未成年者(子供)の高次脳機能障害の特徴と症状固定の注意点

子供の高次脳機能障害の判断が難しい理由

子供が交通事故により高次脳機能障害を負ってしまった場合、因果関係が争点となることが多々あります。

例えば、被害者が乳幼児や児童の場合、脳機能の低下が「成長速度の個人差」や「潜在的な能力差」によるものなのか高次脳機能障害によるものなのか、その判断に難儀します。

また、中高生の場合、いわゆる「反抗期」による学習意欲の低下、易怒性等との区別も難しいところです。さらに、子供は「自身の症状・病態を適切に周囲の人に伝えることができない」場合があり、この点も高次脳機能障害の発見や判断を困難としている一因です。

子供の高次脳機能障害について適切な等級認定を受けるためには、その特徴や類似する症例を理解することが重要です。そこで以下に、子供の高次脳機能障害の特徴、類似点の多い発達障害の特徴、そして、子供の高次脳機能障害に関する等級申請上の注意点について解説します。

子供の高次脳機能障害の特徴とチェック項目

【記憶障害】
学校生活では、「新しいことを覚えられないことにより成績が低下する」、「友人との約束や掃除等の当番を失念する」等の支障があり得ます。また、家庭においては、「食事の後、その献立を忘れてしまう」、「同内容の会話を繰り返す」、「お遣いで買うべき物を記憶できない」等が想定されます。

【注意障害】
「授業に集中できず落ち着いていられない」、「試験や作業でケアレスミスが多くなる」等が考えられます。この点については、健常な成長過程における落ち着きのなさ等との区別が難しい部分です。そのため、事故受傷前と比べた「変化」に焦点を当てることが重要です。

【遂行機能障害】
「部屋の片付けができない」、「授業の準備ができない」、「理科の実験等、手順に従った作業ができない」等、計画的に物事を進めることが困難となり、取り掛かれず混乱してしまうことがあり得ます。

【社会的行動障害】
「怒り易い」、「怒鳴る、暴力を振るう」等の易怒性や、逆に「何もせず部屋に籠っている」等、無気力・無関心が顕著になることがあり得ます。また、年齢的に通常であれば恥ずかしいと感じるような「過度の甘え」等も考えられます。特に思春期の場合、「反抗期」との区別が難しく、教師や友人もそのように判断してしまうことがありますので注意が必要です。

【その他】
「家で寝ている時間が多い」、「授業中の居眠り」、「体育、部活動において直ぐに疲れてしまう」等、易疲労性が顕著になる場合があります。

発達障害との違いに注意が必要

発達障害とは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。

各障害には主に次のような特徴があります。

【自閉症】
コミュニケーション不良、他者への無関心、物への異常な興味関心、特徴的な抑揚の話し方等が特徴として挙げられます。

【アスペルガー症候群】
自閉症の一種ですが、「知能の遅れがない」という点で異なり、むしろ、中には優れた知能を有する人もいます。人の気持ちを理解することが苦手であったり、一方的に話してしまう等の特徴があります。

【学習障害】
様々な状態が含まれる概念ですが、日本では旧文部省により「基本的に全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指す」と定義されています。

【注意欠陥多動性障害(ADHD)】
注意障害(ケアレスミス等)、多動性障害(落ち着きがない等)、衝動性(思ったことを直ぐに発言してしまう等)を特徴とします。

【その他】
チック障害(まばたき、顔しかめの過多等)、吃音症(言葉が滑らかに出てこない等)

発達障害と高次脳機能障害の決定的な違いは、前者が生まれつきの脳機能に関する「先天性」の障害であるのに対し、後者は交通事故等の外的要因や脳梗塞等に起因する「後天性」の病態である点です。

一方、両者は「注意障害」、「遂行機能障害」、「社会的行動障害」等、病態において類似する部分が多数存在します。そのため、その見分けは医師であっても容易ではありません。重要なのは、相違点である先天性か後天性かを見分けることであり、ご家族やご友人、その他周囲の方々が変化に気付いてあげられるかどうかです。

また、交通事故においては、「受傷直後の意識障害」と「CT,MRI等の画像上における異常所見」が認められる場合は、高次脳機能障害として認定される可能性がありますので、本障害に強い弁護士や専門医に意見を仰ぐことが重要です。

事故後に症状固定は急いでおこなわないこと

子供の高次脳機能障害においては、「症状固定の時期」がとても重要な検討事項です。

子供の場合、進級・進学等の取り巻く環境の変化によって表面化する障害が変わってきます。勉強の難易度の変化や思春期特有の感情変動等、病態の把握を困難とさせる要因が多数存在しますので、その判断には慎重を期さなければなりません。

また、実施可能な検査の違いも重要です。高次脳機能障害の程度判断においては、神経心理学検査に重きが置かれますが、例えば、特に重要となる知能検査については対象年齢に制限があります。

最も一般的な「ウェクスラー式知能検査」の場合、成人用の「WAIS」の対象は16歳以上
です。子供を対象としたものとしては「WICS」(5歳~16歳)、「WPPSI」(2歳6か月~7歳)がありますが、下位検査の数等に差があり、場合によっては検査の詳細性に関して否定的な見方をされてしまうおそれがあります。

以上を踏まえ、子供の高次脳機能障害に理解のある医師の診察のもと、「急がず」、「適切な時期」に症状固定の診断を受けることがとても重要です。かかる判断に万全を期すために、子供の高次脳機能障害に詳しい弁護士のサポートを受けることをお勧めします。