交通事故のむち打ちで後から痛みがでたときの対処法
交通事故のむち打ちで後から痛みがでたときの対処法
スポーツの試合で、骨折等の大怪我を負ったプレーヤーがそのまま出場し続け、活躍するシーンを見たことはありますでしょうか。この際、プレーヤー自身はそれ程の痛みを感じていないことがあります。
このメカニズムについては後ほど触れていきますが、非日常的な事態に直面して、心身が興奮することが関係しているという考え方があります。
さて、交通事故においてもこれと同様のことが散見されます。特に、追突事故でむち打ちを負った方は、突然の出来事に心身が興奮状態に陥り、直後の事故処理の際には痛みを感じず、帰宅後や睡眠を経た後、精神状態が安定した際に初めて痛みに気付くということが起こり得ます。
しかしながら、交通事故の賠償の観点からは、このことは不利な要素となってしまいます。
そこで、本記事では、むち打ちによる痛みが後から出るメカニズムや、賠償請求の観点から適切な対応について解説いたします。
むち打ちは、なぜ後から痛みが出ることがあるのか
むち打ち症は、追突事故等の外力により、重たい頭部を支える首が鞭のようにしなることで負荷がかかり、それにより生じる諸症状の通称です。診断書では「頚椎捻挫」や「外傷性頚部症候群」等の傷病名が付されます。
一般的に、外傷は受傷直後が最も重篤であり、その後徐々に緩解していくものと考えられており、交通事故における後遺障害の審査を行う損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所も基本的には同様の見解に基づき判断を下します。
しかしながら、実際には、交通事故に遭った直後には痛みを感じず、時間をおいて症状が発現するケースは珍しくありません。
このメカニズムには諸説ありますが、一つにはアドレナリンの関与が考えられます。アドレナリンは副腎髄質で分泌されるホルモンで、体内に大量分泌されると痛覚を麻痺させる性質があります。アドレナリンが分泌されるのは交感神経が興奮状態にあるときで、交通事故という非日常のトラブルはその引き金となり得ます。
むち打ちで後からよく出る痛みや症状
交通事故に遭ってからある程度の時間が経過し、又は睡眠を経ることで心身の興奮状態が治まると、むち打ち症の諸症状が顕在化することがあります。
前述のアドレナリンに関係すると考えた場合、交感神経が落ち着きを取り戻すと頚部痛等の痛みを自覚しやすくなります。また、交感神経の過剰興奮が自律神経のバランスを崩してしまい、結果として頭痛や吐き気、めまい等バレ・リュー症候群の諸症状を引き起こすことも考えられます。
各症状が顕在化するまでの時間には個人差があり、当初は気のせいかなと思ってしまう程度しか症状を自覚できないことも珍しくありません。そのため、各症状が少しでも感じられた場合には、むち打ち症の発症を疑う必要があります。
後からむち打ち症状がでたときに対処すべきこと
交通事故において適正な賠償金を得るためには、受傷直後の対応が何よりも重要となります。以下、ポイントとなる事項を説明します。
できるだけ早く病院で診察を受ける
交通事故における賠償金の各費目は、いずれも事故との相当因果関係を有していることが支払の条件となります。治療費や入通院慰謝料、後遺障害部分の損害については、相当因果関係の有無の判断根拠として「事故受傷直後に医療機関を受診しているか」に重きが置かれています。
保険会社が認める医療機関は基本的に病院であり、整骨院等を含みません。後遺障害の審査においても同様です。受傷直後における医師の診断及びX-P等の画像撮影は、最初期の重要事項です。そのため、むち打ち症の諸症状については、まずは整形外科を受診することをお勧めします。
そして、診察時には僅かながら感じている症状も含めて、漏れのないように自覚症状を伝える必要があります。これにより、後に正確な診断書を得ることができます。
なお、頭部へのダメージが疑われる場合は、整形外科とは別に脳神経外科を受診し、頭部のCTやMRIの撮影を受けておくと安心です。
警察に届け出をおこない物損事故から人身事故に切り替える
交通事故が発生し警察官による実況見分が行われた後には「交通事故証明書」という書類が作成されます。この書類は、交通事故の発生を証明する書類ですが、この時点では「物損事故」として処理されています。「人身事故」として処理されるためには、警察に診断書を提出しなければなりません。
症状が軽度であった、又は加害者に懇願された等の理由により、当初は物損事故として処理していた場合でも、可能な限り人身事故に切り替えるべきです。事故発生後、警察がいつまで切り替えに応じるかは管轄警察署によって差がありますが、それでもまずは切り替えを試みてみましょう。
保険会社から人身事故に係る損害費目の支払を受けるためには、原則として「人身事故」として処理された交通事故証明書が必要となります。
どうしても切り替えができない場合は「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を添付することで代替することが可能ですが、特に後遺障害の審査においては、物損事故として処理されている交通事故証明書は、障害程度を軽んじられる一因となってしまう可能性がないとは言えません。
保険会社にむち打ちの症状が出たことを伝える
交通事故に遭ってしまったら保険会社への連絡も必要となります。加害者側の保険会社は、被害者の過失割合が小さい場合、通常は「一括対応」により被害者の治療費を直接医療機関に支払います。これにより、被害者が窓口で治療費を一度立て替える必要がなくなります。加害者が連絡を拒む場合でも、必ず連絡が必要です。
また、被害者自身が加入する保険会社への連絡が必要な場合もあります。例えば、弁護士費用特約を使用する場合、自身の過失割合が大きく人身傷害保険を使用する場合、搭乗者傷害保険を使用する場合等が想定されます。
むち打ちだった場合の損害費目はどうなる?
事故直後、軽傷だと判断し、結局通院治療をしなかった場合、加害者側から支払われる賠償費目は車両の修理費等のみです。一方、むち打ち症の諸症状が発症し医療機関に通院した場合、請求額は大きく変わります。
例えば、治療費や通院交通費等の実費のほか、通院のために仕事を休めば休業損害が、通院を継続した場合にはその日数・期間に応じて入通院慰謝料が、更に後遺障害が残存した場合には逸失利益と後遺障害慰謝料が、それぞれ請求可能となります。
交通事故における賠償金は、その大部分を人身損害に係る各費目が占めることになります。そのため、むち打ち症が発症した場合は、人身損害も含め、しっかりとした賠償を受けるための準備をしなければなりません。
しばらく経ってから痛みやむち打ち症状がでたら弁護士に相談を
以上のとおり、交通事故における初期対応には多くの検討事項が存在します。そのため、後々の事態悪化を防ぐため弁護士に依頼するのも選択肢の一つです。
むち打ち症は、首の痛みをはじめ、手のしびれ、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り、背中の痛み、腰の痛み、足のしびれ等様々な症状を含む傷病です。また、うつ病等精神疾患の併発にも繋がる可能性があります。
そのため、被害者の方では、どこまでが交通事故に起因する症状なのか、判断に迷ってしまうケースもあり得ます。交通事故に強い弁護士であれば、むち打ち症の諸症状についての解説が可能です。また、警察対応や医療機関受診のアドバイスをしっかりと行うことができます。
まとめ
むち打ち症は目に見えない症状のため、被害者自身も「気のせいかな?」と思ってしまうことがあります。しかしながら、後になって日常生活に大きな支障をきたすことは珍しくありませんので、本記事を参考に初期対応を検討していただければ嬉しく思います。
なお、弁護士法人オールイズワンでは、むち打ち症を負った被害者の方を数多くサポートしてまいりました。その経験から、医師への症状の伝え方や検査の依頼の仕方等、良好なコミュニケーションを図るためのアドバイスを差し上げることが可能です。
また、むち打ち症の辛い症状に隠れて、実は頭部にも事故による負荷が掛かっており、高次脳機能障害等の重度障害を併発していることもあり得ます。この様なケースも含め、総合的にサポートいたします。むち打ち症に係る諸問題でお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談ください。