基礎知識

交通事故の治療費は誰が払うのか?被害者の立て替えや自己負担についての注意点

住友麻優子

【監修】 弁護士 青木芳之
/弁護士法人オールイズワン浦和総合法律事務所

交通事故の損害賠償に注力する弁護士です。特に重大事故(高次脳機能障害、遷延性意識障害、脊髄損傷、死亡事故など)は実績豊富です。最大限効果がある解決策をご提案します。

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交通事故で怪我をしたときに必要となる治療費の支払いは、原則として加害者が負担すべきものです。

ただし、場合によっては、被害者が病院の窓口でいったん立て替えて支払わなければならないケースもあります。また、そのまま被害者の自己負担となってしまうケースもあるので注意が必要です。

この記事では、交通事故の治療費は誰が支払うべきかという問題をわかりやすく解説し、被害者による立て替え払いや自己負担が必要となるケースについてもご説明します。

病院から治療費を請求されたときの対処法や、立て替え払いが難しいときの対処法もご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。

交通事故の治療費は誰が払うもの?

病院で怪我や病気の治療を受けた場合には、通常は患者自身がその都度、病院の窓口で治療費を支払うことになります。

しかし、交通事故で被害を受けた立場なのに治療費を支払うことには納得できないでしょう。そこで、交通事故の治療費は誰が病院に支払うことになるのかをご説明します。

基本的には加害者が支払う

交通事故の治療費は、加害者の過失による不法行為によって被害者に生じた損害の一部です。加害者は被害者に生じた損害を賠償する義務を負うため、治療費は加害者が支払うというのが基本です。

ただし、加害者が損害賠償金を支払うのは、原則として示談が成立した後になります。なぜなら、加害者と被害者が合意しない限り、加害者が賠償すべき金額が確定しないからです。

そのため、交通事故の治療費は被害者が病院の窓口で立て替えて支払い、治療終了後に示談をして加害者から回収するというのが原則的な流れとなります。

一般的には加害者側の任意保険会社が支払う

被害者が治療費の立て替え払いをすると、一時的にではあっても経済的に負担がかかります。金額によっては立て替え払いが難しいこともあるでしょう。

これでは被害者にとって負担が大きくなるため、一般的には加害者側の任意保険会社が治療費を病院へ直接支払うことになります。そのため、多くのケースで被害者は治療費を立て替え払いする必要はありません。

正確に言うと、交通事故の損害賠償金は、加害者側の自賠責保険会社が負担する部分と任意保険会社が負担すべき部分とに分かれています。自賠責保険会社が負担する部分は、被害者の治療がすべて終了するまで支払われません。

しかし、任意保険会社は被害者救済の見地から、先に治療費を全額支払い、示談成立後に自賠責保険会社が負担すべき部分を回収するという対応をとることが多いのです。この対応のことを「任意一括対応」といいます。

被害者が立て替え払いをすることもある

任意一括対応は法律で定められた制度ではなく、各保険会社がサービスとして実施しているものです。

保険会社が任意一括対応をしない場合には、原則どおり、被害者が治療費を立て替えて支払わなければなりません。次のケースでは、任意一括対応がなされないことに注意しましょう。

  • 加害者が任意保険に加入していない
  • 加害者が任意保険に加入していても、示談代行サービスを利用しない
  • 被害者の過失割合が大きい(4割を超える場合は要注意)
  • 任意保険の適用条件を満たさない

任意保険の適用条件を満たさないケースとしては、加害者が飲酒運転や無免許運転をして事故を起こしたり、故意に事故を起こしたりした場合が典型例として挙げられます。

加害者が家族の任意保険を使おうとしたところ、年齢条件を満たさないために使えないということもあります。

交通事故で賠償される治療費の内訳

交通事故で加害者やその任意保険会社に請求できる「治療費」には、様々な項目が含まれます。

基本的には病院へ支払う費用はすべて賠償金として請求できますが、一部は請求できないものもあり得ます。

その点については、次章の「交通事故の治療費が自己負担となるケース」で解説します。病院へ支払う費用の他にも治療に関連するものとして請求できる項目がありますので、以下で解説します。

治療費

怪我の治療そのものに要した費用は、必要かつ相当なものである限り、実費全額が賠償されます。具体的な項目としては、主に次のようなものが挙げられます。

  • 診察料
  • 検査料
  • 処置料
  • 入院費用(大部屋の料金)
  • 手術費用
  • 装具、器具の購入費

簡単にいうと、怪我の内容や程度からみて、通常の治療を受けた場合に病院へ支払う費用はすべて賠償の対象になると考えて差し支えありません。

付添看護費

入通院に際して付添人による看護が必要な場合は、付添看護費も賠償の対象となります。請求できる金額の目安は、以下のとおりです。

  • 職業付添人(看護師や介護福祉士など)に依頼した場合は実費全額
  • 近親者が入院に付き添った場合は1日につき6,500円(裁判所の基準)
  • 近親者が通院に付き添った場合は1日につき3,300円(裁判所の基準)

ただし、付添看護費の請求が認められるのは、怪我の症状が重い場合や、被害者が幼児や高齢者などで付添を要する場合に限られることに注意しましょう。

入院雑費

入院中は、日用品の購入や家族・職場などとの連絡に要する通信費などの費用がかかります。これらの費用は、入院雑費として請求できます。

入院雑費の金額は一律で定められており、裁判所の基準では1日につき1,500円です。

通院交通費

通院のために要する交通費も、治療に関連する費用として請求できます。ただし、原則として電車やバスなど公共交通機関の料金のみが支払われることに注意が必要です。

症状の内容や程度、被害者の年齢的な問題により公共交通機関の利用が難しい場合は、タクシーの利用が認められることもあります。

自家用車で通院した場合は、ガソリン代相当額が賠償されます。付添看護を要した場合は、付添人の交通費も被害者本人の損害として賠償請求できます。

文書料

保険金を請求するためには、交通事故証明書や診断書を取得する必要があります。

これらの文書の取得にかかる費用は治療に必要というわけではありませんが、怪我と因果関係のある損害として賠償請求できます。

交通事故証明書の発行手数料は800円、診断書の発行手数料は病院によって異なりますが、3,000円~7,000円程度のことが多いです。いずれも、実費全額が賠償されます。

交通事故の治療費が自己負担となるケース

以下のケースでは、交通事故の治療費が被害者の自己負担となってしまうので注意しましょう。

事故と怪我の因果関係が認められない場合

交通事故の損害賠償の対象となるのは、事故と因果関係がある損害に限られます。

したがって、事故と怪我との間に因果関係が認められない場合は治療費の請求が認められず、自己負担となってしまいます。

事故と怪我の因果関係が疑われやすいケースとして、むちうちが挙げられます。むちうちになっても事故直後には痛みを感じず、病院に行かない人も少なくありません。

後日、異変を感じて病院に行ったとしても、事故から初診までの期間が空いてしまうと、保険会社から因果関係を疑われやすくなります。

交通事故で身体に衝撃を受けたら、できる限り当日または翌日には医師の診察を受けておくことが望ましいです。

その他にも、事故前から頚椎ヘルニアなどの持病が合った場合、事故後にむちうちの症状が出たとしても、保険会社から「事故とは無関係」と主張されてしまうことがあります。

過剰診療や高額診療を受けた場合

治療費の請求が認められる場合でも、症状の内容や程度からみて必要かつ相当な範囲を超える費用の請求は認められません。

そのため、必要な程度を越えて治療を受けた場合(過剰診療)や、一般的に相当と認められる範囲を超える高額の治療を受けた場合(高額診療)などでは、保険会社に治療費の支払いを拒否されることがあります。

むちうちで3日に1回の通院で十分なのに毎日通院したり(過剰診療)、保存的治療で完治が見込めるのに手術を受けたり(高額診療)すると、治療費の一部が自己負担となる可能性があるので注意しましょう。

個室に入院した場合

入院費用も治療費の一部として請求できますが、原則として大部屋の料金に限られます。

ただし、以下の事情がある場合には、個室など特別室の使用料を請求できます。

  • 医師が個室への入院を指示した
  • 症状が重篤であるため個室での治療や看護が必要だった
  • 個室しか空室がなかった

これらの事情がないのに個室に入院すると、個室の利用料が自己負担となる可能性が高くなります。

医師の許可なく整骨院等に通院した場合

損害賠償の対象となる治療費は、原則として医師による治療にかかった費用に限られます。

整骨院や接骨院、鍼灸院などで施術を受けた場合、その費用は怪我の治療のために有効かつ相当と医師が認めたものに限り、損害賠償の対象となります。

したがって、医師の許可なく整骨院等に通院した場合には、その費用が自己負担となってしまうおそれがあるので注意しましょう。

被害者の過失割合が大きい場合

交通事故において被害者にも過失がある場合は、過失割合に応じて被害者も治療費を自己負担しなければなりません。

例えば、治療費に100万円がかかったとして、被害者にも2割の過失があったとすれば、治療費の2割に相当する20万円が自己負担となります。

この場合でも任意一括対応がなされる場合には、保険会社が治療費全額を病院に支払います。その後、示談の際に治療費の自己負担分は慰謝料など他の賠償項目から差し引かれます。

被害者の過失割合が大きいほど、治療費を自己負担すべき割合も高くなります。一般的に被害者の過失割合が4割を超えると、保険会社が任意一括対応を拒否する可能性が高いことにも注意が必要です。

治療費の自己負担額が大きい場合には、示談の際に他の賠償項目から差し引ききれず、保険会社が賠償金を払いすぎる結果となる可能性が出てくるからです。

病院から治療費を請求されたときの対処法

交通事故の治療費を加害者が支払うべきというのは、あくまでも被害者と加害者との間の問題に過ぎません。

病院には関係のない問題なので、病院は患者である被害者に対して治療費を請求してくることもあります。

被害者が病院から治療費を請求されたときは、以下のように対処していきましょう。

任意保険が適用される場合は病院と交渉する

まずは病院の窓口で、交通事故で怪我したことを伝えて、治療費の支払いを待ってもらうように交渉してみましょう。

保険会社が任意一括対応をする場合、通常は病院もそれに応じて保険会社から治療費が支払われるまで待ってくれます。

ただし、事故直後の入通院治療では、保険会社が通院の事実を把握していなかったり、把握していても任意一括対応の手続きが間に合っていないことがあります。

保険会社からスムーズに治療費を支払ってもらうためには、どこの病院にかかったのかを報告することも大切です。

できる限り、事故直後の段階で、どこの病院に行くのかを伝えた方がよいでしょう。

立て替え払いが必要な場合は健康保険を使用する

保険会社が任意一括対応をしない場合など、治療費の立て替え払いが必要なときは健康保険を使用して立て替え額を抑えることをおすすめします。

交通事故による怪我の治療にも健康保険は使えます。ただし、その場合はご自身が加入している健康保険団体(健康保険組合や共済など)に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。

第三者行為による傷病届の書式は、健康保険団体に連絡すれば送付してもらえます。ホームページからダウンロードできる場合もあります。書き方が分からない場合も、健康保険団体に問い合わせてみるとよいでしょう。

立て替え額を低く抑えることができれば、被害者にも過失がある場合に他の賠償項目から差し引かれる治療費の自己負担額も軽減されます。

自賠責保険には傷害に関する賠償金に120万円の上限がありますが、治療費を低く抑えることで慰謝料や休業損害などの受取額が増えることもあります。

健康保険を使用するメリットは大きいので、病院で治療費の支払いが必要な場合にはぜひ、健康保険を使うようにしましょう。

交通事故の治療費はいつまでもらえる?

怪我の内容や程度によっては、治療期間が長引くこともあります。ここでは、交通事故の治療費はいつまでもらえるのかについてご説明します。

原則として治癒または症状固定まで

交通事故の治療費は、原則として怪我治癒または症状固定と診断されたときまでの分を請求できます。

症状固定とは、怪我の症状の変化が乏しくなり、それ以上は治療を続けても改善が見込めないと認められる状態のことです。

症状固定後の損害は後遺障害に関する賠償の対象となるので、その後に治療を受けたとしても、その治療費は原則として事故とは因果関係がないため、自己負担となります。

症状固定後も治療費をもらえるケース

ただし、症状固定時の状態を維持するために症状固定後も治療費の支出が確実に予測される場合は、症状固定後の治療費を賠償してもらえることもあります。

具体的には、次のようなケースでは症状固定後の治療費の請求が認められる可能性が高いです。

  • 植物状態となり、将来にわたって保存的治療が必要な場合
  • 義手や義足、義歯などを定期的に交換やメンテナンスの必要がある場合
  • 再手術が予定されている場合
  • 症状の悪化を防止するためのリハビリが必要な場合

一般的に症状固定後の治療費を請求できるケースは少ないので、治療を継続したい場合は弁護士にご相談の上、アドバイスを受けてみた方がよいでしょう。

保険会社から治療費の打ち切りを打診されたときの対処法

保険会社が任意一括対応をしている場合でも、治療開始から一定の期間が経過すると、治療費の打ち切りを打診されることがよくあります。

むちうちのケースでは、治療期間がおおむね6ヶ月を過ぎると「そろそろ治ってると考えられるので、治療を終了してはどうでしょうか」と言って、治療費の支払いを打ち切ろうとしてくるのです。

そんなときは、以下のように対処していきましょう。

治療の継続について交渉する

まずは、治療費の支払いを継続してもらえるように保険会社と交渉することです。

そのためには、先に主治医に相談しましょう。治癒や症状固定の時期は、保険会社ではなく医師が判断すべきものです。

治療継続の必要性があると主治医が判断した場合には、その旨を保険会社へ伝えてください。そうすれば、保険会社が医療照会などの手続きで主治医の見解を聴いた上で、治療費の支払いを継続してくれる可能性があります。

保険会社が強引に打ち切ろうとする場合でも、弁護士に依頼して保険会社と交渉してもらえば、治療費の支払いが継続されることが少なくありません。

治療費を立て替えて治療を継続する

保険会社に治療費の支払いを打ち切られてしまった場合には、治療費を立て替えて治療を継続するのもひとつの方法です。

打ち切り後も治療の必要性と相当性があったことを診断書などで証明できれば、立て替えて支払った治療費を後で保険会社に請求できます。

特に、後遺障害が残りそうな場合には、この方法で治療を継続した方がよいことが多いです。

なぜなら、主治医が症状固定と判断する前に治療をやめてしまうと、まだ治療継続により症状改善の見込みがあるなどの理由で、後遺障害に認定されなくなるおそれがあるからです。

治療費を立て替えて治療を継続する場合は、健康保険に切り替えて窓口での支払い額を抑えるようにしましょう。

治療費の立て替え払いが難しい場合に使える3つの制度

治療費の立て替え払いが必要な場合、健康保険を使用しても支払いが厳しいこともあるでしょう。そんなときは、以下の3つの制度の利用を検討してみましょう。

自賠責保険の仮渡金制度

自賠責保険の仮渡金制度とは、交通事故の被害者が必要とする当座の出費を賄うために保険金が支払われる制度のことです。

怪我の程度に応じて5万円、20万円、または40万円という定額の仮渡金を受け取ることができます。

仮渡金は怪我の治療中でも申請すれば受け取れるので、当座の治療費に充てることが可能です。

仮渡金の申請先は、加害者側の自賠責保険会社です。まずは問い合わせてみて、書式を送付してもらいましょう。

自賠責保険への被害者請求

加害者側の自賠責保険会社へ被害者請求をすれば、示談成立前でも一定の保険金を受け取ることができます。被害者請求とは、自賠責保険金の支払いを被害者自身が行う手続きのことです。

任意一括対応がなされている場合は、任意保険会社が示談成立後に被害者に対して賠償金を一括して支払い、その後に自賠責保険会社が負担すべき部分を回収するのが通常の流れです。

しかし、自賠責保険会社が負担すべき部分は示談成立前でも請求可能であり、その請求手続きを被害者自身が行うのが被害者請求です。

ただし、自賠責保険金には限度額があり、傷害については120万円が上限とされています。

治療費の他に、慰謝料や休業損害なども含めた総額が120万円を超える場合、超えた部分は任意保険会社に請求して示談交渉をすることになります。

被害者請求ができるのは治療終了後ですが、早めにある程度の金額を受け取りたい場合は検討してみるとよいでしょう。

人身傷害保険

被害者自身が人身傷害保険に加入している場合は、その保険会社に請求することで治療費を支払ってもらうことができます。この場合、加害者側の保険会社による任意一括対応の場合と同様に、保険会社から病院へ直接、治療費を支払ってくれます。

人身傷害保険のみを使った場合はノンフリート等級には影響がなく、翌年以降の保険料が上がることはありませんので、積極的に使うとよいでしょう。

ご家族が契約している人身傷害保険を利用できる場合もあるので、ご確認の上、人身傷害保険を使用することをおすすめします。

交通事故による治療費の請求は弁護士への相談がおすすめ

交通事故による治療費の問題で困ったら、弁護士に相談することを強くおすすめします。

相談するだけでも気が楽になることもあるでしょう。ご自身で対応できないことは、弁護士に依頼して任せることも可能です。

弁護士に相談・依頼することで得られるメリットは以下のとおりです。

  • 様々な手続きを一任できるので治療に専念できる
  • 治療費の自己負担を回避するためのアドバイスが得られる
  • 保険会社からの治療費打ち切りの打診に対応してもらえる
  • 被害者請求の手続きを代行してもらえる
  • 保険会社との示談交渉を任せることができる
  • 治療費だけでなく慰謝料など他の賠償金も適切に請求、交渉してもらえる

まとめ

交通事故の治療費は加害者負担が原則ですが、保険会社は支払い額を抑えようとして、様々な主張をしてくることが少なくありません。保険会社の言うことを鵜呑みにすると、治療費や慰謝料などの賠償金で損をする可能性があるので注意しましょう。

保険会社の対応に疑問を感じたときは、一人で抱え込まず弁護士にご相談ください。弁護士法人オールイズワンは交通事故を専門に取り扱う法律事務所です。

治療費についてのアドバイスから保険会社への対応、さらには適切な賠償金を獲得するように交渉サポートいたします。交通事故でお悩みならお気軽にご相談ください。