死亡事故の逸失利益と計算方法について解説

死亡事故の逸失利益と計算方法について解説

死亡事故によって突然命を奪われてしまった被害者のご家族は、加害者の保険会社に対して損害賠償を請求することができます。死亡事故の損害賠償請求の項目の中でも問題となることが多いのが「逸失利益の計算」です。

逸失利益は被害者の方の年齢、学歴、職業などによって計算方法は異なり、複雑な計算が必要です。この記事では、死亡事故の逸失利益と計算方法について詳しく解説していきます。

また、死亡逸失利益では基礎収入によって金額が大きく変わります。裁判で逸失利益の基礎収入が認められた事例についてもご紹介しますので、参考になさってください。

死亡事故の逸失利益とは

死亡事故の逸失利益とは、「死亡事故によって失われてしまった、将来的に得られたはずの利益」を指します。つまり、死亡事故の損害賠償請求では、死亡事故に遭わなければ得られたであろう給与・収入などを請求できるということです。

なお、逸失利益は、被害者の方の交通事故前における基礎収入をベースに、後遺障害を負ったことでどれだけ労働能力が落ちたか(労働能力喪失率)、及び、今後何年間に亘り労働能力が低下した状態が続くか(労働能力喪失期間)を掛け合わせることで算出されます。

死亡事故の場合、労働能力喪失率は100/100となります。

死亡事故の逸失利益の算定方法

死亡事故の逸失利益は、次の計算式により算出します。

『基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数=逸失利益』

以下、死亡事故の逸失利益に関する用語や計算方法について解説していきます。

基礎収入とは

基礎収入とは、原則として交通事故前の「実際の年収」です。この年収額を基に逸失利益を計算するため、基礎収入は逸失利益算定のベースとなります。

なお、未就労者の就労開始時期は原則18歳とされ、大学等の卒業を前提とする場合には卒業年次を考慮します。

基礎収入は基本的に事故前年の年収を基にしますが、被害者の収入の変動が激しい場合は事故から2年以上前の収入や平均額を用いることもあります。

基礎収入の算定や証明は、職業によって異なります。基礎収入の算定・証明の方法を職業別に分けて見ていきましょう。

給与所得者

会社員やパート、アルバイト等、会社が毎月の給与やボーナスから源泉徴収している方は給与所得者に該当します。給与所得者は、事故前年の源泉徴収票を基に基礎収入を算定します。

また、被害者の収入が世間一般の平均収入(年収)を下回っている場合でも、将来的に現収入以上の収入が見込まれることを立証できる場合は、厚生労働省の調査により労働者の年齢層別の平均収入がまとめられた「賃金センサス」を基に基礎収入を算定する等の方法が考えられます。

事業所得者

個人事業主・自営業者など、事業で収入を得ている方は事業所得者に該当します。原則として、事業所得者は事故前年の確定申告書を用いて所得の証明と基礎収入の算定をします。

なお、収入として認められるのは、原則として、「所得金額」に事業専従者控除額や青色申告特別控除額を加えたものから所得税・住民税・事業税を差し引いて計算された金額です。

年金受給者

年金収入(老齢年金・障害年金等)も死亡事故に遭わなければ失うことはありませんので、当然、所得として認められます。年金収入で認められる逸失利益は「平均余命年数」までの年金収入の年収額となります。

無職

実質的な収入がない無職の方でも、労働の意欲や能力があれば逸失利益が認められる場合があります。具体的には、死亡事故の被害者が就労可能年数までの年齢で健康な方の場合は認められる可能性があります。被害者が無職の場合の逸失利益は賃金センサスを基に算定します。

ただし、病気等で長期間就労していなかった場合や定年退職後に求職していなかった場合は就労蓋然性が認められないため、逸失利益は認められません。

未成年者・学生(大学生)

死亡事故の被害者が就労を開始していない学生の場合でも、将来は職に就くことが一般的ですので逸失利益が認められます。未成年者は賃金センサスの平均賃金を用いて計算しますが、未成年者の場合は「学歴・性別」によって基準が異なります。

賃金センサスによる平均賃金には「中卒」、「高卒」、「高専・短大卒」、「大学・大学院卒」と「全学歴の平均資金(学歴計)」の5種類があり、男性・女性で区別されています。

未成年者・学生の基礎収入は、大学・大学院卒の「男性」が最も高額となります。未成年者・学生の場合、学歴が高くなるほど高額となりますが、基本的に高校生以下の方が被害者の場合、学歴計を採用します。

また、その場合は、就労開始の18歳から計算することになり、大学・大学院卒の場合は22歳から計算することになります。

生活控除費

生活費控除とは、死亡しなければ得られたはずの収入を計算する逸失利益とは対照的に、生きていれば消費したはずの生活費等の経費を控除することです。

控除する割合を「生活費控除率」といい、収入から生活費控除率に従って算定される金額を差し引き基礎収入額とします。交通事故では、一般的な目安として下表のように生活費控除率が定められています。ただし、これは一つの目安として考えられているもので、絶対ではありません。

なお、年金受給者の場合、年金は一般的に生活費に費やされる割合が高いと考えられているため、生活費控除率は40~50%(場合によっては60%)と以下の表よりも高めに設定されることが多くあります。

もっとも、年金以外にも収入がある場合は、年金が生活費に費やされる割合は高くないと判断されることが多く、生活費控除率が異なる場合もあります。

生活控除率

一家の支柱・被扶養者1人の場合 40%
一家の支柱・被扶養者2人以上の場合 30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 30%
男性(独身、幼児等を含む)の場合 50%

就労可能年数とライプニッツ係数(中間利息控除係数)

就労可能年数は、実務上、その終期を「67歳まで」として扱うのうが原則です。死亡事故における労働能力喪失期間も67歳までとするのが一般的です。

死亡事故の被害者が67歳に近かった場合、「平均余命の2分の1」が就労可能年数として認められることがあります。

逸失利益の計算では、この就労可能年数そのものではなく、以下に述べる中間利息控除係数(ライプニッツ係数)を使用します。

ライプニッツ係数とは中間利息控除の計算に用いる係数の一つです。交通事故の損害賠償では、将来的に発生する損害額が一時金として支払われるため、その後本来の支払い時期までに利息が付くことになります。

この本来得られないはずの利息部分は控除する必要がある、というのが中間利息控除の考え方です。民法で定められている、将来利息から控除すべき年5%の中間利息(2020年4月1日からは民法改正により年5%から年3%に変更)を差し引きするため中間利息控除率ともいいます。

なお、中間利息控除の計算にはライプニッツ係数(複利計算)とホフマン係数(新ホフマン係数:単利計算)の2種類がありますが、交通事故の損害賠償請求ではライプニッツ係数を採用します。

ライプニッツ係数は以下の国土交通省のホームページより確認することができます。

国土交通省:労働可能年数とライプニッツ係数

死亡事故の逸失利益の基礎収入の事例

死亡事故の逸失利益は、事故前の基礎収入をもとに金額が算出されます。そのため、逸失利益の計算では基礎収入は極めて重要になります。

例えば、実際の収入が賃金センサスの平均以下の人の場合、逸失利益は少なくなりますが、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それが認められるケースもあります。

交通事故では、加害者(保険会社)が逸失利益を低く計算して提示することがありますが、交通事故に強い弁護士に相談して、適正な算出と相手側との交渉が求められます。

ここでは、民事交通事故訴訟【損害賠償額算定基準(赤い本)】より、裁判で逸失利益が認められたケースをご紹介します。ご家族の事故のケースに照らし合わせてご参照ください。

給与所得者の事例

給与所得者の場合、「原則として事故前の収入を基礎として算出する。現実の収入が賃金センサスの平均額以下の場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、それを認める。」としています。

居酒屋アルバイト(女・19歳)につき、当時の現実の収入が必ずしも多額でないのは、モデルを目指しつつ、居酒屋でのアルバイト勤務に従事していたことによるものであるとして、賃セ全労働者学歴計全年齢平均470万9300円を基礎とし、48年間生活費控除率45%で認めた(東京地判平26.3.28 交民47・2・468)

会社員(男・26歳)につき、事故前年給与収入が180万円前後で男子学歴計全年齢平均賃金を得られる高度の蓋然性はないとする被告の主張を排斥し、26歳と若年者であり、勤務先での勤務を続ければ、将来的に生涯を通じて学歴計・全年齢平均賃金を得られる蓋然性が認められるとして、基礎収入を賃セ男性学歴計全年齢平均549万4300円、生活控除率を50%として認めた(大阪地判令3.2.26 自保ジ2094・116)

事業所得者の事例

事業所得の場合、「自営業者、自由業者、農林水産業者などについては、申告所得を参考にするが、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額を基礎とする。」としています。また、所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄与部分の割合によって算定する。」としています。

専門学校中退の内装工(男・27歳)につき、申告所得額は346万円余であるが、内装業代金振込額が年間700万円以上あったことから平均賃金を得る蓋然性が高いとして、賃セ男性学歴計全年齢平均547万円8100円を基礎とした(大阪地判平18.6.16 自保ジ1668・20)

土木建設業(男・37歳)につき、確定申告における事業収入は548万円余だが、領収書に基づいて557万円余を認めたうえで、将来的な収入増加及び経費効率化の可能性などから経費を2割として控除した446万円余を基礎とした(さいたま地判平19.11.30 交民40・6・1558)

会社役員の事例

会社役員の場合、「会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は許容されるが、利益配当の実質をもつ部分は消極的である。」としています。

父親経営会社の役員(男・26歳)につき、被害者が立ち上げた新規部署の利益率は高水準で被害者の貢献に依るところが相当程度あったこと、被害者が営業、倉庫業務といった日常業務にも携わっていたことなどを考慮し、当時の役員報酬1824万円の7割の1276万円余を基礎した(大阪地判平28.11.29 交民49・6・1389)

会社代表者(男・61歳)につき、就労期間を平均余命の2分の1(10年間)とし、このうち4年間は、いわゆる雇われ社長でることから収入(月額110万円)全額を労働の対価として基礎に、以降の6年間は賃セ大卒男性65歳以上平均を基礎とした(東京地判平15.3.27判タ1135・232)

家事従事者の事例

家事従事者の場合、「賃金センサスの企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とする。また、有職主婦の場合、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定する。家事労働分の加算は認めないのが一般的である。」としています。

女性(34歳)につき、子育てのため事故の約3年前に看護師を退職したが復職準備中であり、復職すると退職前年の年収額の90%相当額である443万円余を得る蓋然性が認められるとして、これを基礎に33年間認めた(神戸地判平29.9.14 交民50・5・1168)

夫と二人暮らしの健康な主婦(女・72歳)につき、年齢相応の家事労働を行なっていたとして、賃セ女性学歴計70歳以上平均317万円余を基礎とし、生活費控除率30%で9年間認めた(さいたま地判例2.3.27 交民53・2・516)

無職者の事例

無職者の場合、「賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とする。なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合がある。」としています。

看護専門学校性(女・18歳)につき、卒業前は事故前年度のアルバイト収入53万円余、卒業後は、賃セ女性看護師企業規模計全年齢平均478万円4700円を基礎として、生活費控除率30%で認めた(さいたま地判例令2.3.24 交民53・2・439)

大学3年生(男・21歳)につき、教育学部数学専攻であり、教師を目指し、教育実習に行くことが決まっていたこと等から教師の職に就く蓋然性が高かったとして、賃セ教育、学習支援業・企業規模計・男性大卒全年齢平均738万4600円を基礎とした(東京地判平31.3.26 交民52・2・358)

失業者の事例

失業者の場合、「労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められる。再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合特段の事情のない限り失業前の収入を参考とする。但し、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによる。」としています。

高校卒業後勤務した会社を退職し、事故翌日からアルバイト開始予定だった18歳男子につき、高校卒業後で将来どのような仕事に就くか分からない若者のため、統計を用いての推認方法をとらざるをえないが、それでも不確定な要素が余りにも多いため、かなり大きな範囲の統計的平均数値を用いるとした上で、賃セ男性学歴計全年齢平均524万円1000円を基礎とした(大阪高判平28.10.26 自保ジ1990・70)

事故当時無職者(男・65歳)につき、事故の2ヶ月前まで40年間教職についており、退職後も求職活動を行なっていたことや年齢から就労の意思と能力を認め、事故前年の収入282万円余を基礎に、生活費の相当部分は年金を充てる蓋然性を認め10年間生活費控除率40%で認めた(神戸地判平29.12.20 交民50・6・1524)

年金収入・恩給収入の事例

年金収入・恩給収入の場合、「高齢者の死亡逸失利益性については、年金の逸失利益性が問題となる。」としています。

大卒大手企業会社員(男・43歳)につき、老齢年金の逸失利益は否定したが、退職年金については平成10年から12年までの同社の退職者の平均の6割を基礎に認め、生活費控除率は老齢年金の支給もあることから40%で認めた(東京地判平15.12.17 交民37・6・1489)

会社員(男・50歳)につき、加入期間が25年(300ヶ月)にわずかに満たない298ヶ月だったことに鑑み、老齢基礎年金及び老齢厚生年金の死亡逸失利益を認め、就労中は支給停止となることから67歳までは否定し、67歳から81歳まで生活費控除率60%で認めた(大阪地判平27.11.17 交民48・6・1382)

死亡事故における適正な賠償金を獲得するためには弁護士への依頼が必須

死亡事故で請求できる賠償金には、逸失利益の他にも、後遺障害慰謝料、ご家族(遺族、近親者)の精神的苦痛に対する慰謝料、葬儀関係費があります。

死亡事故の損害賠償請求で知るべきは、保険会社は被害者のご家族に対して適正な賠償金を提示することはほとんどないということです。これは最低限の補償を目的とした自賠責保険に請求した場合も同様です。

交通事故の慰謝料計算の基準には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判所基準)の3種類がありますが、この中では弁護士基準が最も高額で適正な慰謝料を獲得できます。

慰謝料が高額になる死亡慰謝料の場合、自賠責基準・任意保険基準と弁護士基準を比べると最終的な損賠賠償額に3倍以上の差がつくケースもあります。ご家族の方は、必ず弁護士基準で損害賠償請求をしましょう。
死亡事故による賠償金の平均はどのくらい?慰謝料を増額するために遺族ができることとは

ただし、一般の方が保険会社と交渉して弁護士基準の賠償金を獲得するというのは困難です。弁護士基準で死亡事故の慰謝料請求をするためには、必ず弁護士に依頼する必要があるということを憶えておきましょう。

また、保険会社は逸失利益においても、自社に都合の良い計算方法で算出することがあります。交通事故に強い弁護士ならば、保険会社が提示する逸失利益の計算方法についても、精査をおこない再計算により、誤りを正すことができます。

死亡事故の場合、逸失利益は高額になるケースが多いため、必ず弁護士に依頼することをおすすめします。

まとめ

今回は、死亡事故の逸失利益と計算方法について解説しました。死亡事故の逸失利益は、現在の年収だけでなく将来的に得られる収入の計算も必要で複雑です。

それもあって、保険会社独自の計算によって逸失利益が過小に算出されるケースがあります。

無念にも死亡事故に遭われた被害者の逸失利益を適正に算定し、適切な賠償金を獲得できるかは、残されたご家族の行動にかかっています。

まずは、交通事故に強い弁護士の無料相談を利用して今後の方向性を確認してみませんか。

弁護士法人オールイズワンは、死亡事故に多くの経験と実績があります。逸失利益・損害賠償請求でお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。