高次脳機能障害の等級認定基準と等級取得で重要なこと
高次脳機能障害の等級認定基準と等級取得で重要なこと
高次脳機能障害は、障害の存在が目に見えにくいことなどから後遺障害等級認定において多くの問題を抱えています。高次脳機能障害が発症すると就労が困難になるケースが多いことや今後被害者を支援していく家族の精神的負担が大きいことなどから、被害者には適切な補償がなされるべきです。
この記事では、交通事故の高次脳機能障害の等級について、「高次脳機能障害で適切な等級が認定されるためのポイント」と「高次脳機能障害の後遺障害等級と目安となる症状」を詳しく解説していきます。
高次脳機能障害の適切な等級が認定されるためのポイント
高次脳機能障害なのかそうでないのかは、頭部CT、頭部MRI等の画像所見や受傷後の意識障害の程度、外傷後健忘の期間などから判断されます。
高次脳機能障害の適切な等級が認定されるためには下記の要件が重要です。
画像所見
高次脳機能障害を引き起こす脳損傷は、局在性脳損傷とびまん性脳損傷に分けられます。局在性脳損傷は、画像検査で脳挫傷や外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫がみられるためCTで病変が認められることが多いです。
高次脳機能障害の画像所見は通常、急性期のCTやMRIで十分です。しかし、びまん性脳損傷の場合等はCTで異常が見つからないため、MRIによる経時的な脳室や脳溝拡大、脳萎縮により証明します。また、CTやMRIの他にもSPECTやPET等によって病変を判定することもあります。
高次脳機能障害の認定の条件は、画像により脳に出血・脳細胞の挫滅又は脳室拡大・脳萎縮が認められることです。注意が必要なのは、脳室拡大・脳萎縮は約3ヶ月で完成するため、事故後数年が経過した後に確認された脳室拡大は頭部外傷のびまん性軸索損傷とは無関係とされてしまいます。そのため、高次脳機能障害の疑いがある場合はいち早く行動する必要があります。
日常生活状況報告書
高次脳機能障害の認定手続きでは、医師の意見だけではなく被害者の近くにいる人の意見も重要とされています。
日常生活状況報告書は、日常的に被害者と接している家族や近親者、介護者などが被害者の日常生活を監視し該当箇所にチェックを入れたり詳細を記入したりします。
上手く認定されるポイントは、日常生活状況報告書に脳外傷による障害の存在が示されていることです。他にも、本人が作成した日記、事故前と事故後の被害者の様子をよく知る友人や上司などに日常の様子を文書にまとめてもらうことも有効です。
神経心理学的検査
神経心理学的検査は、高次脳機能障害の認知障害、記憶障害、人格変化、注意機能障害、遂行機能障害等の症状を客観的に測るための検査です。様々な神経心理学的検査がありますが、交通事故の高次脳機能障害では下記の検査が一般的です。
<軽度意識障害の検査>
- 見当識チェック
- Digit Span
- Serial7
<知能テスト>
- 長谷川式簡易痴呆スケール改訂版(HDS-R)
- MMSE
- WAIS-Ⅲ(ウェクスラー成人知能検査)
- WISC-Ⅳ(児童向けウェクスラー式知能検査)
- コース立方体組み合わせテスト
- RCPM(レーヴン色彩マトリックス検査)
<言語機能のテスト>
- 標準失語症検査(SLTA)
- WAB失語症検査
<記憶検査>
- WMS-R(日本版ウェクスラー記憶検査)
- Benton視覚記銘検査
- 日本版リバーミード行動記憶検査
- 三宅式記銘検査
<遂行機能検査>
- WCST(ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト)
- FAB
- TMT
- BADS
<注意障害>
- PASAT
- Trail Making Test
- 仮名拾い検査
高次脳機能障害の神経心理学検査とは?検査の種類とタイミングについて
後遺障害診断書
等級認定のためには、後遺障害診断書が大切ですが、そこには、脳外傷を受けたこと、意識障害の程度、関連性のある障害があることなどが記載されているかどうかが重要です。特に、「神経系統の障害に関する医学的意見」の各項目は簡単に書かれてしまうケースが多いですが、その書き方が適切でないことが原因で後遺障害等級が非該当となるケースもあります。また、症状の程度が正確に伝わらないと認定等級が低い場合もあります。
記憶障害、注意機能障害、遂行機能障害、社会的行動障害など特微的な症状を症状ごとに整理して後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
担当医師には、なるべく具体性を持たせた内容を記入していただけるようお願いしましょう。
高次脳機能障害の等級が検討される症状
高次脳機能障害とは、事故で頭部に外傷を受けることにより発症します。頭部外傷は、脳挫傷や脳内出血等の局在性のものと脳震盪や軸索損傷等のびまん性のものに分類されます。
自賠責保険では、次の5条件のうち一つでも該当するものがある場合は、関係者に照会を行い高次脳機能障害が問題となるかどうかを確認しています。
- 1.初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、または健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた場合
- 2 .経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている場合
- 3.経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる場合、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている場合
- 4.頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される場合
- 5.その他、脳外傷による高次脳機能障害の症状が疑われる場合
高次脳機能障害で認定される等級と症状の目安
高次脳機能障害といってもその症状は様々です。一緒に生活していても障害があるのかどうかわかりにくいという程度の人もいれば、一人では生活できず、常に看視が必要という重い症状を抱える人もいます。
高次脳機能障害の症状の違いによって、後遺障害別等級表(自賠責保険)の「神経系統の機能又は精神の障害」として第1級、第2級、第3級、第5級、第7級、第9級のいずれかに分類されることとなります。
常に介護が必要な第1級と随時介護が必要な第2級を除き、各等級ごとに次のような目安があります。
「第9級(一般就労を維持できるが、効率や持続力に問題がある状態)」
病名:脳挫傷、急性硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、頭蓋骨陥没骨折、頭蓋底骨折、頭蓋骨骨折、左側頭骨骨折、外傷性クモ膜下出血
主な症状:
- ・仕事の覚えが悪くなった。
- ・記憶力が低下し物忘れが多くなった。
- ・簡単な失敗が多くなった。
- ・物事に慎重になった。
- ・車を運転していても速度が遅く、流れに乗れないが気にならない。
- ・人付き合いが苦手になった。
- ・イライラするようになった。
- ・時々ふらつくようになった。
- ・間違いに気がつかなくなった。
- ・言葉が出ないことがある。
- ・大人しくなった。
- ・就職できてもすぐやめてしまう。
「第7級(一般就労を維持できるが、ミスが多く一般人と同等の作業はできない状態)」
病名:外傷性くも膜下出血、頬骨骨折、外傷性脳出血、右大腿骨骨折、頭蓋骨骨折、左急性硬膜下血腫、左側頭葉挫傷
主な症状:
- ・職場で人間関係が上手くいかない。
- ・再就後、同じ問題で退職することになった。
- ・人の悪口を平気で言う。
- ・場違いな発言や行動で混乱させる。
- ・目的地に行けない。
- ・計画を立てられない。
- ・いつも上の空。
- ・些細なことでクレームをいう。
- ・話題があちこちに飛んで会話にならない。
- ・要領が悪くなった。
- ・同時に別の作業ができない。
- ・忘れ物が多くなった。
- ・買い物に行くときに財布を忘れる。
- ・だらしなくなった。
「第5級(単純繰り返し作業であれば就労可能だが、新しい作業を学習できない状態)」
病名:頭部外傷、脳挫傷、急性硬膜下血腫
主な症状:
- ・決まった店への買い物以外は外出しなくなった。
- ・計画の立案や実行ができなくなった。
- ・身だしなみが無関心になった。
- ・衣類が左右バラバラでも直そうとしない。
- ・掃除ができなくなった。
- ・どこにも勤まらずすぐに退職する。
- ・単純なことも一つ一つ説明しないとできない。
- ・いくつかの作業が重なると対応できない。
- ・家では怒りっぽく、家族に怒鳴ることがある。
- ・同じことを何度もしつこく繰り返す。
- ・人の気持ちを理解できなくなった。
「第3級(自宅周辺なら一人で外出でき、声かけがなくとも日常の動作を行なえるが、認知障害等が著しく就労は困難な状態)」
病名:頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血
主な症状:
- ・怒りっぽく、家族に怒鳴り散らすことがある。
- ・外で人と会うのを避けるようになった。
- ・外出はせず、ほとんど家にいる。
- ・子供っぽくなった。
- ・動作が遅くなった。
- ・自転車に乗れなくなった。
- ・事故前は活発な生活だったが、事故後は意欲がなくなった。
- ・近所に買い物に行くが、お金を払えない、品物を選べない等のことから看視が必要。
- ・近所の道でも間違えて家に帰れないことがある。
- ・感情の起伏が激しく大声で怒鳴ったり、泣き叫ぶことがある。
- ・会話の内容がちぐはぐで、すぐに別の話題に代わり、会話が成立しない。
- ・人格が変わってしまった。
まとめ
今回は、高次脳機能障害で適切な等級が認定されるためのポイントについて解説しました。高次脳機能障害は被害者だけではなく、ご家族の方にとっても非常に負担の大きい病気です。
実際には、就労が難しいような被害者であっても後遺障害9級、場合によっては12級にしか認定されないケースが多数ありますが、高次脳機能障害の症状を的確に立証することで等級アップにより賠償額を倍増できる可能性があります。
適切な等級を獲得して、精神的・肉体的負担を少しでも軽減し、ゆとりある生活を手に入れましょう。