後遺症・症状の種類

交通事故で失明した場合の後遺障害等級と慰謝料について解説

交通事故で顔面や目に衝撃を受けると、視力や眼球の調節機能に支障をきたし、最悪の場合は失明するケースもあります。

眼球そのものが損傷しなくても、事故直後には目の痛みや腫れ、見えにくさなどを感じ、その後に症状が悪化して失明に至るケースもあるので、事故後は早急に医師の診察を受け、適切な治療を受けることが大切です。

失明してしまった場合は元に戻りませんので、後遺障害等級認定の申請をすることになりますが、何級の後遺障害に認定されるかによって慰謝料額は大きく異なります。

この記事では、交通事故による失明に関する基本的な知識や、後遺障害等級ごとの慰謝料相場、適正な後遺障害等級の認定を受けるためのポイントなどについて、詳しく解説します。

交通事故による失明とは

交通事故が原因で失明するケースは、決して少なくありません。まずは、失明に関する基本的なことを押さえておきましょう。

失明の定義

一般的に失明というと、「目が見えなくなった」ことを意味しますが、交通事故による後遺障害等級の認定対象となる「失明」とは、次の3つのどれかに該当するもののことをいいます。

  • 眼球を失った(摘出した)
  • 明暗を区別できない状態
  • ようやく明暗を区別できる状態

明暗を区別できるかどうかは、暗室にて被験者の眼前で照明を点滅させて明暗を認識できる程度の視力(光覚弁)があるか、被験者の眼前で手を上下左右に動かして動きの方向を認識できる視力(手動弁)があるか、によって判断されます。

交通事故で失明する原因

交通事故で目に強い衝撃を受けて眼球が損傷し、摘出せざるを得なくなった場合は、失明することになります。

眼球そのものに大きな損傷が生じなくても、顔面や頭部への衝撃によって網膜剥離や水晶体の損傷、あるいは視神経の損傷や圧迫などが生じると、視力や眼球の調節機能に支障をきたすことがあります。

これらのケースでは、事故直後に失明しなくても、痛みや腫れとともに、見えにくい、ぼやけるなどの症状が次第に悪化し、やがて失明に至ることもあるので注意が必要です。

失明の治療方法

網膜剥離や水晶体の損傷が生じた場合は、自然に治ることはありませんので、主にレーザー治療や手術療法などが必要です。

眼窩周辺の骨折によって視神経が圧迫されている場合も、手術によって骨を整復して圧迫を解消する必要があります。

視神経が損傷してしまった場合は、一度損傷した視神経の回復は難しいため、ステロイドなどの薬物療法により、できる限り視力の低下を抑制する保存的療法が中心となります。

交通事故による失明で認定される可能性がある後遺障害等級

交通事故による目の傷害で失明と診断された場合は、以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。

1級1号:両眼が失明

両眼ともに失明した場合は、後遺障害等級1級1号に認定されます。

「失明」の定義については、冒頭の解説をご参照ください。

2級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下

片眼が失明し、もう片方の眼の視力が0.02以下となった場合は、後遺障害等級2級1号に認定されます。

視力については、万国式試視力表を用い、メガネやコンタクトレンズを使用した矯正視力で判定されます。以下の解説でも同様です。

当然ですが、失明しなかった方の眼は交通事故が原因で視力が低下した場合にのみ、後遺障害等級認定の対象となります。この点についても、以下の解説でも同様です。

3級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下

片眼が失明し、もう片方の眼の視力が0.06以下となった場合は、後遺障害等級3級1号に認定されます。

5級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下

片眼が失明し、もう片方の眼の視力が0.1以下となった場合は、後遺障害等級5級1号に認定されます。

7級1号:1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下

片眼が失明し、もう片方の眼の視力が0.6以下となった場合は、後遺障害等級7級1号に認定されます。

8級1号:1眼が失明、または1眼の視力が0.02以下

片眼が失明したか、視力が0.02以下となった場合は、後遺障害等級8級1号に認定されます。

このように、失明したのが両眼か片眼か、片眼のみ失明した場合は他方の眼の視力が低下した度合いによって、認定される後遺障害等級が変わってきます。

交通事故による失明で請求できる慰謝料の相場

交通事故による失明で請求できる慰謝料は、治療期間に応じて算出される入通院慰謝料と、認定された後遺障害等級ごとに算出される後遺障害慰謝料とに、大きく分けられます。

ただし、どちらの慰謝料にも自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準という3種類の算定基準があり、どの基準を用いるかによって金額が異なってきます。

以上の点を踏まえて、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料のそれぞれについて、失明した場合に請求できる慰謝料の相場をご紹介します。

入通院慰謝料

入通院慰謝料の金額は、医療機関で治療やリハビリを受け、最終的に医師が症状固定と診断するまでの期間に応じて算出されます。症状固定とは、怪我による症状が「もうこれ以上は改善が見込めない」という状態に達したことを意味します。

交通事故で失明した場合の治療期間はケースバイケースですが、眼球を摘出したケースでは一般的に入院が数日〜1週間程度、治療終了までに数ヶ月かかることが多いです。

網膜剥離や水晶体の損傷、視神経の損傷・圧迫などのケースでは、手術などの外科的処置は短期間で終わることもありますが、その後に視力の改善や視力低下の抑制のためのリハビリを要します。そのため、後遺障害が残るケースでは、症状固定までに半年以上はかかるケースがほとんどです。

一例として、入通院期間別に慰謝料額の目安を掲げておきますので、参考になさってください。なお、通院期間中は3日に1回のペースで通院を継続したものとして計算しております。

入通院期間 自賠責基準 弁護士基準
1週間入院後、3ヶ月通院 31万8,200円 82万8,000円
6ヶ月通院 51万6,000円 116万円
9ヶ月通院 77万4,000円 139万円

任意保険基準による計算方法は非公開ですが、入通院慰謝料については、自賠責基準より少し高い程度の金額になることが多いです。

したがって、弁護士基準を用いて慰謝料を計算すれば、他の2つの基準によるよりも、大幅に高額となることがお分かりいただけるでしょう。

後遺障害慰謝料

失明して後遺障害等級に認定されると、入通院慰謝料とは別に後遺障害慰謝料も請求できます。

後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害等級ごとに目安が定められています。失明で該当する後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料の金額の目安は、以下のとおりです。

後遺障害等級 自賠責基準 弁護士基準
1級1号 1,150万円(1,100万円) 2,800万円
2級1号 998万円(958万円) 2,370万円
3級1号 861万円(829万円) 1,990万円
5級1号 618万円(599万円) 1,400万円
7級1号 419万円(409万円) 1,000万円
8級1号 331万円(324万円) 830万円

括弧内の金額は、2020年3月31日以前に発生した事故について適用されるものです。

任意保険基準では、後遺障害慰謝料については自賠責基準と同等の金額になることがほとんどです。

したがって、後遺障害慰謝料についても、弁護士基準を用いれば他の2つの基準よりも大幅に高額となります。交通事故で慰謝料を請求するなら、弁護士基準で慰謝料を計算することが重要です。

適正な後遺障害等級認定を受けるための注意点

交通事故で失明したケースの中でも、何級の後遺障害に認定されるかで慰謝料額が大きく異なることがお分かりいただけたことでしょう。

適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、以下のポイントに注意が必要です。

十分な治療とリハビリを受ける

まずは、医師が症状固定と診断するまで、十分な治療とリハビリを受けましょう。

眼球が残った場合は、適切な処置やリハビリによって視力が回復したり、そうでなくても視力低下を抑制できたりする可能性がありますので、医師が「もうこれ以上は治らない」と判断するまで根気よく治療・リハビリを続けることが大切です。

眼球の摘出手術を受けた場合でも、義眼を装用し、痛みや腫れが引けば治療終了というわけではありません。その後も、義眼の調整や社会復帰に向けた心理的サポートなども含めて、リハビリが必要となります。

早期に治療・リハビリを終了してしまった場合、入通院慰謝料の金額が本来より低くなるだけでなく、後遺障害等級認定の審査でも不利になる可能性があります。症状が固定していなければ、後遺障害等級の認定申請をしても「治療継続により改善の見込みあり」と判断されるなどして、適正な後遺障害等級に認定されないことがあるからです。

正確な検査を受ける

「失明」という診断を受けるためには、眼球を摘出した場合を除き、暗室での専門的な検査を受ける必要があります。

失明しなかった方の眼についても、視力を正確に測定することが必要不可欠です。

これらの検査結果は、医療機関側の技術によって左右される可能性もあります。そのため、専門性の高い眼科を受診することが重要となります。そうすること、治療やリハビリでも高い効果が期待できるでしょう。

後遺障害診断書の内容を確認する

医師が症状固定との診断を下したときは、後遺障害診断書が発行されます。後遺障害診断書には、最終的に残った症状や検査結果、今後における症状の見通しなどが記載されます。

後遺障害等級の認定審査は原則として書面のみで行われ、その中でも後遺障害診断書は最も基本的で重要な書類です。

後遺障害診断書に記載された症状のみが審査の対象になると同時に、不適切な内容が記載されている場合には、その内容も審査で考慮されます。

しかし、医師は後遺障害等級の認定申請のプロではないため、後遺障害診断書の記載内容が不足していたり、不適切であったりすることも少なくありません。そのため、後遺障害等級の認定申請をする前に、後遺障害診断書の記載内容を確認することが非常に重要です。

後遺障害診断書の記載内容が適切かどうかを判断するためには、専門的な知識を要しますので、弁護士に相談してチェックを受けることをおすすめします。

もし、記載内容が十分でない場合には、医師に修正や再発行を依頼すべきです。この医師とのやりとりについても、弁護士にサポートしてもらうことが可能です。

被害者請求や異議申し立てを検討する

後遺障害等級認定申請のやり方には、保険会社に任せる「事前認定」と、被害者自身が行う「被害者請求」という、2種類があります。

事前認定によれば、保険会社の担当者が必要最低限の書類しか収集してくれませんが、両眼を摘出したケースなど、失明したことが明確な場合は事前認定でも問題はないでしょう。

しかし、細かな検査結果が問題となるケースでは、被害者請求の方が有効な資料を自由に収集して提出できるため、有利な結果が得られやすくなる可能性があります。

いったん申請した後、認定結果に納得できない場合には、異議申し立てをして再審査を求めることができます。当初の申請を事前認定で行った場合も、異議申し立ては被害者請求で行うことが可能です。

被害者請求の手続きは複雑であり、多大な労力と専門的な知識を要しますので、弁護士に依頼して代行してもらった方がよいでしょう。

失明の後遺障害等級認定申請で弁護士のサポートを受けるメリット

ご自身やご家族が交通事故による眼の負傷で失明してしまったら、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。早めに弁護士のサポートを受けることによって得られるメリットは、以下のとおりです。

  • 治療やリハビリ、検査の正しい受け方についてアドバイスが受けられる
  • 保険会社から早期に治療終了を打診された場合は、治療継続について交渉してもらえる
  • 症状固定と診断されたときは、後遺障害診断書の記載内容を確認してもらえる
  • 後遺障害診断書の記載内容が不適切な場合は、医師に修正や再発行を依頼してもらえる
  • 後遺障害等級認定の申請をする際、事前認定と被害者請求のどちらがよいか判断してもらえる
  • 必要に応じて、被害者請求の手続きを代行してもらえる
  • 後遺障害等級の認定結果に納得できない場合は、異議申し立ての手続きを代行してもらえる
  • 保険会社との示談交渉では、弁護士基準で慰謝料を請求してもらえる
  • 逸失利益や休業損害など、慰謝料以外の賠償金も適正に請求してもらえる
  • 裁判も視野に入れて法的観点から交渉してもらうことで、高額の賠償金が期待できる

ご自身で対応する場合には、適正な後遺障害等級を獲得できないおそれがあるだけでなく、さらに保険会社から一方的に不利な示談案を押し付けられ、泣き寝入りすることにもなりかねません。

それに対して、弁護士のサポートを受ければ、治療やリハビリ、検査を適切に受けた上で後遺障害等級の認定申請から示談交渉までを任せることができる上に、最終的には納得のいく結果が期待できるのです。弁護士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。

まとめ

交通事故で失明してしまうと、視力は元に戻りませんので、精神的にも非常に大きなダメージを受けてしまうでしょう。

それだけに、せめて賠償金は適正な金額を受け取るべきです。そのためには、症状に応じた適正な後遺障害等級を獲得することが、まず重要となります。

交通事故に強い弁護士によるサポートを受けることで、被った損害に見合う高額の賠償金を受け取ることが期待できます。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故の被害者の味方として、特に後遺障害に強い法律事務所です。

失明をはじめとする眼の後遺障害に関する事案を解決に導いてきた実績も数多くありますので、眼を負傷して慰謝料が気になる方は、お気軽にご相談ください。

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