交通事故後の記憶障害は高次脳機能障害?原因や症状、後遺障害等級について解説


交通事故に遭った後、「さっき聞いたことを忘れてしまう」「事故前後のことを何も覚えていない」といった記憶障害に悩まされる方も少なくありません。
一時的な記憶障害はすぐに回復することもありますが、症状が継続する場合は、脳の損傷により高次脳機能障害を発症している可能性があります。
その場合、十分な治療とリハビリを受けた上で、後遺障害認定を適切に受けることも重要となってきます。
この記事では、交通事故で記憶障害が起こる原因や、高次脳機能障害の症状、適正な後遺障害等級を獲得するためのポイントなどについて詳しく解説します。
交通事故後に記憶障害が現れる原因
交通事故後に記憶障害が現れる主な原因として、頭部外傷と精神的ストレスの2つが考えられます。それぞれについて、具体的にみていきましょう。
頭部外傷
頭部に強い衝撃を受けると、古いことを思い出せなくなる「逆行性健忘」や、新しいことを覚えられなくなる「前向性健忘」が生じやすいといわれています。
軽い脳震盪でも、逆行性健忘により事故前後のことを思い出せなくなるケースがありますが、数日程度のうちに回復することが多いです。
逆行性健忘に加えて、前向性健忘が続く場合は、高次脳機能障害を発症している可能性があります。
精神的ストレス
交通事故というショッキングな体験が強度の精神的ストレスとなり、事故の状況やその前後のことを思い出せなくなる「解離性健忘」が生じることも少なくありません。
精神的ストレスによる記憶障害でも、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病などの精神疾患を発症した場合には、後遺障害に認定されることもあります。
高次脳機能障害の症状
ここからは、頭部外傷による高次脳機能障害としての記憶障害について、詳しく解説していきます。
記憶障害の症状
高次脳機能障害の場合、主に先ほど挙げた逆行性健忘と前向性健忘の2つが生じます。
逆行性健忘では、事故より前の記憶が失われます。具体的な症状としては、次のようなものが挙げられます。
- 事故前数日間の記憶が丸ごと消えている
- 自分や家族の名前を思い出せない
- 自分の住所や電話番号が分からなくなる
前向性健忘では、事故より後に起きたことを覚えられなくなります。具体的な症状としては、次のようなものが挙げられます。
- 食事をしたばかりなのに忘れる
- 人の名前を覚えられない
- 物の置き場所を忘れる
- 約束を忘れてしまう
- 何度も同じ質問を繰り返す
記憶障害以外で注意すべき症状
高次脳機能障害では、記憶障害のみが現れることは少なく、以下のような症状のうち複数のものが重なり合って現れることがほとんどです。
| 症状の種類 | 具体的な症状の内容 |
| 注意障害 |
|
| 遂行機能障害 |
|
| 社会的行動障害 |
|
被害者本人には問題意識がない(病識の欠如)ことも多いため、家族など周囲の人が注意深く観察することも大切です。
交通事故で記憶障害が生じたときにやるべきこと
交通事故で記憶障害が生じた場合、適切な賠償金を受け取り、社会復帰を目指すためには、早い段階から適切に対処していく必要があります。
本人や家族が記憶障害に気づいたら、以下のように対処していきましょう。
医師の診察・治療を受ける
まずは、病院で医師の診察を受けなければなりません。脳神経外科や脳神経内科、リハビリテーション科、精神科など、高次脳機能障害を取り扱っている医療機関を受診しましょう。
医師の診察の際には、記憶障害だけでなく、事故直後の意識障害に関する状況も正確に伝えましょう。具体的には、事故直後に意識を喪失したり、朦朧としていたりした状況を説明することです。
また、早期にCTやMRIなどの画像検査を受け、脳内に損傷や出血がないかを確認しておくことも重要です。
その後は、主治医の指示に従って十分な治療を受けましょう。
日常生活の状況を記録していく
記憶障害をはじめとする高次脳機能障害の症状は、医師が短時間の診察だけで把握しきれるものではありません。そのため、日常生活において、どのような症状が現れたのかを継続的に記録していくことが重要となります。
その際には、家族が本人の様子を注意深く見守った上で、どのような場面で、どのような問題行動があり、日常生活にどのような支障が生じたのかを詳しく記載していきましょう。
充実した記録を残しておけば、後遺障害認定の申請時に「日常生活状況報告書」を作成する際の、有力な資料となります。
リハビリを受ける
記憶障害などの認知機能の障害は、リハビリを受けることによって、症状の軽減や代替手段(メモ帳やスマホのアラームなどを使いこなすなど)の獲得により、社会復帰の可能性を高めることができます。
主治医の指示に従って早期にリハビリを開始し、根気よくリハビリを続けるようにしましょう。
高次脳機能障害のリハビリ期間は、一般的に6ヶ月~1年程度が目安とされていますが、後遺障害が残るケースでは1年以上を要することが多いです。
後遺障害認定の申請をする
リハビリを継続し、主治医が「これ以上は改善しない」と判断したら、症状固定の診断が下されます。その場合には、後遺障害認定の申請をしましょう。
高次脳機能障害で後遺障害認定の申請をする際には、後遺障害診断書やカルテの他にも、CTやMRIなどの画像、神経学的検査の結果、医師の意見書、家族が作成した日常生活状況報告書など、提出すべき資料が数多くあります。各資料の内容によっても、後遺障害認定の結果が大きく左右されます。
そのため、保険会社に申請手続きを任せる「事前認定」によるよりも、被害者自身が資料を収集して申請する「被害者請求」によった方が、有利な結果につながりやすい傾向にあります。
記憶障害で認定される可能性がある後遺障害等級
高次脳機能障害では、記憶障害だけでなく他の障害も含めた症状全般が審査対象となり、障害の程度に応じて以下の後遺障害等級に認定される可能性があります。
ここでは、後遺障害等級の認定基準と、等級ごとの賠償金の相場をご紹介します。
高次脳機能障害における後遺障害等級認定の基準
高次脳機能障害で認定される可能性がある後遺障害等級と、各等級の認定基準は以下のとおりです。
| 後遺障害等級 | 認定基準 |
| 1級1号 (要介護) |
精神神経系に著しい障害を残し、常に介護を要する状態。食事、入浴、排泄など生命維持に必要な身の回りの処理が一人では全くできない。 |
| 2級1号 (要介護) |
精神神経系に著しい障害を残し、随時介護を要する状態。自宅内での基本的な行動はできるが、少しでも高度な行動や外出には常に誰かの付き添いや指示が必要。 |
| 3級3号 | 精神神経系に著しい障害を残し、生命維持に必要な身の回りの処理はできるが、服することができる職種が極めて限定される状態。 |
| 5級2号 | 精神神経系に著しい障害を残し、特に簡易な労務にしか服することができない状態。単純な作業であれば就労可能だが、新しい環境への適応や複雑な指示の理解はできない。 |
| 7級4号 | 精神神経系に障害を残し、軽易な労務にしか服することができない状態。職種が制限されたり、周囲の多大なサポートや配慮(マニュアルの細分化など)がなければ仕事を続けられなかったりする。 |
| 9級10号 | 精神神経系に障害を残し、服することができる職種が相当程度に制限される状態。一見普通に働けるように見えても、記憶障害や注意障害によるミスが多く、高度な業務や以前と同じポジションでの就労は困難。 |
後遺障害に認定された場合の賠償金の相場
後遺障害に認定されると、傷害に関する賠償金とは別に、後遺障害慰謝料と逸失利益も請求できます。
後遺障害慰謝料の金額は、被害者が認定された後遺障害等級に応じて、以下のとおり目安が定められています。
逸失利益は、被害者の事故前の収入や症状固定時の年齢、労働能力喪失率に応じて算出されます。労働能力喪失率は、以下の数値が目安となります。
| 後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 (自賠責基準) |
後遺障害慰謝料 (弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
| 1級1号 (要介護) |
1,650万円 | 2,800万円 | 100% |
| 2級1号 (要介護) |
1,203万円 | 2,370万円 | 100% |
| 3級3号 | 861万円 | 1,990万円 | 100% |
| 5級2号 | 618万円 | 1,400万円 | 79% |
| 7級4号 | 419万円 | 1,000万円 | 56% |
| 9級10号 | 249万円 | 690万円 | 35% |
任意保険会社は、自賠責基準とほぼ同額の後遺障害慰謝料を提示してくることが多いですが、弁護士基準より大幅に低額であるため、安易に示談をすると損をする可能性が高いです。
なお、高次脳機能障害で重度(主に3級以上)の後遺障害が残った場合は、将来の介護費も請求できる可能性が高くなります。
記憶障害で適正な後遺障害等級を獲得するためのポイント
後遺障害等級認定の審査は原則として書面のみで行われるため、記憶障害で適正な後遺障害等級を獲得するためには、症状の原因や内容を証明できる書面を準備することが最大のポイントとなります。
具体的には、まず、事故直後にどれだけの意識障害があったかを、診断書やカルテで証明することが重要です。
次に、MRIやCTなどの画像で、脳のどの部分がどの程度損傷しているかを証明することも欠かせません。
また、記憶力や認知機能の低下を客観的な数値として示すために、各種神経学的検査を受けておくべきです。
WMS-R(ウェクスラー記憶検査)は、記憶障害の有無や程度を総合的に調べるための検査として、世界的に最もよく使用されているものであり、高次脳機能障害で後遺障害認定を受けるためにも必須といえます。
ただし、WMS-Rの適用年齢は16歳〜74歳とされているため、被害者が75歳以上の場合、医療機関ではHDS-R(長谷川式認知症スケール)を勧められることもあります。しかし、記憶障害の検査としては、可能な限りWMS-Rで測定する方が望ましいです。
被害者が15歳以下の場合も、可能な限りWMS-Rによることが望ましいですが、適用不可とされる場合は、RBMT(リバーミード行動記憶検査)が適しています。
記憶障害の示談交渉で争いになりやすいポイントと対処法
ここでは、保険会社との示談交渉で争いになりやすいポイントと、それぞれのケースにおける対処法について解説します。
事故前から物忘れがあったと主張された場合
記憶障害が認められても、保険会社は、加齢による認知症や、もともとの性格による物忘れなどを主張してくることがあります。
このような場合には、事故直前まで仕事にも日常生活にも支障がなかったことを、なるべく客観的な証拠で示すことが重要です。
たとえば、職場における勤務評定、同僚や家族の陳述書、本人の事故前の日記やSNSへの投稿などが有力な証拠として考えられます。
仕事への影響はないと主張された場合
被害者が一応、元の職場に復帰した場合は、保険会社から「仕事への影響はない」(労働能力の低下が認められない)と主張されることがあります。
このような場合は、事故前後を通じた就業状況の変化を証明する必要があります。たとえば、複雑な業務から単純な軽作業に配置転換されていたり、同僚がミスをカバーしてくれるサポート体制が新たに整えられていたりすれば、労働能力の低下が認められます。
勤務先の雇い主や上司に、就業状況等質問書への記入や、陳述書の作成などを依頼するとよいでしょう。
治療費の打ち切りを打診された場合
リハビリを開始してある程度の期間が経過すると、保険会社が治療費の打ち切りを打診してくることも多いです。
しかし、症状固定の時期を判断するのは、保険会社ではなく医師です。リハビリを継続することで症状の改善が見込める状態であれば、主治医に意見書を書いてもらうなどして、保険会社と治療費支払いの継続について交渉しましょう。
強引に治療費の支払いを打ち切られた場合は、いったん自費でリハビリを継続し、後遺障害等級の認定を受けた上で、打ち切り後に立て替え払いをした治療費を請求することも考えられます。
交通事故による記憶障害で弁護士に依頼するメリット
交通事故による記憶障害で適正な後遺障害等級を獲得し、十分な賠償金を受け取るためには、高度に専門的な知識が要求されます。そのため、被害者本人やそのご家族だけで保険会社に対応するよりも、弁護士のサポートを受ける方が得策です。
弁護士に依頼すれば、まず、治療やリハビリの適切な受け方や、必要な検査などについてアドバイスが受けられますし、後遺障害認定の申請手続きもサポートしてもらえます。
後遺障害認定後は、保険会社との示談交渉を全面的に任せることができるため、労力や精神的な負担も大きく軽減されることでしょう。
示談交渉においては、弁護士基準を用いて高額の賠償金を請求してもらえますし、裁判が必要な場合も、複雑な手続きは代行してもらえます。
弁護士のサポートによって賠償金の大幅な増額が期待できますので、依頼するメリットは大きいといえるでしょう。
まとめ
交通事故後に記憶障害が生じたら、まずは医師の診察と必要な検査を受けて、原因を探る必要があります。
高次脳機能障害を発症している場合は、適切な治療とリハビリを受けた上で、後遺障害等級の認定を受けましょう。
ただし、高次脳機能障害は目に見えない障害であるため、家族が被害者本人の様子を注意深く観察することが重要です。
事故の後、本人の様子がおかしい、物忘れが多くなった、などと少しでも感じたら、専門の医療機関での受診を促すとともに、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
オールイズワンでは交通事故による後遺症を専門的に取り扱っており、特に高次脳機能障害など重大事故の解決実績が豊富にあり、絶対的な強みを持っています。記憶障害など高次脳機能障害の症状が気になる方や、そのご家族の方は、お気軽に当事務所へご相談ください。





