高次脳機能障害による逸失利益の計算方法と注意点について解説


交通事故で頭部に衝撃を受けると高次脳機能障害を発症し、その後の仕事や日常生活にさまざまな支障をきたすことがあります。そんなときは、逸失利益を適切に請求し、障害の程度に見合った賠償金を受け取ることが重要です。
この記事では、高次脳機能障害による逸失利益の計算方法や、適正な逸失利益を獲得するための注意点などについて詳しく解説します。
逸失利益とは
逸失利益とは、将来得られたはずであるのに、後遺障害が残ったために得られなくなってしまった利益(収入)のことです。
交通事故による怪我が完治せず後遺障害が残ると、通常、後遺障害の影響で労働能力が制限されます。そのため、被害者は加害者に対して、労働能力が制限された程度に応じて、逸失利益を請求できます。
逸失利益の計算方法
後遺障害による逸失利益の金額は、次の計算式によって算出されます。
基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
したがって、逸失利益を正しく計算するためには、基礎収入額・労働能力喪失率・労働能力喪失期間のそれぞれを適正に見積もることが必要不可欠です。この3つの要素を正しく見積もるためのポイントは、次章で詳しく解説します。
高次脳機能障害における逸失利益の重要性
交通事故で高次脳機能障害を発症した場合の逸失利益は、むちうちによる神経障害など他の後遺障害と比べて高額になりやすいという意味で、極めて重要です。
高次脳機能障害を発症すると、記憶力や注意力などの認知機能に障害が生じ、社会的行動に支障が生じるため、重度のケースでは全く就労できなくなります。比較的軽度のケースでも、複雑な業務や人間関係の構築が困難となり、事故前と同じようには働けなくなることが多いです。
その場合、逸失利益の金額は数千万円から、場合によっては1億円を超えることも珍しくありません。
言い換えると、適正な金額の逸失利益を受け取ることができなければ、巨額の損失を被ったまま泣き寝入りすることにもなりかねないことに注意が必要です。
高次脳機能障害の逸失利益が争いになりやすい理由
高次脳機能障害は外から見えない障害であるため、周囲に見過ごされたり理解されにくかったりしがちであり、保険会社との示談交渉において争いになりやすいのが実情です。
重度のケースは別として、被害者も一見すると普通に会話できたり行動できたりすることから、保険会社から「就労に支障はないはずだ」などと主張されて逸失利益を否認されたり、逸失利益が認められたとしても少額の提示にとどまったりするケースが少なくありません。
重度のケースでは、逸失利益が非常に高額になることが多いため、保険会社の対応もシビアになりがちです。具体的には、後でご説明するように労働能力喪失期間を不当に短く見積もったりして、少しでも支払額を抑えようとするケースが数多く見受けられます。
保険会社の不当な主張を真に受けると大きな損失を被ってしまうため、注意が必要です。
高次脳機能障害で逸失利益を計算する際のポイント
ここでは、高次脳機能障害で逸失利益を計算する際に注意すべきポイントについて、基礎収入額・労働能力喪失率・労働能力喪失期間の3つの要素ごとに解説します。
基礎収入額
基礎収入額は、基本的に事故前年の被害者の年収となります。源泉徴収票や給与明細、確定申告書の控えなど、年収額を証明できる資料を準備することが重要です。
主婦や主夫(家事労働者)の場合は、賃金センサスという統計データを用いて、女性労働者の平均賃金額を基礎収入額とするのが一般的です。兼業主婦・兼業主夫の場合は、実収入と統計上の平均賃金額の高い方を基礎収入額とします。
幼児や生徒、学生などの未就労者の場合も、統計上の平均賃金額を基礎収入額とします。
高齢者についても、就労する見込みが高かったと認められる場合には賃金センサスを用いて、年齢に応じた平均賃金額を基礎収入額とすることがあります。しかし、年金のみで生活している高齢者の場合は、後遺障害が残っても減収がないため、逸失利益は認められません。
労働能力喪失率
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて目安が定められています。高次脳機能障害で認定される可能性がある後遺障害等級と、等級ごとの労働能力喪失率は以下のとおりです。
| 後遺障害等級 | 労働能力喪失率(%) |
| 1級1号(要介護) | 100 |
| 2級1号(要介護) | 100 |
| 3級3号 | 100 |
| 5級2号 | 79 |
| 7級4号 | 56 |
| 9級10号 | 35 |
| 12級13号 | 14 |
| 14級9号 | 5 |
ただし、これらの数値はあくまでも目安であり、被害者の職種や具体的な状況により、労働能力喪失率が変わってくることもあります。
たとえば、主婦や主夫の家事労働について、保険会社が「家事はマイペースでできるので、大きな支障はないはずだ」などと主張し、労働能力喪失率を低く見積もることも少なくありません。
しかし、高次脳機能障害によって家事労働にも以下のような支障が生じます。
| 障害の種類 | 主な症状 | 家事への支障 |
| 記憶障害 | 新しいことを覚えられないなど | 洗濯物を干したまま忘れて放置するなど、家事の失敗ややり直しが多くなる |
| 注意障害 | 一つのことに集中できないなど | 物音や家族の声に気を取られて作業が進まない、掃除の際に汚れを見落とすなど、家事の効率が落ちる |
| 遂行機能障害 | 順序立てて行動できないなど | 調理の手順を誤るなど、それまで通りに家事ができなくなる |
| 社会的行動障害 | 感情のコントロールが難しくなる、状況に合わせた行動がとれないなど | 家族とのコミュニケーションが円滑にとれなくなり、家事で家族の協力を得ることも難しくなる |
労働能力喪失率を適正に見極めるためには、仕事や家事にどのような支障が生じているのかを具体的に把握することが重要です。
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、基本的に被害者の症状固定時の年齢から67歳までの年数となります。
ただし、18歳未満など年少の被害者の場合は、労働能力喪失期間を49年(67歳-18歳)とするなどの調整が行われます。
また、概ね52歳以上の被害者の場合は、簡易生命表に基づく平均余命の1/2期間を労働能力喪失期間とするのが一般的です。
高次脳機能障害の逸失利益で争いになる主なケース
ここでは、高次脳機能障害の逸失利益について、特に争いになりやすいケースと対処法をご紹介します。
減収がない場合
後遺障害が残っても現実に収入が減少していない場合は、基本的に逸失利益は認められません。
しかし、裁判例では、次のような事情がある場合に、逸失利益が認められたケースが数多くあります。
- 昇給や昇格が遅れるなど、将来のキャリアアップや賃金上昇に悪影響が見込まれる場合
- 将来転職する際に不利な条件になるリスクがある場合
- 職場で周囲のサポートや特別な配慮によって収入を維持できている場合
- 痛みを我慢したり、時間を余計にかけたりして業務をこなしているなど、本人の特別な努力によって収入を維持している場合
保険会社との示談交渉や裁判では、具体的な事情を主張・立証することが重要です。
労働能力喪失期間を短縮された場合
重度の高次脳機能障害で被害者が寝たきりになったケースなどでは、保険会社から「健常者より生存期間が短いはずだ」などとの理由で、労働能力喪失期間の短縮を主張されることも多いです。
しかし、そもそも事故で後遺障害を負わなければ生存期間が短くなるとは考えられないため、このような主張は不当です。裁判例でも、通常どおりの労働能力喪失期間を認めたケースが数多くあります。
保険会社との示談交渉や裁判では、類似の事案における裁判例を示し、適正な労働能力喪失期間を主張することになります。
後遺障害等級に納得できない場合
何級の後遺障害に認定されるかによって労働能力喪失率が異なるため、逸失利益の金額も大きく変わってきます。そのため、適正な後遺障害等級を獲得することは非常に重要です。
既に認定された後遺障害等級に納得できない場合は、異議申立てをして再審査を求めることができます。
高次脳機能障害の後遺障害審査では、以下のポイントが重視されますので、異議申立ての際には不足している医学的証拠を補充することが極めて重要です。
- MRIやCTの画像で脳の損傷が確認できるか
- カルテや救急記録などで事故後に意識障害が生じたことが確認できるか
- 神経心理学的検査で認知機能の低下が認められるか
- 日常生活状況報告書で仕事や生活上の支障が具体的に証明できているか
- 医師の意見書で症状の原因が説明されているか
高次脳機能障害の逸失利益の計算例(シミュレーション)
それでは、いくつかの例を挙げて、実際に高次脳機能障害の逸失利益を計算してみましょう。
| 被害者のケース | 逸失利益の金額・計算式 |
| 35歳男性 会社員 基礎収入額:600万円 後遺障害等級:5級2号 労働能力喪失率:79% 労働能力喪失期間:32年 ライプニッツ係数:20.389 |
6,000,000円×0.79×20.389 =96,643,860円 |
| 45歳女性 専業主婦 基礎収入額:4,370,700円(女性労働者全年齢平均賃金) 後遺障害等級:9級10号 労働能力喪失率:35% 労働能力喪失期間:22年 ライプニッツ係数:15.937 |
4,370,700円×0.35×15.937 =24,379,546円 |
| 10歳女児 基礎収入額:5,455,600円(全労働者平均賃金) 後遺障害等級:3級3号 労働能力喪失率:100% 労働能力喪失期間:49年 ライプニッツ係数:20.131 |
5,455,600円×1×20.131 =109,826,684円 |
以上のシミュレーションは、裁判基準による計算例です。いずれのケースでも、保険会社は独自の基準を用い、不当に低額の逸失利益を提示してくる可能性があります。保険会社の言うことを鵜呑みせず、逸失利益を正しく算出して請求しましょう。
適正な逸失利益を獲得するための注意点
適正な逸失利益を獲得するためには、次の3つのステップのそれぞれにおいて、いくつかの注意点があります。
- ①後遺障害等級の認定申請
- ②逸失利益の算出
- ③保険会社との示談交渉
後遺障害等級の認定申請の手続きは、保険会社に任せる事前認定の方法によるよりも、被害者自身が行う被害者請求によった方が、医学的証拠を豊富に提出できるため、有利な結果が得られやすくなります。
逸失利益の算出方法や注意点については、これまでの解説をご参照ください。
示談交渉では、保険会社が支払額を少しでも抑えようとして、不当に低い金額を提示することが多い傾向にあります。正当な金額を主張して粘り強く交渉することが大切ですが、保険会社も簡単には譲歩しないため、弁護士に依頼して裁判を起こすことも視野に入れた方がよいでしょう。
高次脳機能障害で逸失利益の請求を弁護士に依頼するメリット
高次脳機能障害による逸失利益の請求を弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。
- 後遺障害等級認定の申請をサポートしてもらえる
- 逸失利益を正しく算出して請求してもらえる
- 保険会社の不当な主張に対して法的に反論してもらえる
- 示談交渉を全面的に任せることができるので、家族の精神的負担が軽減される
- 慰謝料など他の賠償金も弁護士基準で請求してもらえるので、賠償金の大幅な増額が期待できる
- 裁判が必要となった場合も複雑な手続きを代行してもらえる
逸失利益に限らず、弁護士には損害賠償請求の手続きを全面的に任せることができ、示談交渉や裁判を有利に進めることが期待できるのです。弁護士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。
まとめ
高次脳機能障害による逸失利益の金額は、被害者が認定された後遺障害等級と、事故前の収入、症状固定時の年齢によって決まります。
保険会社が不当な主張をしてくることもありますが、そのときは、仕事や家事に支障が生じている状況を具体的に主張・立証したり、医学的証拠を補充したり、裁判例を踏まえて法的な反論をすることになります。
適正な金額の逸失利益を獲得するためには、高度に専門的な知識が要求されるため、弁護士のサポートを受けることで良い結果につながるケースが多いです。
オールイズワンでは交通事故による後遺症を専門的に取り扱っており、特に高次脳機能障害など重大事故の解決実績が豊富にあり、絶対的な強みを持っています。
高次脳機能障害による逸失利益など賠償問題でお困りの方は、お気軽に当事務所へご相談ください。






