後遺症・症状の種類

外貌醜状について

交通事故で頭や顔など日常的に露出する部分に目立つ傷が残ってしまう状態を外貌醜状と言います。外貌醜状になると、男女問わず私生活において傷痕が原因で様々なストレスを抱え、精神的苦痛を受けることになります。

交通事故では、被害者の精神的苦痛や逸失利益などに対する慰謝料の請求が認められていますが、治療後も傷痕が残る場合は、部位や程度によって後遺障害が認められるケースもあります。

ただし、外貌醜状の場合、「外観」が重要視されますので損害賠償請求の際は多くの注意点があります。

この記事では、交通事故被害者が正当な慰謝料を獲得できるよう、外貌醜状と後遺障害の等級認定について詳しく解説していきます。

外貌醜状とは

外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)の外貌とは、肩から上の露出面である頭部・顔面部・頚部(首)を指し、外から見た外観のことを指します。外貌醜状は、これら日常的に露出する部分に醜状が残ってしまった状態です。交通事故では、症状固定後に首より上の日常的に人目に付く部分に目立つ傷痕が残ることを言います。

外貌醜状の後遺障害等級認定では、腕や手(上肢)や足(下肢)の部分は対象外ですが、上肢・下肢に傷痕が残る場合も被害者は大きな精神的苦痛を受けることから、外貌醜状と同様に「醜状障害(しゅうじょうしょうがい)」として後遺障害等級が定められています。

外貌醜状の後遺障害等級と認定基準

外貌醜状の後遺障害は、瘢痕(はんこん:皮膚面に残る傷痕)や組織陥没(そしきかんぼつ:体の組織に残るくぼみ)など、外貌に「醜状」が残った場合に認められます。また、外貌醜状については、交通事故で直接負った怪我だけではなく、手術や治療などの過程で生じた醜状も後遺障害の認定対象となります。

交通事故の後遺障害等級は、1級から14級までがあり、低い等級になるほど重い後遺障害となります。外貌醜状の後遺障害等級と認定基準は下記のようになります。

後遺障害等級 障害の内容 自賠責基準慰謝料 裁判所基準慰謝料
第7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの 419万円 1,000万円
第9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの 249万円 690万円
第12級14号 外貌に醜状を残すもの 94万円 290万円

※、自賠法施行令別表第2の後遺障害(自賠法施行令別表Ⅰ以外の後遺障害)に対する慰謝料です。後遺障害慰謝料を含め慰謝料の計算方法には自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判所基準)3つの基準があります。最低限の補償を確保する自賠責保険基準と過去の裁判例を基に適正価格を計算する弁護士基準(裁判所基準)では3倍以上もの差がつくケースもあります。なお、第7級12号の弁護士基準は1,000万円となり自賠責保険基準とは581万円もの差がつきます。

外貌醜状は傷痕の場所と大きさが判断要素となる

外貌醜状で認定される後遺障害等級は、傷痕の大きさや部位、傷の種類など障害の程度に応じた3等級が設定されています。外貌醜状の後遺障害は、原則として、「人目に付く程度以上の醜状」が残っていることが認定要件です。
また、等級ごとに複数の認定要件があり、いずれかの要件に該当する場合に認定されます。外貌醜状の後遺障害等級それぞれの認定要件は下記のようになります。

7級12号:外貌に著しい醜状を残すもの・・①頭部に残ったてのひら大(指の部分は除く)以上の瘢痕または頭蓋骨のてのひら大以上の欠損、②顔面部に残った鶏卵大面以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没、③頸部に残ったてのひら大以上の瘢痕
9級16号:外貌に相当程度の醜状を残すもの・・①顔面部に残った長さ5センチメートル以上の線状痕
12級14号:外貌に醜状を残すもの・・①頭部に残った鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損、②顔面部に残った10円硬貨大以上の瘢痕または長さ3センチメートル以上の線状痕、③頸部に残った鶏卵大面以上の瘢痕

現在では外貌醜状の後遺障害等級の男女区分が撤廃された

一昔前までは、同様の醜状でも男性と女性で認定等級が区分されていましたが、男女で違う基準を設けるのは憲法14条1項に違反しているとして、京都地裁平成22年5月27日判決により違憲と判断されています。

この裁判は、労災(労働者災害補償保険)に関する違憲判決ですが、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)の後遺障害等級の支払い基準は、原則として労災の基準に準ずることが定められています。この判決により、外貌醜状の後遺障害等級認定において男女差は廃止され、男女共通の等級認定に改正されています。

外貌醜状は逸失利益が認められないケースもある

逸失利益とは、交通事故の後遺障害が原因で労働能力を喪失しなければ失わなかったはずの利益・収入のことです。将来の休業損害が逸失利益と考えるとわかりやすいと思います。

原則として、交通事故で後遺障害が残ってしまった場合、自賠責保険の後遺障害等級表の「労働能力喪失率」を用いて逸失利益を算定します。具体的には、基礎収入(事故前の収入額)、労働能力喪失期間(後遺障害の残存見込み期間)、労働能力損失率によって計算されます。

ただし、逸失利益は後遺障害の影響等を勘案して決定します。外貌醜状の場合は、他の後遺障害と違い身体の機能が損なわれているわけではありませんので、労働能力は喪失していないものとして後遺障害等級表の労働能力喪失率通りに逸失利益を計算しないこともあります。場合によっては、仕事に与える影響は全くないとして逸失利益を認めないこともあります。

外貌醜状の慰謝料について

外貌醜状で後遺障害に認定されると、入通院慰謝料に加えて後遺障害慰謝料も請求できます。

どちらの慰謝料にも相場がありますが、保険会社が提示する金額は不当に低いことが多いので注意が必要です。

入通院慰謝料は入通院期間に応じて計算される

入通院慰謝料は、交通事故で怪我をしたことによって生じた精神的苦痛に対する賠償金です。

怪我の治療に要した入通院期間が長いほど、被害者の精神的苦痛も大きいと考えられるので、入通院慰謝料の金額は入通院期間に応じて計算されます。

外貌醜状で後遺障害が残る場合の入通院期間は6ヶ月以上を要するケースがほとんどであり、1年以上を要することも珍しくありません。

基本的に症状固定となるまでの入通院期間について慰謝料を請求できますが、自賠責基準と弁護士基準(裁判所基準)では、次のように、慰謝料額に大きな開きが生じます。

入通院期間 自賠責基準 弁護士基準
通院6ヶ月 51万6,000円 116万円
通院1年 73万9,600円 154万円

なお、自賠責基準では実際に入通院した日数に応じて慰謝料額が変わります。

この表では、当初の6ヶ月は3日に1回、その後の6ヶ月は週に1回のペースで通院したものとして慰謝料を計算しています。

後遺障害慰謝料は後遺障害等級に応じて定められている

後遺障害慰謝料は、交通事故による怪我で後遺障害が残ってしまったことで生じる精神的苦痛に対する賠償金です。

認定された後遺障害等級が重いほど被害者の精神的苦痛も大きいと考えられるので、後遺障害慰謝料の金額は後遺障害等級に応じて定められています。

外貌醜状で認定される可能性がある後遺障害等級と、各等級に認定された場合の慰謝料額は前項でも説明しましたが以下のとおりになります。

後遺障害等級 障害の内容 自賠責基準慰謝料 裁判所基準慰謝料
7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの 419万円 1,000万円
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの 249万円 690万円
12級14号 外貌に醜状を残すもの 94万円 290万円

慰謝料が増額されることもある

外貌醜状が仕事に与える影響は全くないとして逸失利益が認められない場合、裁判例では、その点を考慮して慰謝料が増額されるケースが少なくありません。

慰謝料の増額が認められるかどうか、認められるとしていくら増額されるかは、裁判所の裁量で判断されるため、明確な基準はありません。

傾向としては、被害者が若年であったり、人と接する仕事をしているような場合に増額されやすい傾向があります。増額される幅は、数十万円~数百万円程度が一般的です。

外貌醜状の慰謝料事例

民事交通事故訴訟における弁護士必携の資料に日弁連交通事故相談センター東京支部」が発行している「赤い本」というものがあります。

赤い本には後遺症慰謝料の等級ごとの事例が掲載されており、外貌醜状の慰謝料を調べる際には参考になります。

ここでは2022年版の赤い本に掲載された外貌醜状の7級から14級の慰謝料が認められたケースをご紹介しますので、参考になさって下さい。

7級の事例

顔面に4本の線状痕(7級)の被害者(女・固定時12歳)につき、逸失利益を労働能力喪失率25%として認めたうえで、後遺障害の内容・程度、女子の外貌醜状の場合は労働能力喪失が必ずしも逸失利益に反映されないこと等を考慮して、傷害分110万円、後遺障害分1350万円を認めた(事故日平9.5.22 大阪地判平11.12.21 自保ジ1335・2)

9級の事例

顔面醜状(9級16号)の会社員(男・固定時37歳)につき、外貌醜状について逸失利益を認めないことを考慮し900万円を認めた(事故日平24年.4.18 大阪地判平27.7.17 自保ジ1956・60)

12級の事例

顔面醜状(12級)、頭痛等(14級10号、併合12級)のクラブママ(事故時41歳)につき、外貌醜状について逸失利益を認めないこと、患部にガラス片が残存していること等から950万円を認めた(事故日昭62.1.23 東京地判平3.9.27 交民24.5.1156)

14級の事例

頭部外傷後遺症(14級10号)、左肩から胸部の醜状痕(14級相当、併合14級)のアルバイト(女・固定時23歳)につき、5年間喪失率5%で逸失利益を認めたうえで、20歳代の未婚女性であることを考慮して180万円を認めた(事故日平9.6.12 大阪地判平14.4.9 交民35・2・485)

外貌醜状の後遺障害等級認定は難しい

交通事故における後遺障害等級の認定手続きは「書類審査」が基本です。しかし、外貌醜状の後遺障害は「人目に付く程度の傷痕が残ること」が認定要件ですので、書類審査だけではなく、保険担当者が実際に傷痕の大きさを測定するなど他とは違った審査が必要になります。

また、外貌醜状の後遺障害認定は、以前まで後遺障害診断書の「醜状障害」の欄に、傷痕の大きさや形態等が記載されていましたが、その欄が小さく十分な記載が困難なケースがあり、詳細な別紙として添付するケースがありました。これが見直され、平成28年10月以降、外貌醜状(醜状障害)の後遺障害認定手続きでは、一般的な後遺障害診断書に加えて「交通事故受傷後の傷痕等に関する所見」という医師の診断書が必要となります。

交通事故と怪我の因果関係の立証責任は被害者にあります。受傷時の診断書や画像、後遺障害診断書など、交通事故と外貌醜状の因果関係を証明するための資料等を用意・提出する必要があります。

外貌醜状の後遺障害認定手続きには「面接」が必要

審査面接は損害保険料率算出機構の自賠責調査事務所が行います。基本的に、被害者が自賠責調査事務所に実際に出向き、審査担当者が面接をして認定の可否を判断します。

審査の内容は、担当者が実際に傷痕の大きさや形態等を確認しますが、面接を行うのはあくまでも人間です。面接担当者の知識や経験などを含む主観的な考えによって認定の可否を判断されてしまうことも多くありまです。そのため、外貌醜状の面接の際は、弁護士など法律の専門家に相談し、面接に同行してもらうことが得策です。

なお、後遺障害等級認定手続きを行う際の書類提出に傷痕が明確にわかる写真を添付することで面接なしで後遺障害等級が認定されることもあります。そのため、後遺障害等級申請の際、写真を添付するのも一つの手です

外貌醜状の示談交渉にはトラブルがつきもの

後遺障害の症状や程度、職業の内容、年齢、性別などから職業選択の幅が狭まるなど、労働能力に直接の影響を及ぼす要素や可能性がある場合には逸失利益が認められる傾向にあります。

また、著しい外貌醜状を残す場合には逸失利益を認めない代わりに後遺障害慰謝料を増額するなどの裁判例も増えています。ただし、裁判でも逸失利益が否定された事例もあり、保険会社との示談交渉では「逸失利益の有無や労働能力喪失率」が問題になるケースが多数あります

保険会社は、外貌醜状が仕事に与える影響は低いとして、後遺障害等級表に定められた労働能力喪失率で算定しなかったり、逸失利益自体を認めないこともあります。外貌醜状の逸失利益を獲得するためには、保険会社との示談交渉で案件に応じた適切な判断が必要になってきます。

外貌醜状の慰謝料請求や示談交渉を弁護士に依頼すべき理由

外貌醜状の後遺障害が残った場合、保険会社の言うことを鵜呑みにすると不当に低い金額で示談してしまう可能性が高いです。そのため、弁護士に慰謝料請求や示談交渉を依頼することをおすすめします。

加害者側の保険会社は慰謝料を任意保険基準で計算しますが、自賠責基準とほぼ同額か少し高い程度の金額を提示してくることがほとんどです。外貌醜状による逸失利益は認めないことが多く、その代わりに慰謝料の増額を提示することも、ほとんどありません。

その点、弁護士に依頼して示談交渉を代行してもらえば、保険会社も裁判を恐れて譲歩する姿勢を見せることが多いです。

具体的には、弁護士基準に近い慰謝料額での示談や、逸失利益を一部認めてもらうか、慰謝料を増額した形での示談成立が期待できます。

慰謝料で損をしないためには、保険会社の言いなりにならず、弁護士によるサポートを受けた方がよいでしょう。

まとめ

外貌醜状は慰謝料請求が難しい案件ですが、保険会社の交通事故被害者への対応は目に余るものがあります。最終的な賠償金額を正当なものにするため弁護士が介入することで、ようやくまともな金額が提示されるのが現状です。

もし、後遺障害認定が非該当となってしまった場合や保険会社から逸失利益が否定された場合でもすぐに諦めてはいけません。保険会社との交渉や裁判を行うことで後遺障害や逸失利益が認められるケースもあります。

後遺障害認定が受けられる可能性や逸失利益が認められる方法や可能性があるのかについて、一度弁護士に相談されることをお勧めします。交通事故の外貌醜状でお悩みなら弁護士法人オールイズワンにお気軽にご相談ください。