交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺障害と慰謝料・等級認定について
交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺障害と慰謝料・等級認定について
頭蓋骨は、顔の構成を支え、また、脳を保護するための重要な骨です。脳は勿論のこと、顔面部には眼、耳、鼻、口等の複雑な機能を有する器官が位置しているため、交通事故で頭蓋骨を骨折してしまうと重い後遺症が残る恐れがあります。
そのため、後遺障害等級としても高い等級が認定される可能性があり、その際は慰謝料も高額になる傾向にあります。ただし、頭蓋骨骨折に付随する後遺症については、後遺障害に関する知識と正しい慰謝料請求の方法を理解しておかないと、慰謝料額に大きな差が出ることがあります。
この記事では、交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺障害と慰謝料・等級認定について解説していきます。
頭蓋骨骨折の主な分類
頭蓋骨は、頭部の骨格の総称で14種・22個(その他、3種の骨で形成される耳小骨が内側に存在します。また、舌骨という骨が関係しています。)の骨で構成されています。頭蓋骨骨折とは、脳を囲む頭蓋骨が折れることです。頭蓋骨骨折は、骨折する部位により大きく分けて「頭蓋円蓋部骨折」と「頭蓋底骨折」に分けられます。
頭蓋骨骨折には多くの病名があり、それぞれ症状や治療法は異なります。
頭蓋円蓋部骨折
頭蓋円蓋部骨折は、前頭骨・側頭骨・頭頂骨・後頭骨から成り立つ頭蓋円蓋部が骨折した状態を指します。頭蓋骨は、側頭骨は薄く後頭骨は厚いという特徴があり、側頭骨の骨折では「線状骨折(頭蓋骨線状骨折)」を起こしやすくなります。
また、骨形成が未熟な新生児や乳児の場合は骨折線拡大を生じる進行性骨折を起こすこともあります。頭蓋円蓋部骨折には、他にも、ピンポン球を押しつぶしたような「陥没骨折(頭蓋骨陥没骨折)」、骨折片が細かく離脱する「粉砕骨折(頭蓋骨粉砕骨折)」といった頭蓋骨の中でも円蓋部に限られた骨折があります。
頭蓋底骨折
頭蓋底骨折は、脳を支える頭蓋骨の中心部であり顔面・頭部の最深部位である頭蓋底を骨折した状態を指します。頭蓋底は、前頭蓋窩・中頭蓋窩・後頭蓋窩から成り立ち、小脳テント(硬膜)や中心部の脳神経・血管が通る複雑な構造です。
頭蓋底骨折の分類は、骨折部位により「前頭蓋底骨折」、「中頭蓋底骨折」、「後頭蓋底骨折」があります。頭蓋底骨折の注意点は、耳や鼻の穴から髄液(脳脊髄液)が漏れることがあり、髄膜炎や気脳症を伴うことがあります。また、脳神経を損傷すると脳神経麻痺が起こる恐れがあります。
頭蓋骨骨折の症状と後遺症
交通事故で頭蓋骨骨折を負ってしまったときは、脳や神経を損傷してしまうリスクがあります。脳は、行動や思考など生命維持に重要な司令塔としての役割があり、神経は様々な情報を脳と体の間で伝達する役割があります。
どちらも人間が生きていくうえで中心的な役割を担っており、損傷することで重篤な症状を呈することがありますが、骨折(損傷)位置や程度によって症状の現れ方は異なります。主な病状・症状は次のようなものがあります。
脳挫傷(外傷性脳内血腫等)
脳挫傷とは、強い外力により脳に挫傷・浮腫が生じた病状です。挫傷が小さく脳へのダメージがわずかであればすぐに症状が出ないこともありますが、重症の場合は、血腫による脳の圧迫で事故後すぐに激しい頭痛や嘔吐、意識障害が発生します。
【交通事故による脳挫傷の主な症状】
・頭痛 ・嘔吐 ・意識障害 ・半身麻痺(片麻痺) ・感覚障害 ・言語障害 ・痙攣発作 ・視覚障害 ・記憶障害
慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後の慢性期(事故後1~2ヵ月後)に脳を覆う硬膜と脳との間に血腫が溜まる病状です。
一般的に、慢性硬膜下血腫の症状の特徴は、事故後すぐには症状が出ず、数週間程度の無症状期を経た後、頭蓋内圧亢進症状として頭痛や嘔吐が現れます。その他にも、体の手足など片側の麻痺、言葉がうまく話せない、意欲の低下など様々な症状が現れます。
【交通事故の慢性硬膜下血腫の主な症状】
・頭痛 ・嘔吐 ・半身麻痺 ・痺れ ・痙攣発作 ・失語症 ・精神障害 ・認知症 ・失禁
外傷性くも膜下出血
外傷性くも膜下出血とは、強い外力により頭蓋骨と脳脊髄を包む硬膜の内側にあるくも膜と脳の間に出血が起こる病状です。
一般的に、「くも膜下出血」とは、脳動脈瘤の破裂が原因でくも膜下に出血したものを指しますが、交通事故など外傷が原因で引き起こされた場合は外傷性くも膜下出血といいます。
外傷性くも膜下出血の症状は、外傷後すぐに頭痛や嘔吐、意識障害が現れます。また、外傷性くも膜下出血も脳挫傷同様に他の病状と合併することがあります。
【外傷性くも膜下出血の主な症状」
・頭痛 ・嘔吐 ・意識障害 ・半身麻痺 ・感覚障害 ・言語障害 ・痙攣発作 ・視覚障害 ・記憶障害
急性硬膜下血腫
急性硬膜下血腫とは、脳と脊髄を覆う層の一番外側にある硬膜の内側(脳の表面)に出血が起こる病状です。急性硬膜下血腫は、外傷直後から硬膜の直下に血液が溜まり、血腫によって脳が圧迫されます。
急性硬膜下血腫は大脳の表面に発生することが一般的ですが、ごく稀に大脳半球の間や後頭蓋窩に発生することもあります。急性硬膜下血腫の症状は、出血が急速に拡大(急性出血)し、事故後すぐに頭痛や嘔吐、意識障害が現れることが多いです。
【急性硬膜下血腫の主な症状】
・頭痛 ・嘔吐 ・意識障害 ・半身麻痺 ・感覚障害 ・言語障害 ・痙攣発作 ・視覚障害 ・記憶障害
急性硬膜外血腫
急性硬膜外血腫とは、硬膜の表面にある動脈が切れることで頭蓋骨と硬膜の間に出血が発生する病状です。外力と反対側に出血することが多い反衝損傷である急性硬膜下血腫に対して、急性硬膜外血腫は外力と同じ側に出血するケースが多く見られます。
急性硬膜外血腫の症状は急性硬膜下血腫と同様に、事故直後から頭痛や嘔吐、意識障害が現れることが一般的ですが、受傷直後は意識がしっかりしていて、後になって徐々に意識障害が現れることもありますので注意が必要です。
交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺障害の等級と慰謝料について
交通事故における頭蓋骨骨折により脳を損傷し、治療を続けたにもかかわらず回復が見込めず、将来的に後遺症が残ってしまう場合は、自賠責保険における後遺障害等級表に応じた等級が認定されます。
また、頭蓋骨は顔を構成する器官でもあるため、頭蓋骨骨折に伴い眼、耳、鼻、口等に関する後遺症を呈する可能性があります。さらに、顔面や頭部に酷い傷を残す場合も後遺障害として認められることがあるため併せて精査が必要です。
後遺障害等級の慰謝料基準は「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3種類あります。一般に、最低限の基準である自賠責保険基準が最も低い慰謝料となり、任意保険基準は自賠責保険基準をベースにした基準を設けています。
これに対し、裁判で用いられる基準を適用する弁護士基準は、裁判所基準とも呼ばれており、どの基準を用いて後遺障害慰謝料を計算するのかによって保険金額に大きな差が出ます。
下記に、後遺障害の各等級の認定基準と慰謝料について解説します。
* なお、後遺障害に関する損害には慰謝料のほかに「逸失利益」があります。逸失利益は、被害者の方の交通事故受傷前における基礎収入をベースに、後遺障害を負ったことでどれだけ労働能力が落ちたか(労働能力喪失率)、及び、今後何年間に亘り労働能力が低下した状態が続くか(労働能力喪失期間)を掛け合わせることで算出されます。
高次脳機能障害
高次脳機能障害と一口にいっても、一人では何もできず介護が必要になるケースや一定期間の適切なリハビリを経て障害は残しながらも社会復帰できるケースまで、その症状は様々です。
そのため、後遺障害等級は障害の程度により、1級・2級・3級・5級・7級・9級と広く設定されています。※下記は認定要件となります。また、等級が同じであれば慰謝料の金額は同じです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 保険金額(自賠責基準) | 保険金額(裁判所基準・弁護士基準) |
---|---|---|---|
1級1号(別表1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,600万円 | 2,800万円 |
2級1号(別表1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1,163万円 | 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 829万円 | 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 599万円 | 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 409万円 | 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 245万円 | 690万円 |
高次脳機能障害の慰謝料相場とは?算出基準から慰謝料の増額事例まで解説
麻痺
麻痺は、手足や顔など体をうまく動かせない状態のことを指します。通常は、前頭葉から脊髄や手足の末梢神経に命令を送りますが、頭蓋骨骨折を伴う脳外傷により神経経路に異常が発生することによって麻痺が起こります。
麻痺は、高次脳機能障害と同様に「神経症状」に関する後遺障害等級が認定されることになります。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 保険金額(自賠責基準) | 保険金額(裁判所基準・弁護士基準) |
---|---|---|---|
1級1号(別表1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,600万円 | 2,800万円 |
2級1号(別表1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1,163万円 | 2,370万円 |
3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 829万円 | 1,990万円 |
5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 599万円 | 1,400万円 |
7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 409万円 | 1,000万円 |
9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 245万円 | 690万円 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | 93万 | 290万円 |
視覚・聴覚・嗅覚・味覚の障害
前頭骨、頬骨、篩骨、蝶形骨、涙骨、上顎骨及び口蓋骨は、眼球を収める窪み(眼窩)を形成し、その中には視神経等、視力に関係する神経が走っています。また、耳小骨は聴覚に関係しています。さらには嗅神経や味覚に関する神経も頭蓋骨の中を走っています。このように頭蓋骨の中には視覚・聴覚・嗅覚・味覚といった複雑な機能を支える神経が存在し、頭蓋骨骨折を負うとこれらの神経を圧迫又は損傷してしまう可能性があり、その結果、視覚・聴覚・嗅覚・味覚に後遺症を呈する場合があります。
眼、耳、鼻、口に関する後遺障害は、その機能の複雑さ故に多岐にわたります。後遺障害等級は1~14級が用意されています。
・1級:自賠責基準・1100万円(別表2)、弁護士基準・2800万円
・2級:自賠責基準・958万円(別表2)、弁護士基準・2370万円
・4級:自賠責基準・712万円、弁護士基準・1670万円
・6級:自賠責基準・498万円、弁護士基準・1180万円
・8級:自賠責基準・324万円、弁護士基準・830万円
・10級:自賠責基準・187万円、弁護士基準・550万円
・12級:自賠責基準・93万円、弁護士基準・290万円
・13級:自賠責基準・57万円、弁護士基準・180万円
・14級:自賠責基準・32万円、弁護士基準・110万円
頭蓋骨骨折・頭部外傷による醜状障害
外貌障害は、瘢痕や組織陥没など、外貌に「醜状」が残った場合に認められます。また、外貌醜状の後遺障害は、手術や治療などの過程で生じた醜状も後遺障害の認定対象となります。
外貌醜状の後遺障害等級は7級・9級・12級に分けられます。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 | 保険金額(自賠責基準) | 保険金額(裁判所基準・弁護士基準) |
---|---|---|---|
第7級12号 | 外貌に著しい醜状を残すもの | 409万円 | 1,000万円 |
第9級16号 | 外貌に相当程度の醜状を残すもの | 245万円 | 690万円 |
第12級14号 | 外貌に醜状を残すもの | 93万円 | 290万円 |
まとめ
今回は、交通事故における頭蓋骨骨折に付随する後遺症と慰謝料・等級認定について解説しました。交通事故の中でも、頭蓋骨骨折を負うと後遺症が残るケースが多く、慰謝料が高額となる傾向にあります。
ただし、弁護士に依頼しないと弁護士基準が採用される可能性は極めて低くなります。さらに、複数の後遺障害が認められる場合、複数の後遺障害が併合され慰謝料を大幅に増額できるケースが多いです。
例えば、視覚障害と醜状障害が認められた場合、併合により認定等級よりも上位の等級が認定されることになります。災難にも交通事故で頭蓋骨骨折を負っててしまった場合、適正な慰謝料を獲得するためにも、自ら保険会社と交渉せずに、まずは弁護士に相談するようにしてください。
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