高次脳機能障害とは?事故後にあらわれる症状と特徴


高次脳機能障害とは?事故後にあらわれる症状と特徴
交通事故で脳に外傷を受けると、高次脳機能の障害で社会生活に支障をきたすことがあります。
高次脳機能障害の症状は、損傷部位によって、言語障害(失語)、行動障害(失行)、記憶障害など、様々な症状が現れるようになります。
高次脳機能障害になると、若年層でも就労が困難になるケースが多いことや家族の精神的負担が大きいことから被害者には十分な補償がなされるべきです。
しかし、軽いびまん性脳損傷のように目に見える画像所見がなかったり、脳内出血が極軽微でその後消えてしまった場合、意識障害がない場合や、症状が極軽微な場合、脳損傷や障害の存在が目に見えにくく、妥当な後遺障害等級が認定されない場合があります。妥当な等級が認定されるためにも高次脳機能障害について理解しておきましょう。
この記事では、交通事故で高次脳機能障害である(またはその疑いがある)と診断された場合に、事故後に現れる症状と特徴、後遺障害等級について解説していきます。
高次脳機能障害とは
高次脳機能とは、知覚や記憶、思考、感情といった脳がつかさどる機能の総称です。高次脳機能障害は、主に交通事故で頭部に外傷を受けることにより上記の脳機能に障害を発症します。頭部の外傷は、脳挫傷や脳内出血など「局在性のもの」と、脳震盪や軸索損傷などの「びまん性のもの」に分類されます。
局在性のものは言語障害(失語)や行動障害(失行)が多く見られますが、びまん性脳損傷による高次脳機能障害は、脳全体に損傷がおよんでいる状態を指し、典型的な症状として認知障害や人格変化があります。高次脳機能障害は身体的な障害が重いことも多く、自立しての生活は困難な場合もあります。
また、交通事故における高次脳機能障害等級の認定要件は甘くないのが実情です。とくに事故直後の画像診断で明確な所見がない場合も多く、実際の症状に比べ、低い等級で認定されてしまい妥当な等級が認定されない方も少なくありません。
高次脳機能障害の主な症状
交通事故で脳を損傷し、高次脳機能障害を負ってしまうと、主に下記のような症状が出ることがあります。
記憶障害
事故後、新しいことを憶えられない、事故前のことが思い出せないという症状がある場合は記憶障害である可能性があります。記憶障害は、一定の記憶を部分的に覚えている軽度のものから、ほぼすべての記憶が失われる重度のものまで様々です。記憶障害は、主に次のように分類されています。
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- 「前向性健忘」
事故以前のことは覚えていますが発症時点以降の情報を覚えることができなくなります。発症後、昔のことは思い出せるけど新しく経験した出来事を記憶できなくなるのは近時記憶のエピソード記憶障害です。
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- 「逆行性健忘」
前向性健忘とは逆に、発症以降の記憶を失ってしまいます。発症前の数十年といった保持時間の長い記憶が思い出せなくなる遠隔記憶の障害です。特に、昔おこった出来事や体験的に習った記憶に強い障害が出ます。
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- 「全健忘」
前向性健忘と逆行性健忘の両方の障害があり記憶障害の中でも重度の障害です。最近の記憶だけではなく古い記憶や体感的に習得した技術など、ほぼ全ての記憶が喪失する障害です。
注意機能障害
事故後、「集中力がなくなった」などの症状がある場合は注意機能障害である可能性があります。
注意機能障害は下記4つの機能が障害された状態です。
- ・覚醒度
- ・持続力
- ・転導性
- ・転換性性注意力
主な症状
- ・同じことを長く続けることができない
- ・周りの人の会話を自分のこととして聞いてしまう
- ・探し物のとき、同じ場所ばかりを探してしまう
- ・周囲が気になり、自分のしていたことをやめてしまう
また、高次脳機能障害の中で「注意」は認知機能の根源ですので、高次脳機能障害の他の症状と併発することが多いです。そのため、事故後に注意機能障害が出たときは高次脳機能障害の疑いが出てきます。
遂行機能障害
遂行機能は物事を効率的に成し遂げるために必要な機能です。遂行機能障害は下記4つの機能が障害された状態です。
- ・目標設定
- ・計画立案
- ・計画実行
- ・効果的、効率的な行動
遂行機能障害は他の高次脳機能が保たれている場合でも、各機能をうまくコントロールできない状態です。遂行機能障害が発症すると、「急な変化に対応できない」「スムーズな作業ができない」などといった物事を遂行する機能に障害が発生します。
社会的行動障害
対人関係が苦手になり、「周りの空気を読めない」ことなどにより社会に適応していけない状態になることです。社会的行動障害の主な症状は下記のようなものがあります。
主な症状
- ・怒りや笑いの感情コントロールができなくなる
- ・退行性変化により子供っぽくなりすぐ人を頼る
- ・欲求をコントロールできなくなる
- ・人間関係が下手になりコミュニケーション能力が低下する
- ・同じことを何度も言ったりやったりする
- ・行動を起こす意欲がなくなり物事をすぐやめてしまう
- ・窃盗やセクハラなど反社会的行動をとる
高次脳機能障害と診断された場合は必ず専門の医療機関でリハビリを受けること
病院で高次脳機能障害と診断されたら、必ず専門の医療機関を受診することをおすすめします。
適切なリハビリテーションを受けることで、復帰後の生活をスムーズにしたり、後遺障害等級認定においても有利に進めることが可能になります。
高次脳機能障害の各症状に対するリハビリテーションは、医師や言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、臨床心理士等の専門家によるリハビリテーションをはじめ、学習教材やゲーム、特定の作業の反復、グループ訓練など様々な方法で訓練します。
目まい、頭重感、集中力低下、深部腱反射の左右差等、脳神経損傷に基づく症状には他覚的所見(医師が客観的観察により確認できる身体的異常を示すもので、症状の裏付けとなる医学的根拠)が必要です。専門性の高い医療機関を受診することで症状の見落としを予防することができます。
ただし、頭部外傷を扱っている脳神経外科は多くありますが、高次脳機能障害に詳しい専門医のいる病院は限定されています。
たとえ高次脳機能の回復により身体的に自立できる状態になった場合でも、何の準備もなしに社会生活に復帰した場合、記憶力や情動等の問題により周囲の人と摩擦が生じることがあります。
早期社会復帰に向けた準備のためにも、適切な治療や後遺障害の認定のためにも、できる限り高次脳機能障害に専門性を持つ医療機関を選択するようにしましょう。
高次脳機能障害と後遺障害等級(金額)
高次脳機能障害と一口にいってもその症状は様々です。障害の程度により後遺障害等級は、1級・2級・3級・5級・7級・9級に分けられます。
また、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は、最低限の賠償基準である「自賠責基準」と裁判で用いられる基準を適用する「弁護士基準」では保険金額に大きな差が出ます。
つまり、慰謝料を増額させるためには、「上位の等級認定」と「弁護士基準」による解決が重要になります。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 保険金額 (自賠責基準) |
保険金額 (裁判所基準・弁護士基準) |
---|---|---|---|
1級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,600万円 | 2,800万円 |
2級1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1,163万円 | 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 829万円 | 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 599万円 | 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 409万円 | 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 245万円 | 690万円 |
後遺障害等級の認定基準
交通事故案件の後遺障害等級を認定する自賠責保険では、脳外傷による高次脳機能障害と認定されれば、症状に応じた後遺障害等級のいずれかに該当するものとして取り扱われます。
ただし、高次脳機能障害は交通事故の外傷が原因で発症することが7割以上とされていますが、交通事故以外でも、脳血管障害や脳炎、脳腫瘍、低酸素脳症などで発症する場合もあります。そのため、自賠責保険では交通事故が原因で高次脳機能障害が発症したことを認定するため、主に下記のような要件で交通事故と症状との因果関係の有無を確認します。
なお、自賠責保険では、後遺障害等級認定において高次脳機能障害の認定システムを導入しています。
-
- ・急性期の意識障害の程度と期間
意識障害はJCS(ジャバン・コーマ・スケール)やGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)などにより意識レベルを評価
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- ・家族や介護者による認知障害や記憶障害等の確認
日常生活で家族や介護者、周囲の人が気付く程度の認知障害や記憶障害があるかの確認
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- ・画像所見
外傷性クモ膜下出血等の異常所見、急性期における点状出血、また、びまん性軸索損傷では慢性期にかけて局所的な脳萎縮とくに脳室拡大の進行が認められること
高次脳機能障害の適正な賠償金獲得は医療に強い弁護士に相談することが重要
高次脳機能障害は、ご本人・ご家族の皆様も大変苦しいにも関わらず、賠償金が適正に支払われていないケースが多い障害です。
高次脳機能障害の賠償金を適正に獲得するには、脳神経外科医との連携が重要です。医師が把握できない被害者の症状を正しく伝えて診断書に書いてもらう必要があります。そのため、相談する弁護士は脳外傷についての豊富な知識と医師へのサポートができなければなりません。
弁護士法人オールイズワンは、交通事故事案の経験が豊富であり、数多くの高次脳機能障害を扱っております。また、脳神経外科の方との連携も実現しており、高次脳機能障害に強みを持っている法律事務所です。
ご相談は無料ですので、賠償金に関することだけではなく、ご家族の方で、日々の介護や生活に関するお悩み相談でも構いませんので、お気軽にご相談下さい。
まとめ
高次脳機能障害は日常生活に大きな支障をもたらす症状ですが、後遺障害等級認定では「見過ごされやすい障害」です。妥当な等級が認定される方がいる一方で、事故後の適切な対応を怠ったために妥当な等級が認定されない方が多いのが実情です。
適切な高次脳機能障害の後遺障害等級認定には、多くの交通事故案件に携わってきた高次脳機能障害に強い弁護士に依頼することが必須です。弁護士に依頼した場合、一般的な自賠責保険基準の倍以上の慰謝料が獲得できる可能性があります。
弁護士法人オールイズワンは、医療機関や等級認定のサポート、保険会社との示談交渉まで対応いたしますのでご相談ください。