかりとお支払いします」等の口実により症状固定を促すことがあります。
被害者の介護を担うご家族としては、症状固定の判断を急ぐ必要はありません。症状固定後の治療費、介護費等の自己負担となる費用を見積もり、しっかりとした準備ができた段階で症状固定の診断を受けるようにしましょう。
退院後は自宅介護や施設介護になる
遷延性意識障害の患者は自立した生活ができませんので、症状固定後も介護が必要です。そこで、被害者のご家族としては、以降の介護を自宅又は施設で継続することになります。
しかしながら、現状では遷延性意識障害の患者を受け入れられる施設は多くないのが実情です。国土交通省による2018年の調査では、グループホームでの受入れ実績は0.4%、入居施設では23.3%との統計が出ています。
このように低水準となっている要因としては、痰の吸引や胃ろうの対応が行える体制が整っている施設が少ないこと等が挙げられます。そのため、施設介護を望んでも叶わない場合があり得ることも想定して、介護方法を検討する必要があります。
自宅介護においては、胃ろう等の方法による食事介護、痰の吸引、唾液の分泌不足に対応する口腔ケア、褥瘡の対応、排尿・排便の介護、身体清潔の維持等、必要となる介護の内容は多岐にわたります。
そのため、ほぼ24時間付きっ切りでの介護を要します。また、備品購入やリフォームも必要となります。さらに、付きっ切りとなるご家族の休業損害についても考えなければなりません。
施設介護においては、備品購入やリフォームを要しない代わりに入居費用が掛かります。
自宅介護は施設介護に比べて多額の出費を要するとされていますが、どちらにしても高額な費用を要することに変わりはありません。そのため、症状固定以降、どのように被害者本人を介護するか、症状固定に至る前に十分検討、準備した上で、必要経費を含めた賠償請求を行う必要があります。
症状固定後は賠償金受け取りまでの金銭的負担が増える
症状固定により、保険会社による傷害部分の支払が終了します。そのため、それ以降の補償は後遺障害部分として請求していくことになります。
後遺障害部分の請求を行うためには、原則としては等級認定を経なければなりませんが、脳損傷に起因する重度の後遺障害では、審査に3か月以上を要することも珍しくありません。
また、初回請求で納得のいく等級が認定されなかった場合、更に時間をかけて準備をし、異議申立てを行わなければなりません。等級認定が得られれば、この時点で後遺障害保険金の一部は支払われます。
そしてその後は、等級認定後は相手方任意保険会社との示談交渉となります。遷延性意識障害を負った被害者に関する賠償金は高額になるケースが多く、保険会社としては簡単には首を縦に振りません。そのため、交渉は持久戦となり、裁判となれば解決までに1年以上を要することもあります。
つまり、症状固定から賠償金の支払を受けるまでに1年以上のタイムラグを生じる可能性があり、その間、被害者のご家族は自己負担により介護費用等を工面しなければならないことになります。
そのため、自賠責保険の後遺障害保険金のほか、障害者手帳等、他の支援制度も利用してタイムラグを乗り切る方法を検討していくことになります。
症状固定前から弁護士のサポートを受けること
以上のとおり、遷延性意識障害の患者を抱えるご家族は、症状固定のタイミングや将来の介護方法、症状固定後の金銭の工面等、多くのことを検討しなければなりません。
これらの事項について適切な判断を行うためには、症状固定に至る前の段階で、将来に備えた計画を立てる必要があります。
弁護士法人オールイズワンでは、遷延性意識障害を負った被害者を数多くサポートしてまいりました。その経験から、入通院のアドバイスや医師への医証依頼のフォロー、後遺障害の申請手続き、その他障害者手帳の申請や後見制度のアドバイスといった幅広い観点からサポートすることができます。
遷延性意識障害に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。