基礎知識

交通事故で労災保険を使う際の注意点|メリット・デメリットも併せて解説

交通事故と労災保険
住友麻優子

【監修】 弁護士 青木芳之
/弁護士法人オールイズワン浦和総合法律事務所

交通事故の損害賠償に注力する弁護士です。特に重大事故(高次脳機能障害、遷延性意識障害、脊髄損傷、死亡事故など)は実績豊富です。最大限効果がある解決策をご提案します。

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交通事故の被害に遭ってしまった場合、被害者はその損害を加害者又は加害者が加入する保険会社に請求することになります。ですが、その交通事故が業務中に起こったものであった場合、被害者は労災保険の使用を検討することもできます。

そこで、本記事では、労災保険を使用するにあたっての注意点等について解説いたします。

労災保険とは

労災保険は、正式名称を労働者災害補償保険といい、「通勤」を含む「業務上の事由」を要因として労働者が「負傷、疾病、障害」等を負い、又は「死亡」した場合に、必要な保険給付を行うことで、労働者を保護することを目的としています。

労災保険に加入するのは労働者を使用する事業主であり、「常勤、パート、アルバイト、派遣等の名称や雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇っている事業場」は加入義務があるとされています。

なお、労災保険は、雇用保険と併せた「労働保険」の総称で管理されるのが一般的です。

交通事故で労災保険を使う場合の注意点

交通事故で負った傷病等の治療に使用できる保険には、加害者が加入する「自賠責保険」や「任意保険」、被害者が加入する「健康保険」、そして、事業主が加入する「労災保険」があります。

実際に交通事故に遭遇してしまった際は、事故の状況(業務中か否か、過失割合がいか程か等)を考慮して、これらの保険の中から使用するものを選択することになります。

なお、業務中の交通事故については労災保険の対象であり、原則として健康保険は使用できません。

また、労災保険と自賠責保険(任意保険が一括対応する場合も含みます。)との関係では、どちらか一方から給付を受けることとなりますが、その選択は被害者が自由にできるものとされています。

労災保険は仕事中の交通事故なら全て使えるの?

仕事中に交通事故に遭った場合は、基本的に労災保険を使用することができます。ただし、労災保険法(正式名称:労働者災害補償保険法)の条件に該当するか、事前に確認しておく方が安心です。

労災保険が使えるケース

労災保険の適用範囲は労災保険法第7条で定められており、「業務上」又は「通勤」による負傷、疾病、障害又は死亡がその対象であるとされています。ただし、通勤については、次の「移動」について「合理的な経路及び方法」により行うことが条件とされています。

  • ① 住居と就業の場所との間の往復
  • ② 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動(例:取引先への移動)
  • ③ 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動

これらに逸脱する移動は、労災保険の給付対象となる通勤に含まれません。ただし、「日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度」の逸脱については給付対象に含まれます。具体的には、「日用品の購入その他これに準ずる行為」や「病院等で診察を受ける行為」等がこれに該当します。

労災保険が使えないケース

問題となりやすいのは「通勤」に含まれるか否かの判断です。労災保険法第7条を判断基準としますが、例えば「終業後の飲み会」や「趣味に関する買い物」のために通常ルートを逸脱した場合は保障の対象外となります。

労災保険の7つの保険給付

労災保険による保険給付は次の7種が定められています。

① 療養補償給付

自賠責保険でいうところの「治療関係費」です。具体的には、診察や手術等の治療費や薬剤の費用、入院時の看護費等が該当します。

② 休業補償給付

休業損害を補填する給付です。注意点としては、当該給付は休業初日から支給されるわけではないことです。労災保険法上、給付は「賃金を受けない日の第4日目」からとされており、その金額は給付基礎日額の60%です。

なお、後述のとおり、労災保険には「特別支給金」の制度があり、これにより別途20%の支給を受けることができます。

③ 障害補償給付

症状固定後、自賠責保険でいうところの「後遺障害」が残存し、それが障害等級に該当する場合、等級に応じて支給がなされます。

なお、自賠責保険の後遺障害保険金は全ての等級とも「一時金」ですが、労災保険では第1級から第7級に該当する場合には「年金」として支給されます。

④ 遺族補償給付

労働災害により亡くなった労働者の遺族に対して支給されます。給付金には年金と一時金の二種類があり、支給の対象者は配偶者、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。妻以外については、給付のルールが細かく定められているため、給付対象になり得るか、また、給付方法について、個別に確認する必要があります。

⑤ 葬祭料

労働災害で亡くなった労働者のための葬祭料も労災保険の費目です。「315,000円+給付基礎日額の30日分」と「給付基礎日額の60日分」の高額となる方が支給されます。

⑥ 傷病補償年金

労働災害による療養開始後1年6か月を経過した日以後も傷病等が残存し、当該傷病等が傷病等級表に該当する場合に支給されます。この等級表は、障害補償の等級表である「別表第一 障害等級表」とは別の「別表第二 傷害等級表」を指し、等級は第1級から第3級が定められています。

⑦ 介護補償給付

障害等級又は傷害等級における第1級の全て、又は第2級のうち「精神神経・胸腹部臓器の障害」を負った労働者が現に介護を受けている場合に支給されます。

条件は細かく定められており個別に確認が必要ですが、令和2年4月1日の改正法下では、常時介護で166,950円、随時介護で83,480円がそれぞれ上限とされています。

交通事故で労災保険を使うメリット・デメリットについて

労災保険を使うメリットとして「特別支給金」の制度が挙げられます。特別支給金は「社会復帰促進等事業」として制定されており、「休業補償給付」、「障害補償給付」、「遺族補償給付」、「傷害補償年金」について次のとおり給付を請求することができます。

  • 休業補償給付:休業4日目以降、1日につき給付基礎日額の20%
  • 障害補償給付:第1級342万円~第14級8万円の一時金
  • 遺族補償給付:300万円の一時金
  • 傷害補償年金:第1級114万円、第2級107万円、第3級100万円の一時金

なお、労災保険から給付された費目について、自賠責保険や任意保険から重ねて支払を受けることは原則としてできません。しかしながら、特別支給金は福祉目的で支給されるものであるため、支給調整の対象とはなりません。そのため、全体として得られる金額は、

特別支給金の金額分が純粋に増額します。

一方、労災保険使用のデメリットは、労災保険料の増額や事業主に対する行政処分等が考えられます。したがって、デメリットは主に事業主に対するものですが、被害者本人としては、事業主との関係悪化のようなリスクが想定されます。

労災保険を使うと慰謝料には影響がある?

労災保険の費目には慰謝料がありません。そのため、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料は自賠責保険会社や任意保険会社、場合によっては加害者本人に請求することになります。

この際、労災保険を使用して治療を受けていた場合に慰謝料の算定に影響はあるのか、ということは気になるところ思います。この点、結論としては影響ありません。労災保険を使っているか、又は自賠責保険・任意保険を使っているかは、治療費を支払う者の違いであって、治療内容や残存症状に影響するものではないためです。

したがって、自賠責保険や任意保険に請求する際には、治療期間や日数、治療内容、残存症状をしっかりと立証できれば問題ないということになります。

労災保険の手続き方法

労災保険を使う場合、提出する書式は労災保険専用のものを用います。そのため、病院に対して労災保険を使用して受診する旨をしっかりと伝えておかなければなりません。

また、当該書式には事業主の記名押印を要しますので、職場の担当部署とも意思疎通を図っておく必要があります。

なお、労災保険非指定医療機関を受診する場合は、労災保険からの直接の治療費支払を受けることはできません。そのため、この場合には窓口で一時的に全額を支払、事後的に労災保険に請求するという流れをとることになります。

労災保険を使う場合も弁護士に依頼するのが得策である

労災保険の手続は、その書式の多さ、細かさゆえに非常に煩雑です。そのため、初期の段階から弁護士に相談することも選択肢となります。

弁護士法人オールイズワンが労災手続をご依頼いただいた場合、労災保険を使用するメリット・デメリットや他の保険との関係も踏まえ、最適な流れをご提案、サポートさせていただきます。

まとめ

以上、本記事では交通事故で労災保険を使用する際の概要や注意点を解説いたしました。労災保険は制度内容や使用する書式が複雑であるため、使用を躊躇してしまいがちですが、他の保険と効果的に併用することにより、被害者の方のメリットとなり得ます。

弁護士法人オールイズワンは、交通事故事件の解決を主業務として長年取り組んでまいりました。その経験から、労災保険の使用に関して適切なアドバイスやサポートを提供することが可能です。交通事故における労災保険の使用でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。