事故に遭った10歳の小学生について、交渉上、高次脳機能障害12級の認定を受け、1,088万円で示談解決した事案

事故に遭った10歳の小学生について、交渉上、高次脳機能障害12級の認定を受け、1,088万円で示談解決した事案

後遺障害内容・部位 高次脳機能障害
診断名・症状名 脳挫傷、急性硬膜下血腫、側頭骨骨折
後遺障害等級 12級13号
主な自覚症状

オールイズワンに後遺障害等級認定・示談交渉サポートを受ける前と
受けた後の違い

ご依頼の経緯

1.事故態様について

 本件は、片側一車線道路を横断しようと歩道から車道上に進行した被害者に、当該車線上を進行して来た加害車両が衝突したというものです。

本件のような事故態様の場合、基本過失割合は車70%、歩行者30%とされています。しかしながら、本件被害者は当時10歳に満たない小学生であり、また、本件事故現場は住宅街であったことから、被害者の過失は30%では大きすぎるであろうと考えられました。

 そこで、当職は、本件の過失割合の判断にあたっては修正要素の適用が必要な旨を強く主張し、最終的に被害者の過失を10%下げることに成功しました。

結果(後遺障害部分)

 

2.後遺障害について

 本件被害者は、事故受傷直後にJCSでⅡ-30(痛みや刺激、呼びかけを続けることで辛うじて開眼する状態です。)と判断される意識障害を呈し、その後意識清明となるまでに約1日を要しました。そして、それ以降、高次脳機能障害の諸症状と思われる症状を発症し、1年7か月ほどの治療期間を経て症状固定と診断されるに至っています。

 

 高次脳機能障害の後遺障害審査では、主に「受傷直後の意識障害の程度」、「画像上の脳損傷所見の有無」、「知的機能の低下の程度」が見られます。本件でもこれらの要点を中心に審査がなされることになりますが、本件被害者の場合、いずれの点においても難しい部分がありました。

 

 まず、意識障害については、重篤な高次脳機能障害を呈するケースと比べて、その期間が短いと思われました。また、画像所見については、明らかに重篤な損傷があるとはいえない状態でした。さらに、知的機能については、そもそも若年層、特に小学生以下については、その判断が非常に難しいという前提があります。

 

 このような条件下でしたが、当職は、画像所見については一見わかりにくい異常所見も余すことなく書面にご記載いただけるよう、医師に掛け合いました。また、知的機能については、ご家族及び学校の先生に協力をお願いし、事故前後の生活状況に関する変化をできる限り詳細に書面に書き起こすことで、審査機関に実情を訴えました。

 

 しかし、審査機関は、脳挫傷痕があることなどを捉えて12級を認定したものの、高次脳機能障害についての等級該当性は、意識障害が長期継続したものとはいえないことなどを根拠として否認しました。

示談交渉の経緯

 

3.示談交渉について

 こうなれば、交渉で何とかする他ありません。本件では、被害者が症状固定の時点で10歳であり、賠償金が今後の長い将来に備えるためのものであることを踏まえ、示談交渉に臨む必要がありました。その上で交渉時の要点となったのは、既に触れました過失割合と後遺障害逸失利益です。

 

 交通事故における後遺障害逸失利益は、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式により算出するのが原則とされています。このうち、非常に争点となりやすいのは基礎収入です。

 

基礎収入については、原則として実際の収入額をベースにします。しかしながら、被害者が18歳未満であったり、大学卒業前の学生等未就労者である場合には、現実の収入をベースとすることができないため、年齢や学歴ごとに算出された平均賃金や被害者のポテンシャル等を考慮し定めることになります。

 

 本件被害者はまだ10歳の児童であったため、男性学歴計全年齢平均の賃金額を基に請求しました。

 

 また、被害者の方には、それほど著明な症状ではなく事故前とそれほど大きくは変わらない日常生活を送ることができていましたが、注意障害、社会行動障害、記憶障害、遂行機能障害等諸処の表れと見られる高次脳機能障害の各症状がありました。

 

 これらの点を、後遺障害等級申請の際に準備した医学的意見書や日常生活状況報告書、意識障害所見書などをもとに丹念に主張し、後遺障害逸失利益の認定を受けることに成功しました。

 

 高次脳機能障害の等級が否定された場合、通常、後遺障害逸失利益の認定を得ることは非常に困難であり、裁判所もほとんど認めてくることがありません。背水の陣で挑んだ結果、大きな成果を得た交渉でした。

 

所感、争点

 

4.結び

 小学生の高次脳機能障害については、その子が今後成長することにより良くも悪くも大きな変化が想定されます。そのため、「症状固定の時期は、本当にこのタイミングで良いのか」、「幼少ゆえに顕在化しておらず、見落としてしまっている症状、障害はないか」等、どの子のケースでも非常に思い悩みます。審査を担当する損害保険料率算出機構・自賠責損害調査事務所においても、やはり特に判断が難しい事案として考えているところがあるようです。オールイズワンでは、できる限りベストなタイミングで、被害者となってしまった子の実情を漏れなく伝えるべく、今後も全力を尽くしたいと思っております。

 

 本件では結局、自賠責保険の答えは、高次脳機能障害ではないというものでした。被害者となったお子さんに明らかに症状が認められるのに、障害としての認定を否定する後遺障害等級認定制度そのものや、同制度に基づく等級認定結果を大前提として進んでいく昨今の裁判のあり方をどうにかしたいと思っている弁護士も少なからずいると思います。

このような後遺障害等級認定制度を含む交通事故損害賠償の世界は、後遺障害等級の認定を受けることができないと、如何に我が子が事故で障害を負い苦しんでいても、その精神的苦痛が賠償金として反映されることの困難な世界であり、被害者とそのご家族の目にはとても非情な世界と映ります。無論、私にとってもそうです。

 他方で、今、事故による障害に苦しむ方々を前にして、制度が悪かったから仕方がないと諦めるわけにはいきません。この件も、一歩間違えば100万円を割り込むような認定しか得られないこともあり得た事案でした。

 背水の陣で臨んだ交渉では、医証に基づく徹底的な交渉を展開し、見事、後遺障害逸失利益の認定を得て、賠償金も1,000万円の大台に乗せることができました。

 

被害に遭った小学生のお子さんが、今後、この障害を乗り越え元気に成長してくれることを願うばかりです。また、今回の事故解決がその成長を少しでも後押しできれば、弁護士としてこの上なく嬉しく思います。