高齢者の高次脳機能障害認定の注意点|認知症、せん妄に間違えられた場合
高齢者の高次脳機能障害は認定されにくい?
高齢者の高次脳機能障害は、その症状が認知症やせん妄と類似するため、家族であっても見過ごしてしまうことがよくあります。
また、医師であっても、その見分けは容易ではなく、時には誤診してしまうこともあり得ます。このような実情があるため、加害者側の立場である保険会社は、高齢者の高次脳機能障害については「それは年齢的に認知症ではないか?」と否定的な見方をし、交通事故との相当因果関係を否定しようとするケースが見受けられます。
そこで、以下に認知症及びせん妄についての基礎知識と、それを踏まえた注意点、対処法を解説します。
認知症の症状と特徴|高次脳機能障害との違い
認知症は、何らかの原因によって脳が破壊されることで、記憶障害を中心とした様々な障害を呈する状態をいいます。
認知症は、早ければ未成年で発症する可能性もありますが、多くは高齢者に見られます。内閣府の発表では、2012年の時点で65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症有病者であるとされており、それが2025年には5人に1人となると予想されています。
認知症はいくつかの型に分類されますが、「アルツハイマー型認知症」、「レビー小体型認知症」、「血管性認知症」のいずれかに該当するケースが多数です。アルツハイマー型認知症は、老人斑や神経原繊維変化が多く見られるのが特徴で、海馬を中心に脳が死滅します。脳萎縮が確認できるのも特徴です。
レビー小体型認知症は、レビー小体というたんぱく質の塊が脳神経細胞を傷付け、結果として脳が死滅します。そして、血管性認知症は、脳梗塞や脳出血に起因し、脳の一部が壊死します。
認知症の初期症状は主に健忘です。「つい先ほどのことが思い出せない」という記銘力障
害から始まり、その後徐々に進行し、重篤な認知障害、失語、失行、失認等の症状を呈していきます。
特に血管性認知症と高次脳機能障害は、脳損傷を原因とするため、類似する部分が多くあります。一方、決定的な違いは、認知症が「徐々に進行する」病気であるのに対して、高次脳機能障害は基本的に「進行しない」という点です。
せん妄の症状と特徴|高次脳機能障害との違い
せん妄は、病名ではなく、意識障害と注意力低下を中心とした異常精神状態の呼称です。
せん妄のメカニズムは完全には解明されていません。
しかしながら、脱水、睡眠不足の状態、痛みやストレスを抱える状態、又は薬物を使用している際に多く確認されており、したがって、身体が弱った際に発症し易いものと考えられています。そのため、特に入院期間中は多くの高齢者がせん妄を発症しています。
このような発生原因から、弱った身体を改善させることで治癒に至る可能性があります。
せん妄の特徴は「注意を払えない」、「集中できない」ことで、これにより新しい情報の処理が困難となり、身の回りで起こっている事態を理解できないという見当識障害を呈します。
自分が誰であるかもわからなくなると、徘徊することがあります。また、泣いたり怒鳴ったりといった興奮状態を呈したり、幻覚を見ることもあります。高齢者の場合、逆に物静か、又は内向的になることもあり、この場合は発見が遅れてしまうことがあります。
高次脳機能障害と比較した場合、注意障害や社会的行動障害を呈する点で類似します。一方、相違点としては、せん妄が「数時間から数日ごとに症状が変化」する点です。一般的に日中より夜間の方がせん妄の症状が悪化することが多く、そのため、徘徊の多くは夜間に見られます。
高齢者が高次脳機能障害になった場合の問題
高次脳機能障害を負ってしまった場合、意欲が低下し外出をしなくなる、行動量が落ちるといった社会的行動障害を呈することが多くあります。また、記憶障害や遂行機能障害等により、健常時のように頭が働かず、それにより行動量が減ってしまうこともあります。
特に高齢者の場合、行動量が低下すると、それに伴い身体機能が著しく低下してしまうことがあり、結果、複合的な理由で介護や介助が必要になってしまうケースがあります。かかるケースでは、介護リフォームや、更に重篤な場合には介護施設への入所を検討しなければならない事態が想定されます。
また、記憶障害と社会的行動障害がともに重度の場合、激しい易怒性を呈し、理不尽な言動で家族に対して強く当たってしまうことがあり、そのような場合は家族の方が疲弊してしまいます。
交通事故等の第三者行為により高次脳機能障害を負ってしまった場合は、以上のような事態に備え、しっかりとした賠償請求を行わなければなりません。
高齢者が等級認定を受けるための注意点と対処法
高次脳機能障害は「基本的に進行性でない」、認知症は「進行性」、せん妄は「数時間から数日ごとに症状が変化」するという特徴がありますので、ご家族にはこの点を注意深く見ていただく必要があります。
また、この点で判断がつかなくとも、受傷直後の意識障害、CTやMRI等の画像上における異常所見、そして人格変化・知能低下が存すれば、後遺障害等級に該当する可能性がありますので、まずは高次脳機能障害に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
その上で、専門医の診断を受け、後遺障害の等級申請、そして、その後の損害賠償請求に備えることが重要です。